その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

入山 章栄 『世界の経営学者はいま何を考えているのか―知られざるビジネスの知のフロンティア』

2013-01-22 01:44:30 | 


 久しぶりにユニークで興味深いビジネス書に出会いました。アメリカのビジネススクールで助教授を務める日本人経営学者が、米国の経営学の旬のテーマを実に分かりやすく紹介してくれています。

 また、その前段として、日本の経営学のアプローチ(ケーススタディによる帰納的アプローチ)が欧米の経営学のそれ(演繹的アプローチ)と異なっていることや、日本で一般に経営学として受け止められているドラッガーが欧米では殆ど扱われていないことや、ポーターが欧米のビジネススクールにおける経営学を如何に乗り越えているかを記しています。

 平易な語り口ですが、内容は奥深く、とても示唆に富むものです。もう10年以上前になりますが、私の米国大学院での経験に照らしても、日米の社会科学に対するアプローチの違いは極めて明確でした。アメリカの大学院は、社会科学分野でも仮説設定→実験(サーベイ)→検証のプロセスの繰り返しで、このフォーマットを追ってないと相手にされません。ある意味、形式はとても機械的ともいえるもので、味気ないと思うこともしばしばですが、彼らに言わせるとこれが「科学」としての「真理の追求」らしいです。

 また、本書では今のビジネススクールで旬な10以上のテーマとその概略が紹介されてますが、どれも記述が分かりやすく、「私もこの分野もう少し勉強してみようかしら」と興味をそそる内容です。私個人としては、第4章「ポーターの戦略だけでは、もう通用しない」、第7章「イノベーションに求められる「両利きの経営」とは」が興味深かったです。

 まとめてしまうとつまらないのですが、第4章は、ライバルとの競争を避けるための戦略であるポーターの競争戦略論は「守りの戦略」であり、近年ではその競争優位の持続は難しい。ハイパー・コンペティションの時代には積極的な競争行動による「攻めの戦略」の重要性が増していることを紹介してくれています。

 そしえ、第7章では「イノベーションの停滞を避けるために、企業は組織としての知の探索(explororation)と深化(exploitation)のバランスを保つ「両利きの経営」を進め、コンピテンシートラップ(事業に成功している企業は、知の深化に傾斜しがちで、知の探索をなおざりにしやすいこと)を避ける戦略・体制・ルール作りを進めることが重要」というのです。

 本書は、米国の研究動向を簡易に紹介しているのですが、それはまさしく「日本の経営学は日本企業や日本経済の再生にどう貢献できるのか?」というとても現実的ですが根っこにかかわる挑戦状を日本の経営学者に投げつけていることに他ならないと思います。こうした経営書(本書自体は経営書ではありませんが・・・)が出てこないこと自体が、日本の経営学のガラパゴス化を示しているとも言えます。
コメント
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