その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

東京交響楽団/ 大友直人 指揮/ オペラ「万葉集」

2013-01-19 18:58:51 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)
 この日の午後は特に予定が無く、当日券狙いでオペラシティコンサートホールに行きました。プログラムのオペラ「万葉集」というのに魅かれたためです。このオペラはもちろんのこと、東響のコンサートも、指揮の大友直人さんも初めてだったので、初物づくしです。

 コンサートの前に、指揮の大友直人さん、台本の黛まどかさん、作曲の千住明さんが舞台に上がって、プレトーク。作品の背景や誕生のいきさつを紹介してくれました。もともと大友氏が東京文化会館の音楽監督だった時に、小劇場向けのオペラとして委嘱したものを、今回はそれをフルオーケストラバージョンにした作品とのこと。万葉集の歌を引用しながら、当時の額田王、鑑王女、中大兄皇子、大海人皇子の恋の物語を描いた「明日香風編」と大津皇子、大伯皇女の愛と政争に破れた大津皇子を失った民の嘆きを歌った「二上挽歌編」の2編で構成されます。大友氏によると「こうした現代物の企画は客が入らないので、最初は東響から難色を示されたが、幸い今日は完売」(笑)とのこと。

 そして、そのコンサートは、音楽と言葉と歌唱が絶妙のバランスでコラボされた素晴らしいものでした。千住さんの音楽は、耳に優しいドラマティックな音楽です。なんかNHK大河ドラマの音楽にありそうだなあと思ったら、千住さんは以前「風林火山」の作曲をしているのですね。東響の演奏もハーモニーが美しい。まさに万葉絵巻を音楽に書き換えたと言う感じです。黛さんの台本は、万葉の歌を引きつつ、ドラマティックな恋物語を展開させます。そして、東響コーラスの合唱が素晴らしい。ホール一杯に心洗われる声が響き渡りました。独唱陣もすばらしく、特に額田王、大伯皇女と物語のキーとなるヒロインを歌ったソプラノの小林沙羅さんの美声が公演を艶を感じさせるものにしてくれました。

 日本語のオラトリオともいえるこの作品はもちろんのこと、日本語のオペラ、合唱は初めてなのですが、私には新鮮で、堪能しました。黛さんの台本のおかげなのか、日本語の違和感も感じませんでしたし、何かと欧州のこの手の作品は「神」が出てくるので重いのですが、それが無いのも「自然」で良いです。

 終演後の拍手も大きなもので、何度も出演者たちは呼び戻されていました。非常に暖かな雰囲気と清らかな空気が流れる素晴らしい演奏会でした。


 
東京オペラシティシリーズ 第71回 ≪東響コーラス25周年記念≫
2013 1/19(土) 2:00p.m. 東京オペラシティ コンサートホール

[出演]大友直人(Cond)、小林沙羅(Sop)、谷口睦美(Mez)、吉田浩之(Ten)、福島明也(Bar)、東響コーラス(Cho)

[曲目]・千住 明:オペラ「万葉集」(台本:黛まどか/演奏会形式/フルオーケストラ版)
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