第二次世界大戦終了直後のドイツで、ナチス高官だった両親と離れ離れになった4人の兄弟姉妹たち。ハンブルグに住む祖母を訪ねるシュトゥットガルトから厳しい旅の中で、主人公のローレはナチスの真実を知り、旅の途中で出会ったユダヤ人青年トーマスへの交錯した思いと葛藤し、成長していく。原題は主人公の名前「ローレ」だが、本作のサブテーマでもある「ヒットラーとの決別」という点を捉えて「さよなら、アドルフ」と邦題を付けたのは、なかなかセンスが良い。
これまでナチスを巡る映画はいくつか見てきたものの、ナチスの子どもの視点で第3帝国とその戦後を描いた映画は初めてで新鮮だった。ナチスの価値観を教育された子どもたちが、どう真実と向き合い、自分の中で消化していくのか。決して、本作に答えがあるわけではないが、大人とは違った難しさがあることは良く分かる。
また、日本の戦後についての映像や記録は散々見ているが、同じ敗戦国であったドイツの終戦直後を舞台にした映画も初めてで興味深かった。多くの大人たちは依然ヒットラーの絶対的正しさを信じていたようだし、ドイツ戦後処理の前工程となった連合国の分割統治の雰囲気も分かった。
だが、何よりも本作の軸は主人公ローレを演じたサスキア・ローゼンタールの好演だろう。思春期の少女が旅の苦難、年長者として兄弟をリードしなくてはならない責任、ユダヤ人青年への思いの変異などが、自然体の演技の中でしっかりと主張されていた。可愛いティーンエイジャーが少女から大人の世界に踏み入れていく変化を上手く演じていた。
映像・音楽の美しさも印象的だ。ドイツ敗戦という国の状況の厳しさと好対照なぐらい美しいドイツの森や池といった自然。戦争やナチスの残虐性、現実感とは、全く別世界のようである。クラシック調のサントラも映像の雰囲気とぴったりあっていた。
テーマは重く、エンディングもやや意表を突く形で終わる(私はてっきり祖母の家に辿り着いてハッピーエンドかと思っていた)。だから、決して観て爽快感が味わえる映画ではないが、戦争と個人の関係をリアルに考えさせる、価値ある映画である。同じ第2次大戦を捉えたフィクッションではあるが、「永遠の0」より本作の方が、感情に流されることなく戦争について考えさせる点においてわたし好みであった。
スタッフ
監督: ケイト・ショートランド
製作: カーステン・シュテータール, リズ・ワッツ, パウル・ウェルシュ, ベニー・ドレクセ
原作: レイチェル・シーファー
脚本: ケイト・ショートランド, ロビン・ムケルジー
撮影: アダム・アーカポー
編集: ベロニカ・ジェネット
音楽: マックス・リヒター
キャスト
サスキア・ローゼンタール: ローレ
カイ・マリーナ: トーマス
ネレ・トゥレープス: リーゼル
ウルシーナ・ラルディ: ローレの母
ハンス=ヨッヘン・バーグナー: ローレの父
ミーカ・ザイデル: ユルゲン
アンドレ・フリート: ギュンター
エーファ=マリア・ハーゲン: ローレの祖母