藝大生の生態を描いたノンフィクション。理屈抜きに面白い。いわゆる芸術的才能を全く持ち合わせていない私にとっては、藝大生なんぞは神様なのだが、その神様たちをのぞき見させてもらっている気分で、一気に読み終えた。
美校(美術学部)と音高(音楽学部)の対照ぶりが何とも楽しい。作品が時間を超えて残る「美術」と、作品(演奏)はその時限りで人が作品となる「音楽」という、取り組み対象の違いによって、芸術家の卵たちの考え方、行動、生活、服装、師弟関係などに違いが出てくる様などは、微笑ましく読み進めながら、なるほどと納得させられる。
それにしても、こういう才能を持った人たちというのは羨ましい限りだ。日ごろ、せせこましい窮屈な社会で生活していると、無いものねだりも加わって、やたら輝いて見える。本書には、今の日本を覆う閉塞感のようなものを全く感じない。卒業生の半分くらいが行方不明になってしまうということだから、実社会でのサバイバルは藝大生と言えども厳しいところもあるのだろうが、芸術以外の他方面においても、こんな多様性があって、自由にのびのびと好きなことを追求するのが当たり前の社会になれれば、もっと日本も元気が出る気がする。
≪目次≫
1.不思議の国に密入国
2.才能だけでは入れない
3.好きと嫌い
4.天才たちの頭の中
5.時間は平等に流れない
6.音楽で一番大事なこと
7.大仏、ピアス、自由の女神
8.楽器の一部になる
9.人生が作品になる
10.先端と本質
11.古典は生きている
12.「ダメ人間製造大学」?
13.「藝祭」は爆発だ!
14.美と音の化学反応