その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

「残念な一冊」入り・・・桐野夏生 『猿の見る夢』(講談社、2016)

2017-05-13 08:00:00 | 


 桐野夏生さんのミステリーは、現代の社会問題を取り上げた興味深いものが多く、時折手に取って読んでいる。昨年夏に新聞の新刊案内で紹介されていたので、地元図書館でリクエストしたのだが、8か月経ってようやく回ってきた。

 今回のテーマは、「高年サラリーマン」、「熟年離婚」、「遺産争続」と言ったところだろうか。「週刊現代」に連載されていたそうなので、まさに週刊現代の読者にはぴったりのテーマなのだろう。

 読後感としては、小説としての出来栄えは、まったく感心しなかった。ストーリー展開にワクワクするわけでもなく、登場人物に感情移入することもなく、何度も途中で止めようかと思った。

 元大手銀行勤務で現在は転籍した会社で取締役を務める主人公・薄井正明の人物や描写がとっても浅い。日和見で小心な俗物だから、これ以上の描写はしようがないのかもしれないが、それにしてもどうしようもない人物で、読んでいて嫌悪感を覚えるぐらい。そして、彼の周囲にいる会社関係人々、家族・親戚たち、愛人も、何かステレオタイプ的な人物で、人間の複雑性を滲ませる描写もない。

 アマゾンのレビューポイントはそこそこなのが、全く理解できない。私には貴重なゴールデンウイークのひと時を浪費した残念な一冊となった。
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