実家の書棚にあったのを、お正月に拝借し読んでみた。
昨秋、奈良を旅行した際に、日本の仏教受容史をもう少し学びたいと思ったものの、その後何もしていなかったのに気づき、書棚を見ながら「空海」にビットが立った。何といっても、真言宗の開祖であり、真言密教を日本に持ってきた人である。空海-真言宗-高野山-金剛峯寺、最澄-天台宗-比叡山-延暦寺という受験日本史の一問一答問題集を超えた知識は何も持ち合わせてない私には、未知の世界、人物であった。
本書は小説に分類されているようだが、小説と言うよりも空海の人生を追いながらの作者司馬遼太郎氏の随想といった感のが強い。平安時代の話だからか、「・・・と思われる」「・・・と言ったに違いない」「・・・かもしれない」という語尾が多用されるが、これは小説と言う虚構の世界によりも、むしろ空海のファクトを掴もうとする姿勢に感じられた。
なので、小説を読むような人物への投入感は湧かないが、歴史書を読むかのごとく、当時の世相、仏教界の状況、密教の考え方などの知識が入ってくる。遣唐使の船のお粗末さやその中国渡航までの難度なども、興味深かった。最澄との緊張感あるやりとりからも、密教の肝が分かる気がした。
それにしても、空海と言う人はとてつもない人という印象だ。「天才」に相応しい。密教の全体像を恵果和尚から伝授され、20年の中国への留学期間を2年で切り上げて帰ってくる学才や自信も凄いが、書や詩への才能も異彩を放っている。偶然だが、今年は「空海」を題材にした映画も上映されるらしい。是非、見てみたい。