どんな言葉もいらない。どんな比較も無駄だ。ただただ、ピュアで美しく、この上ない音楽を聴く悦び。それが日本での最後の演奏になるというマリア・ジョアン・ピレシュの独奏によるベートーヴェンのピアノ協奏曲 第4番だった。もう聴きながら、涙ポロポロ。
ピレシュのピアノは、柔らかく聴く者を包んでくれる。素朴で、飾り気ない中で、曲の持つ美しさにしっかり寄り添っている。暖かい。
ブロムシュテット指揮のN響の演奏も絹地の織物のような繊細さで、ピレシュとも絶妙のコンビネーション。決して伴奏ではなく、各々のプレイヤーがしっかりと主張しつつ、N響らしい美しいアンサンブル。今回が最後となるピレシュへのリスペクトの「気」に満ちたものだった。
完売で、3000名を超える聴衆も固唾をのんで、ピレシュとN響の演奏に聴き入っていた。演奏者と聴衆が一つとなる稀有な空間。この場に居合わせる自分の幸運さに感謝するしかない。
第3楽章になると終わりを意識してしまい、「時間よとまってくれ。ただ、音楽だけがずーっと続いてくれ~」と心の中で叫んでしまう。もちろんそうはならず、流れていく時間と音楽に身を委ねるままだ。第1楽章から涙目だったが、ついに決壊。
終演後は当然の万雷の拍手。今年、91歳のブロムシュテッドと74歳のピレシュだが、ステージ上で拍手に応える二人の姿は、人にとって大事なことは、肉体的な年齢ではなく精神の若さであることを、実証していた。
後半のベートーヴェンの交響曲第4番も素晴らしい演奏だった。骨格がしっかりした骨太の演奏で、各パーツがしっかり組み合わさったアンサンブルは音楽の美しさを引き立てた。
それにしても、ブロムシュテッドに対する聴衆のリスペクトは類を見ない。拍手が大きいだけでなく、愛に満ちている。今年は、10月にもN響の指揮が予定されている。半年後が今から待ち遠しい。
《アンコール曲》
《初夏の陽気でした。先週よりも更に緑が増えた》
第1883回 定期公演 Cプログラム
2018年4月21日(土) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58
ベートーヴェン/交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ピアノ:マリア・ジョアン・ピレシュ
No.1883 Subscription (Program C)
Saturday, April 21, 2018 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall
Beethoven / Piano Concerto No.4 G major op.58
Beethoven / Symphony No.4 B-flat major op.60
Herbert Blomstedt, conductor
Maria João Pires, piano