Fintechや仮想通貨が銀行界にどのような影響を与えるか、その行方について解説・考察した一冊。著者はシンクタンクのアナリストの経歴を歩んできた方。日銀の政策委員会の審議委員の経験もある。
図やグラフが数えるほどしかない編集で一見読みにくそうだが、叙述は平易で分かりやすい。テクノロジーよりも業界・ビジネス論中心なので、技術論にかたよりがたちなこの分野の書籍としては珍しいかもしれない。フィンテックについては様々なメディアで取り上げられていて、私自身、ごちゃまぜの情報過多になっていたが、本書を読んで一定の頭の整理ができた。
筆者は日本におけるデジタル通貨が、一般私企業由来のもの、民間金融機関発行のもの、中央銀行発行のものの3種類に分類し、前者の2つは信用通貨としての大きなコストを考えると主流になるのは難しいと考え、中央銀行デジタル通貨が、(総監視社会につながる可能性もあるものの、)主たるシナリオと考える。ただ、最終章で「(近未来の覇権争いの)勝者が現金であることはあきらかです。日本人の現金思考がそうやすやすと覆ることは無いでしょう」(p236)と言っているのは結構ずっこけた。全般的に、良く言えば議論が地に足がついているし、悪く言うと保守的に読めるところがある。
昨今の日本国内のキャッシュレスの動きを見ると、私は意外に早く現金消滅時代が到来するのではないかと思う。消滅は大げさにしても、キャッシュレスが主たる取引手段になる時代がそう遠くない未来に来ると思う。2018年の発刊から、世の中は既に大きく変わっているということなのだろう。
目次
序章 動き出したメガバンク
第1章 悩める巨人――挑戦がもたらす矛盾
1 競争促進へと転換した法整備
2 銀行のフィンテック対応
3 揺れるメガバンク――やりたくないけどやらざるを得ない
第2章 仮想通貨は決済手段となれるか
1 日本は取引シェア世界トップに
2 仮想通貨決済は普及しない
第3章 スマートフォン決済は日本で広まるか?
1 銀行デジタル通貨が直面する三つの壁
2 中国で急成長するスマートフォン決済
Column1 小売業がキャッシュレス化を加速
3 日本では広がらない?
Column2 日本にも迫るアマゾン・エフェクト
第4章 現金の異様な存在感
1 日本人のお金の支払い方――根強い現金志向の謎を解く
2 現金流通のコスト
第5章 大リストラ時代を迎えた銀行
1 「銀行は特別」という思い込み
2 構造改革を迫られる銀行
Column3 キャッシュレス化を睨みATMを共通化
第6章 仮想通貨投資の行方
1 投資ブームの功罪
2 投資対象としての仮想通貨
3 仮想通貨の価値
4 ICOの行方
第7章 世界の中央銀行のフィンテック対応
1 最大の関心事はDLT
2 中央銀行のAI活用
第8章 中央銀行デジタル通貨の可能性
1 動き出す中央銀行デジタル通貨構想
2 スウェーデンにみる近未来通貨
3 中央銀行デジタル通貨は金融をどう変えるか
4 変容する金融政策
終章 日本の金融にデジタル革命は起こるのか