お正月休みに読んだ『21 Lessons』の中で、著者のユヴァル・ノア・ハラリ氏が「21世紀のもっとも予言的なSF書(the most prophetic science-fiction book of the twentieth century)」と紹介していた『すばらしい新世界』(原題"Brave New World")を読んでみた。恥ずかしながら私は存在すら知らなかったが、訳者も「オーウェル『1984年』と並ぶディストピアSFの歴史的名作としてつとに名高く」、「いやしくもSFファンなら基礎教養として読んでおかねばならない古典」(訳者あとがき)と紹介するほどの本である。
読み始めてすぐ「これはおもろい」と引き込まれ、そのあとページをめくる手が止まらなかった。どきまきするストーリー展開、ブラックな諷刺、深い人間への考察、個人的な小説の好みを網羅してくれている。
驚かせられるのは、本書が1932年に刊行されているということ。新訳のおかげもあるのかもしれないが、全く古さを感じさせない(唯一感じたのは、「睡眠学習」が一つの最先端の学びや条件付けの手法として使われていることぐらいか)。90年近く前のSF小説でありながら、このインターネット、AI、生命科学の時代にもそのまま当てはまる。
イギリス的なブラックユーモア満載の物語の中に、人や世の「真理」が織り込められる。人間の感覚や認識は条件付け次第であること、幸せとは安定して、安全で、快適な状態にあること。笑いとばすにはあまりにも思い当たるところが多すぎる。ハラリ氏が本書を絶賛しているのも納得がいく。ハラリ氏の著作は、この物語を歴史的に理論化したものではないのかと思うぐらいだ。
読めば誰でも感じるだろうが、本書の白眉は、16章、17章の世界統制官モンドと野人ジョンとの会話にある。人間にとっての幸福、文明、芸術、科学、宗教の意味合いが語られる。現代社会における自らの立ち位置を考えさせられる。
ジョン:「僕は不幸になる権利を要求する」(p333)。考えさせられる一言である。
興奮の物語だった。