遅まきながら是枝監督のカンヌ映画祭の最高賞であるパルムドール受賞作『万引き家族』を見る。血縁関係のない大人、子供が一緒に暮らす「家族」を通じて、現代社会の貧困や児童虐待を描いた作品。貧困、家族、愛について考えさせる直球の社会ドラマだ。
非常に良くできた映画であることは間違いない。貧困を社会構造要因のみに求めるわけでないし、貧困ゆえの万引きを正当化するような単純な物語でも無く、「血を超えた親子の愛」というようなステレオタイプな感動の押しつけでもない。人間の卑しさも含め、問題の難しさをそのままに描いている作品だと感心した。
また、「家族」の役者たちの演技が素晴らしく、まるで現実を追ったドキューメンタリーのようなリアルさがある。特に、安藤サクラの演技は迫真で、胸が締め付けられる。リリー・フランキーのダメ親父もどっかにいそうだし、樹木希林のしぐさ一つで語る動き、存在感は流石。松岡茉優の自然体の演技も上手く嵌っている(加えて、何しろ可愛い!)。子役の二人も、大人の大俳優達を前に一歩も引いていない。観ながら、感心しっぱなしだった。こうした演技を引き出した是枝監督の手腕もあるのだろう。
ただ、作品そのものの素晴らしさとは別に、個人的には嗜好のストライクゾーンからは外れていたのは事実である。う~ん、これはなぜだが良く分からない。不思議に感情移入できなかったところはあった。
好き嫌いは人により分かれるかもしれないが、一見の価値は十分にある。そして、好みでは無かったと言っているこの私も、視聴後のずっしりと重く深い感慨が去るには、随分と時間がかかった。
監督・脚本:是枝裕和
キャスト
リリー・フランキー:治
安藤サクラ:信代
樹木希林:初枝
松岡茉優:亜紀
城桧吏:祥太
佐々木みゆ:ゆり