筆者の熱い思いがダイレクトにぶつかってくる、日本・日本人に向けた警世の書である。衝撃的な日本の実情をファクトベースで示されショックは隠し切れないが、日本人のはしくれとしてこの国の未来のために私自身が何ができるだろうか、を考えるきっかけを与えてくれる。本の厚さに少々怯む(約440頁)が、明確な構成と論旨明確で読み易い文章なので、多くの人にお勧めしたい1冊だ。
「一人負けを続けた15年」の間にいかに日本がいけてない国になってしまったかの事実は思わず目を覆いたくなる。一人当たりのGDPの国際比較、一人当たりの生産性の国際比較、日本人世帯の貯蓄額低下などのマクロ統計数値的なものは散々見聞きしているが、GDPに占める人材育成投資比率の国際比較や米中日韓の科学技術予算の推移など、国の「将来」を左右する分野においても日本は既に圧倒的に残念な国になってしまっていることには愕然とする。
筆者が指摘する「AI-readyでない日本」は、今回の新型コロナ感染症の対応を見ても、本書が紹介する残念な統計を裏書きする形で、定性的にも白日の下にさらしてしまった。経団連が、成功のプラットフォームとしての日本が、「デジタル革新」×「多様な人々の想像/創造力」で達成されるという(p122)一方で、紙とファックスで感染者数の集計を行っている公共機関、1世帯布マスク2枚の配布が国民が国に期待し・必要とされる優先度の高い施策と考えるリーダー層の想像力/創造力などなど、具体的事例は枚挙にいとまない。
そのうえで本書の良さは、そうした残念な国になってしまっている日本が、どうしたらその潜在力を解き放てるかを、中長期の観点から具体的に語っていることである。この不確実で先が見通せない状況下で求められる人材はどういう人なのか、「未来を創る人」をどう育てていくのか、そのためのリソース配分はどうあるべきか、そして筆者自身の「風の谷」の構想が紹介される。個々の施策については、ミクロレベルでの実現可能性や緻密さなど、きっといろいろなハードルや問題点もあるだろう。でも、こういう議論と実践を、ここ数年政治家や国・企業のリーダーが思いをもって語り、実行に移そうとしているところを見たことがない気がする。まさに、こうした骨太の議論と実行が必要なのだと思う。厳しい現状に目を背けず、直視して、でもポジティブに将来像を構想し、実行プランを考える本書の姿勢は、少しでも多くの日本人が見習いたい。
はしがきで筆者は言う。
「もうそろそろ、人に未来を聞くのはやめよう。
そしてどんな社会を僕らが作り、残すのか、考えて仕掛けていこう。
未来は目指し、創るものだ。」(p6)
その通りだと思う。私に何が作れ、残せるのか、考えて実行したい。
目次
1章 データ×AIが人類を再び解き放つ -- 時代の全体観と変化の本質
2章 「第二の黒船」にどう挑むか -- 日本の現状と勝ち筋
3章 求められる人材とスキル
4章 「未来を創る人」をどう育てるか
5章 未来に賭けられる国に -- リソース配分を変える
6章 残すに値する未来