その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

藤井保文、尾原和啓 『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP社、2019)

2020-05-01 07:30:00 | 

非常に示唆に富む一冊である。アフターデジタルとは、「モバイルやIoT、センサーが偏在し、現実世界でもオフラインが無くなるような状況になり、『リアル世界がデジタル世界に包含される』という図式に再編される現象の捉え方」(p46)を言う。デジタルやオンラインを「付加価値」として活用するのではなく、「オフラインとオンラインの主従関係が逆転した世界」となるということだ。

本書では、そうした世界を今の中国に生まれているサービスやビジネスモデルを例にとって紹介し、思考法としての「OMO(Online Merges with Offline)」、すなわち「オフラインが存在しない状態」を前提としてビジネス展開を考えていくことの重要性が解説される。そしてその構成要素としてのユーザーエクスペリエンス、エコシステム、行動データ、状況志向、(バリューチェーンから)バリュージャーニーと言ったキーとなる考え方が、簡単な事例も併せて紹介される。

平易に書いてあるので、表面的に読むのと真の意味するところは理解できないままに終わるだろう。実は昨秋に読んでいたのだが、その時もそれなりに理解したつもりにはなっていたものの、今回再読し、読み過ごしていたところが多くあったことに気づかされた。「ぼーっと、読んでんじゃないよ」ということだ。

この発想の転換は、従来のプロダクトアウト、属性マーケティング的な考え方に染まった私世代のビジネスパーソンにはかなりハードルが高い。理解はできるのだが、実用に持って行くのは相当、手を動かし、頭に汗をかかないと、染みついたシミは取れないだろう。だが、世の中は確実にこの世界観にシフトしているのは肌感覚としても間違いない。

個人的には、この世界観が対法人ビジネスをどう変えるかということを考えていきたい。コンシューマ向けのダイレクトマーケティングが分かりやすい事例として出てきやすいが、法人ビジネスも確実に変えていくはずだ。

1年経ったらこの世界が当たりまえになっていて、更に新しいコンセプトが生まれている可能性もある。私たちは、好むと好まざると、こういう世界に生きている。

 

目次
第1章 知らずには生き残れない、デジタル化する世界の本質
 1-1 世界の状況、日本の状況
 1-2 モバイル決済は「すべての購買をIDデータ化する」
 1-3 シェアリング自転車は「生活拠点と移動をデータ化する」
 1-4 行動データでつなぐ、新たな信用・評価社会
 1-5 デジタル中国の本質 データが市民の行動を変え、社会を変える
 1-6 大企業や既存型企業の変革好事例「平安保険グループ」
 1-7 エクスペリエンスと行動データのループを回す時代へ

第2章 アフターデジタル時代のOMO型ビジネス~必要な視点転換~
 2-1 ビフォアデジタルとアフターデジタル
 2-2 OMO:リアルとデジタルを分ける時代の終焉
 2-3 ECはやがてなくなっていく
 2-4 転覆され続ける既存業態
 2-5 日本企業にありがちな思考の悪例
 2-6 企業同士がつながって当たり前 OMOの行き着く先の姿

第3章 アフターデジタル事例による思考訓練
 3-1 GDPR vs 中国データ共産主義 ~データの取り扱いをめぐる議論~
 3-2 「レアな接点」に価値がある時代
 3-3 技術進化による「おもてなし2.0」
 3-4 高速化・細分化・ボーダレス化する、これからのものづくり
 3-5 不思議で特異な日本の強み

第4章 アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革
 4-1 次の時代の競争原理と産業構造
 4-2 企業に求められる変革
 4-3 日本企業が変わるには
 4-4 つながる世界での私たちのポテンシャル

 

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