元N響主席オーボエ奏者茂木大輔さんによる、N響在籍時に巡り合った世界の指揮者とのエピソードを紹介したエッセイ。
茂木さんのユーモアたっぷりの視点や文体は本書でも健在でページをめくる手が止まらない。ただ、N響を退いたとはいえ、流石に音楽界で飯を食べていく身としては、あからさまな辛口コメントは書きにくいのだろう。控えめな語り口は、やや残念なところはある。それにしても、いろんな裏話が聞けて面白いし、まあ文調のはしばしに本音を伺わせるコメントがあるので、なんとなくはわかる。
個人的にN響は学生時代にコンサートに行き出して以来、一番、長く数多くの演奏会に行っているオーケストラなので、ここで紹介されている8割がたの指揮者とN響の演奏は聴いている。さながら、茂木さんの文章を通して、自分にとってのN響史を追っているようであり、懐かしい思いで一杯だった。
なかでも、デュトアのドビュッシー〈ペレアスとメリザンド〉、チョン・ミョンフンのマーラー交響曲第9番、マリナーのドボルザーク交響曲7番などなど、私自身、記憶に残る感銘を受けた演奏が、特記されていたのは何より嬉しい。逆に、私自身は、感度が鈍いのか印象が薄かったり、居眠りしてしまった曲が、茂木さん絶賛になっているところもあり、もっとしっかり聴いておればと後悔した
編集チェックはしていると思うのだが、細かいところで、私の記録と多少ずれているところがあったのが気になった。マリナーの定期演奏会でのドボルザーク7番は29014年4月との記載だが、同年2月のはず(そのあと、また来日されたのかな?)だし、2016年10月定期のチャイコフスキーの交響曲は4番でなくて6番ではなかったか?まあ、私が行ってない演奏会もあるだろうから、間違いではないと思いたいが、一応、記録しておきたい。
気軽に読める本でもあり、N響ファンには強くお勧めします。