日経朝刊の連載小説だったらしいのだが、全く読んでなかった。古代史好きの友人のお勧めで単行本を手に取ってみた。ヤマトの大王ワカタケル(倭王武、雄略天皇と言われる)の半生を中心に5世紀後半から6世紀のヤマトの国を描いた物語である。
不思議な読後感であった。この時期を描いた小説は初めてあったこともあり、一つ一つ未知の世界に踏み込むようだ。まだ日本はなく倭国でありヤマトの国であり、天皇ではなく大王であった時代である。物語とは言え、物語を通して当時を追体験するのは新鮮だった。
受験期に学んだ日本史の知識と交差するのも面白い。稲荷山古墳出土の鉄剣や江田船山古墳出土の刀に、ワカタケルの漢字名「獲加多支鹵大王」が刻まれているのを習ったが、その人物が物語の中で人として描かれる。文字が浸透し始めた時期で、ワカタケルなる大王が居たということぐらいしか確証できることは無いから、「何を思い、何を考えていたのか」、小説を通して、想像が大きく広がる。
なかなか自分からは選びそうにないタイプの物語だっただけに、お勧めしてくれた友人に感謝。
余談だが、不思議だったのは、小説の背景や題材を反映して「まぐわり」とか「ほと」と言った日本語が頻出するのだが、こうした言葉が今使われることは無いこと。「性交」、「セックス」・・・なんかの日本語よりずっと趣がある。いつ頃からこうした言葉は消えてしまったのだろう。