その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

本能で聴いた!: ジョナサン・ノット/東響 R.シュトラウス:歌劇「エレクトラ」(演奏会形式)

2023-05-16 07:34:01 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

昨年のサロメに続くノット/東響のR.シュトラウスのオペラシリーズ。当然、高い期待があったものの、歌手陣・オーケストラともにその高い期待の更にはるか高く上回った圧倒的なパフォーマンスで、打ちのめされた1時間40分だった。

歌手陣のレベルの高さは誰もが出色だったが、中でも題名役のクリスティーン・ガーキーは異次元の歌い手だった。第一声が発せられた時から、ホールの空気がガラッと変わる。まず声量が半端ない。前列8列目に陣取った私にも空気圧が感じられるとてつもないヴォリューム。しかも声質も柔らかく伸びやか。演技も迫真で、まるでエレクトラが乗り移ったのではと思わせるほどであった。

クリテムネストラ役のハンナ・シュヴァルツも歌声が安定していて、威厳を感じるほどの存在感があった。舞台が非常に引き締まるのである。驚いたのは、終演後にTwitterで知ったのだが、今年80歳になるとのこと。驚愕である。

待女役の日本人女性歌手陣も素晴らしかった。冒頭、侍女たちのおしゃべりで始まるのだが、緊張感あふれ、これからの悲劇を予感させるような表現豊かな歌唱とコーラス。あっという間に「エレクトラ」の世界に引っ張り込まれた。メンツを見れば、日本のトップクラスの女性歌手陣たちで、それも納得である。

男性陣では、オレスト役のジェームス・アトキンソンも私好みの歌声だった。細身の体躯から発せられる低音はずしっと落ち着いて安定感がある正統派。エレクトラとの再開場面は、コンサート方式ではあるものの二人の熱演に痺れ、涙した。

ノット監督と東響の集中力も尋常ではなかった。プレイヤー夫々が120%の力を出し切っている集中度で、ステージから発せられる爆音も普通ではないレベル。正直、どこの誰の演奏が良かったというような判別が困難なほど、オケが一体となった火の玉演奏だった。熱意と気合に満ちたプロの演奏がまとまった時はどんなパワーが出るのかを見せつけられた演奏でした。

作品としては物語的にも音楽的にも私には複雑すぎで、私はその深みを縁から覗いているに過ぎない。それでも、この物語と音楽が否が応に突きつけてくる迫力に本能的に立ち向かって全身で格闘した1時間40分だった。

終演後の聴衆からの狂乱的な拍手と声援もクラシックのコンサートとは思えない程。この場に居合わせた自分の幸運を祝いたくなる。ノット監督を初め、歌手の皆さんも、何事かと驚きながら、喜んでいるように見えた。

一生に何度も無い音楽体験、演奏会体験であったことは間違いない。

 

東京交響楽団特別演奏会 R.シュトラウス:歌劇「エレクトラ」(演奏会形式)
サントリーホール
2023年05月14日(日)14:00 開演

出演
指揮=ジョナサン・ノット
演出監修=サー・トーマス・アレン

エレクトラ=クリスティーン・ガーキー
クリテムネストラ=ハンナ・シュヴァルツ
クリソテミス=シネイド・キャンベル=ウォレス
エギスト=フランク・ファン・アーケン
オレスト=ジェームス・アトキンソン
オレストの養育者=山下浩司
若い召使=伊藤達人
老いた召使=鹿野由之
監視の女=増田のり子
第1の侍女=金子美香
第2の侍女=谷口睦美
第3の侍女=池田香織
第4の侍女/ クリテムネストラの裾持ちの女=髙橋絵理
第5の侍女/ クリテムネストラの側仕えの女=田崎尚美

合唱=二期会合唱団

曲目
R.シュトラウス作曲、歌劇《エレクトラ》
(演奏会形式/全1幕/ドイツ語上演/日本語字幕付き)※途中休憩なし

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