日露戦争前からアジア・太平洋戦争後の時代における、満州の架空の都市仙桃城を舞台にした大河小説。満州を巡って、国としての日本、現中国、ロシアの国としての進路、そして日本人、漢人、満州人、ロシア人の生き様が描かれる。
歴史的事実・背景を抑えた上で、ミステリー小説のような手に汗握るストーリー展開、個性豊かな登場人物たち、地図・建築・都市の歴史といった知的要素が絶妙に組み合わされて、物語に没入する興奮の600ページだった。作者の強い課題意識や思いが伝わってくる。
「地図」は、太古の時代に獲物探しの情報ツールとして人類が発明して以来、人の歴史と共にあった。そして、国家のものとして、徴税、戦争に活用される。本書は、満州という国、仙桃城という都市が地図を起点に描かれる。「国家とはすなわち地図である」と主人公とも言える細川は言う。
「拳」は暴力、争いであり、これも太古の時代から人類の歴史と共にある。「世界から「拳」がなくならないのは、地図上の人類が住む居住仮可能な地を求めて戦う」とも細川は言う。
「坂の上の雲」を追いかけつつ、日本史上、国としての最大の危機を招いた明治後期から昭和の時代における、様々な日本人の考えや行動、そして侵略される側であった現中国の人たちを通じて、国家、戦争、個人の幸福、夢について考えさせられる。
ウクライナでの戦争をはじめ、現代は第3次世界大戦の入り口に差し掛かっていると言うのは、過言ではないだろう。その中で、本書に触れることは、日本や世界の置かれた立場への視座を得ることができるし、そこで生きる人々への想像力の面からも意義は大きい。お勧めできる一冊だ。