ここ数年バレエとはご無沙汰していたのですが、今回はシェイクスピアのダブルビル。それも私の一番好きなシェイクピア悲劇でしかも世界初演の「マクベス」と私の一番好きなシェイクピア喜劇「夏の夜の夢」の2本立て。これは何が何でも行かねばということで、新国立劇場オペラパレスに見参。
2作品で、悲劇と喜劇、暗と明、陰と陽のバランスが絶妙に取れた充実のシェイクピア・バレエ公演でした。
前半は「マクベス」。芝居で見ると3時間近くはかかる戯曲が、テンポよく場面が入れ替わり1時間のバレエで表現されます。戯曲の台詞を思い出しながら、各場面でのバレエでの振付や原作との変更点などバレエの「マクベス」を楽しみました。
マクベスとマクベス夫人の愛を中心に描いたという振付は、マクベス夫人を踊った米沢唯さんの圧倒的存在感とパフォーマンスが印象的でした。唯さんの表現が艶めかしくてドキドキしてしまうほど。表情豊かが群を抜いていました。
音楽はジェラルディン・ミュシャさんの組曲版をこの日の指揮者でもあるマーティン・イェーツさんが編曲したもの。「マクベス」の世界観をイメージどおりに緊張感あふれ、スコットランドの曇り空を象徴するような重めの音楽です。
ただ、「マクベス」はバレエの題材としてはどうなのかと疑問が湧いたのも事実。殺人シーン多く、血で赤く染まる舞台など、どうも血が滴るバレエって、個人的にバレエに期待したいものとは多少違います。
また、戯曲や芝居の刷り込みが強すぎるせいか、「きれいはきたない。きたたないはきれい。」、「マクベスは眠りを殺した」、tomorrow speechの無い「マクベス」って、クリープの無いコーヒー的な感は否めませんでした。この辺りは、何度か見れば、バレエならではの発見があるかもしれません。唯さんの素晴らしい表現は感動したものの、物語をバレエで追ったレベルに止まってしまいました。
後半は前半と180度逆を行く夢話。アシュトンの振付によるバレエは、ダンサーたちの踊りや舞台演出など完成度高いもので、流石と唸らせる好演でした。
個人的に最も目を引いたのは、パック役の山田悠貴さんです。躍動的な身体性に加え、騒動のきっかけになる影の主役を表現豊かに演じていました。とっても華あるダンサーとの印象です。
ティータニア、オーベロンをはじめとする3組のカップルもそれぞれ魅力的だし、ボトムもコミカルに舞台を盛り上げてくれて、本当に楽しい。観ていて幸福感が増す気にさせてくれるバレエの典型でした。
私的に嬉しかったのは、やっとメンデルスゾーンの劇音楽とバレエをセットで鑑賞できたこと。演奏会で何度か聴いているこの音楽ですが、劇付きで観ることで初めて。この音楽はこの場面だったのね、と納得すること多数。マーティン・イェーツ指揮の東フィルの演奏もふくよかで、合唱も美しくて素晴らしい。もともと好きな音楽がより立体的、視覚的に楽しめて嬉しかった。
前半と後半で好対照の作品をダブルビルとしてまとめることで、作品の特徴を相互に浮き上がらせる効果も抜群。スケジュールが合えば小野絢子さんのマクベス夫人の公演も行きたかったのですが、久しぶりのバレエを堪能できた連休谷間の夜でした。
(5月2日観劇)
[余談:この日は3階席最前列に陣取り。いつもオペラは4階席なので、1フロア降りただけでこんなにも舞台の近さ、見やすさが違うのかと驚き。これだけ違うとなると、普段のオペラもお財布と相談して、席考えねばならんなと思った次第]
シェイクスピア・ダブルビル
マクベス<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>/夏の夜の夢<新制作>
Shakespeare Double Bill
The Tragedy of Macbeth / The Dream
公演期間:2023年4月29日[土・祝]~5月6日[土]
予定上演時間:約2時間30分(マクベス60分 休憩30分 夏の夜の夢60分)
『マクベス』
【振付】ウィル・タケット
【音楽】ジェラルディン・ミュシャ
【編曲】マーティン・イェーツ
【美術・衣裳】コリン・リッチモンド
【照明】佐藤 啓
『夏の夜の夢』
【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】フェリックス・メンデルスゾーン
【編曲】ジョン・ランチベリー
【美術・衣裳】デヴィッド・ウォーカー
【照明】ジョン・B・リード
キャスト
『マクベス』
【マクベス】福岡雄大(29, 2, 4, 6)、奥村康祐(30, 3, 5)
【マクベス夫人】米沢 唯(29, 2, 4, 6)、小野絢子(30, 3, 5)
【バンクォー】井澤 駿(全日)
【3人の魔女】 奥田花純、五月女遥、廣川みくり(29, 2, 4, 6)
原田舞子、赤井綾乃、根岸祐衣(30, 3, 5)
『夏の夜の夢』
【ティターニア】柴山紗帆(29, 2, 4, 6)、池田理沙子(30, 3, 5)
【オーベロン】渡邊峻郁(29, 2, 4, 6)、速水渉悟(30, 3, 5)
【パック】山田悠貴(29, 2, 4, 6)、石山 蓮(30, 3)、佐野和輝(5)
【ボトム】木下嘉人(29, 2, 4, 6)、福田圭吾(30, 3, 5)
【指揮】マーティン・イェーツ
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【合唱】東京少年少女合唱隊
PROGRAMME
"The Tragedy of Macbeth"
New Commissioned Work by the NBJ, World Premiere
"The Dream"
Company Premiere
OPERA PALACE
CREATIVE TEAM
"The Tragedy of Macbeth"
Choreography by: Will TUCKETT
Music by: Geraldine MUCHA
Music arranged by: Martin YATES
Set and Costume Designer: Colin RICHMOND
Lighting Designer: SATO Satoshi
"The Dream"
Choreography by: Sir Frederick ASHTON
Music by: Felix MENDELSSOHN
Music arranged by: John LANCHBERY
Set and Costume Designer: David WALKER
Lighting Designer: John B. READ
CAST
"The Tragedy of Macbeth"
Macbeth: FUKUOKA Yudai (29 Apr, 2, 4, 6 May), OKUMURA Kosuke (30 Apr, 3,5 May)
Lady Macbeth: YONEZAWA Yui (29 Apr, 2, 4, 6 May), ONO Ayako (30 Apr, 3,5 May)
Banquo: IZAWA Shun (All days)
Three Witches:
OKUDA Kasumi, SOUTOME Haruka, HIROKAWA Mikuri (29 Apr, 2, 4, 6 May)
HARADA Maiko, AKAI Ayano, NEGISHI Yui (30 Apr, 3,5 May)
"The Dream"
Titania: SHIBAYAMA Saho (29 Apr, 2, 4, 6 May), IKEDA Risako (30 Apr, 3,5 May)
Oberon: WATANABE Takafumi (29 Apr, 2, 4, 6 May), HAYAMI Shogo (30 Apr, 3,5 May)
Puck: YAMADA Yuki (29 Apr, 2, 4, 6 May), ISHIYAMA Ren (30 Apr, 3 May), SANO Kazuki (5 May)
Bottom: KINOSHITA Yoshito (29 Apr, 2, 4, 6 May), FUKUDA Keigo (30 Apr, 3,5 May)
Conductor: Martin YATES
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra
Chorus: The Little Singers of Tokyo