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2021-06-12 | 山川健一

 

山川健一
『パーク・アベニューの孤独』★★


続いてもう一冊
 
この作品は、1983年 角川書店より単行本として刊行された。
 
こっちはこっちで薬(ヤク)はコカイン・・(笑)
舞台は1980年の冬から81年の春にかけてのニューヨーク
 





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「そうさ。人は誰でも、眠るために生きてるのさ。そして、眠っている時には、いろんなことを思い出してるんだ。歳をとると、起きたってぼんやりしてるだろう。このわしだってそうさ。年寄りには思い出すことがたくさんあるから、ああやってぼんやりしていられるんだ。そして、そいつがたっぷりたまると、永遠に眠っても大丈夫なくらい思い出がたまると、死んでゆく。まったく、うまくできているよ」
川本は、カウンターにグラスをおいた。冷え冷えとした、堅い音が響いた。音の余韻の中で、彼は考えた。それでは自分が眠れないのは、眠って思い出すに値する過去がたりないだろうか、と。しかし、そんなことがあり得るだろうか。
「だけど、ミスター、眠れないと、それこそいろんなことを思い出すんだぜ」
なだめるような口調で、爺さんは言う。
「それは、まだ昔のことが死んでいないからなんだ」
「死んでない?」
「うん。眠っている時に思い出すのは、みんな死んだ過去さ。だからこそ、起きている時には安心していられる。昔のことがまだ生きていて周りをのそのそ歩き回ったら、誰だって気が狂う。そうじゃないかな」
「わかる気がする」
「起きている時に思い出すものは、まだみんな生きているのさ」
「でも、だったらどうすりゃいいんだい」
デイヴ・ジェームスはピーナッツをいくるか手のひらの上に乗せると、口の中へ放りこんだ。口を動かしながら彼はしばらく考えていたが、結局こう言った。
「心配ない。自然に眠れるようになる。そういうものさ。どんな思い出も、やがて死ぬ」
川本は、腹立たしい気もちを押さえた。こんな爺さんの繰り言を本気で聞いても仕方がない、と思った。
 
 
 
 
 
 
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