かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

迷子って、本当に恐ろしいのですよ。

2009-03-08 18:29:58 | Weblog
 「アルケミック・ドリーム 向日葵の姉妹達」第2話その3をアップしました。
 ついに「事件」勃発! 
 大阪の下町でシェリーちゃん迷子に!
 そして迷い込んだ公園で運命の出会いを果たした美少女の正体は?

 ・・・って、最初にアップした表紙絵CGにきっちり出ていますから、何をいまさら、と言う感じではありますが、一応あからさまに書くのは控えておきましょう。この後の展開にも関係しますし、そもそもオリジナルそのまま、と言うわけでもありませんしね。
 謎の少女(笑)との運命の出会いから開幕する、シェリーちゃん24時間の大冒険、始まり始まりぃ! てな感じで見ておいていただけるとありがたいです。

 ところで、迷子って本当に胸が押しつぶされそうになるような不安と恐怖を与えてくれるものです。小学校低学年の頃、大阪市城東区の京阪電鉄沿線に住んでいた私は、多分日曜日か何かで買い物に行ったのでしょう。京阪電車でいくつか行った先の大阪市旭区千林という街にある商店街へ、母に手を引かれて訪れた際に、見事に迷子になりました。ちなみに千林商店街というのは、かのダイエーが一号店を出店したところとしてそれなりに名の知れた、関西有数の一大商店街です。(参考URL:http://www.senbayashi.com/index.php
 もともと親父譲りの方向音痴だったこともあって、幼い私にはぜんぜん自分のいる場所が理解できず、ただひたすらあちこち彷徨った末に、誰か親切な方が駅前にあった交番に連れて行ってくれ、無事にはぐれた母と会うことができました。もう記憶はすっきり色あせてほとんど覚えていないのですが、あのどこを見ても見覚えがあるような無いような、何度も同じところをぐるぐる回っているようないわく言いがたい喪失感と、このまま母と再会できないのではないか、という恐怖感だけは、いまだに心の奥底にくすぶるトラウマとなっています。このシェリーちゃんの迷子は、そんな体験が少しは反映しているかもしれません。シェリーちゃんにはかわいそうなことをいたしましたが、そんな追い詰められた心境を表現できていたなら、とりあえずこの章は成功と言えるでしょう。


 
 
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02.出会い その3

2009-03-08 17:37:29 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 そんなわけだから、とにかく見えるもの全てが私には楽しい。
 もちろんさっきの工場だって、そう言う意味ではなかなか興味深いところだったけど、1時間も黙って観察を続けていられるような場所じゃなかった。いくら見ていても訳の分からないものばかりだったら、どんなに面白そうに見えても結局は退屈しちゃうでしょ?
 そこでそんな退屈を何とかしようとこうして進んでいるんだけど、いつの間にか道はゆっくり左に曲がっていって、やがて振り返ってもさっきの工場の姿が見えなくなっていた。
 そのせいか、さっき感じた不安がちょっと膨らんできたように思える。
 私はそれに逆らい、半ば意地になって先を進んだのに、どこまで行っても、見たところ変化らしい変化がなかった。
 雑然で混沌とした町並みが続いているばかり。
 それに人気もない。
 誰も、わざわざこんな暑い時に外を出歩こうなんて言う気にはなれないのでしょう。それだけをとるならば、私だって早くも後悔してないわけではなかったのだから。
 さすがに私の意地も、ここへ来てようやく音を上げたようだった。
 私はくるりと踵を返すと、元来た道を引き返した。
 行きは気持ちがわずかでも晴れたこともあって、まだ元気よく歩けた。でも、帰りは知らず知らずうつむきがちになる。
 同じ風景。
 同じ混沌。
 どこにいるのか判らないけれど、耳を塞ぎたくなるうるさい蝉が頭ごなしに鳴き喚き、容赦ないお日様を一層煽り立てているみたい。
 行きは揚々と運んでいた足が、とぼとぼという具合に勢いを無くしているのが自覚される。
 工場に帰ってもうれしいわけではないけれど、もうすぐ麗夢さんが来てくれるんだとそれだけを励みに、私は足を動かしていった。
 ところが!
 いつの間にか道を間違えたことに気づいたのは、かなり進んでしまってからだった。実は後で気づいたのだが、行きは特に気をつけていなかった浅い角度で交差する道が一つあって、周りをよく見ずに足元ばかり見ていた私は、誤ってその未知の方角に足を踏み入れてしまったのだ。周囲が私には見分けがつかない混沌世界だったことも、間違いに気づくのを遅らせた。でも、いくら見分けが付きにくいと言っても、まるで見た記憶がない大きな駐車場の横に出ては、私もさすがに気づかざるを得ない。きっと暑さに頭もぼうっとしていたのだろう。見知らぬ町で見知らぬ場所に放り出された私の頭は、知らないうちに周囲の風景に毒され、すっかり混乱してしまったようだった。
 私は慌てて振り返ると、小走りにまた道を引き返した。
 でも、どこまで行っても見覚えのある通りが出てこない。
 これも後になってそうじゃないかと思ったのは、どうやら行きはすんなり選んだ道なりの曲がり角を、気づかずまっすぐ行ってしまったみたいだった。落ち着いて
 ゆっくり進んでいればあるいは簡単に気づいたかも知れない正しい道を、私はまたしても踏み外した。
 蝉の声は相変わらず私をせき立てる。
 周りの光景は容赦なく私を混乱させてあざ笑っているみたい。
 暑い。
 のどが渇く。
 不安はもう恐怖と言っていい状態だった。
 私は何時しか涙を浮かべながら、見失った道を求めて彷徨った。
 ……いつまでそうしていただろうか。
 ちゃんと時計で計っていたらきっとせいぜい十分足らずだったのだろうけど、その時の私には全く見当も付かなかった。そんな混乱の最中、ちょっと今まで見えなかったものが、はるか向こうにちらついているのに気が付いた。
 緑だ。
 私は、緑が好き。
 湖畔の柔らかな草花達も好きだし、深い森が織りなすビロードのような濃淡も好き。
 虹や花が私の心を華やかに彩ってくれるとしたら、緑の木は静かに包み込んで寝かしつけてくれるように感じる。
 気持ちを落ち着け、安心させてくれる色。
 それが、植物の緑だろう。
 私はその安心を欲しいばかりに、見覚えのない緑の方へ惹かれていった。
 近づくにつれ、緑色は、思った通り木だったことが判った。
 もっともバイロン湖畔のどっしり構えた木々とはまるで違う。
 弱々しく枝を広げた木が、乾いた葉をつけてまばらな影をからからの地面に落としているばかりだ。
 きっと根が広がる場所が足りないのだろう。
 そんな木がざっと十本くらい? 小さな箱庭のような公園のあちこちに、無造作に並んでいた。確か日本語では、こういうのを「猫の額」と言うんだったっけ。なるほど、ぴったりの言葉だと思う。
 公園には相変わらず人気はない。
 ペンキの剥げた滑り台や鉄棒も、お日様の光に、ただ鈍く光るばかりだ。
 私はせめて影で坐ることが出来ないか、とその公園を見回した。
 さすがに疲れてしまったから、今はちょっと落ち着いて考える時間と場所が欲しかった。
 彼女がいたのは、その公園で唯一木陰が覆っている、古ぼけたベンチだった。
 ふわふわの金髪にピンクのリボンをウサギの耳のように立て、同じ色の半袖ワンピースの上から、白いエプロンドレスをつけている。
 その少女が、私を見てまるでずっと知り合いだったみいににっこりと笑顔を形作った。
 思わず私も口元をほころばせた。
 くりくり動く大きな目が私の顔を見つめ、その可憐な唇が動いた。
「どう? 坐らない?」 
 でも、それだけならびっくりはしなかっただろう。
 私は疲れていたし、迷子になって心がくじける寸前だった。驚く余裕などつゆほどもなかった。
 それでも私が驚いたのは、実はその言葉が日本語じゃなかったからだ。言葉を失って立ちつくした私に、その少女は少し小首を傾げ、もう一度、違う言葉で同じ意味のことを言い、更に言語を換えてまた言った。
 英語とドイツ語とフランス語。
 外見からして日本人っぽくないけど、この異国で急にそんな風に語りかけられるとは夢にも思わなかった。
 私は咄嗟に返事が出来ずにただ見つめ返すだけ。
「あれぇ、言葉通じないのかな?」
 少し眉を顰めて呟いたのは、間違いなく日本語だった。それも、工場の社長のような分かりにくい言葉じゃなくて、すっきり耳に入ってくる言葉だった。
「い、いえ、ごめんなさい」
 私は気が動転していたのか、思わず日本語で意味なく謝っていた。すると少女は、まるで電灯のスイッチを入れたみたいに明るく朗らかな笑みを顔中に閃かせて、私に言った。
「なんだ、日本語判るんじゃない! あーよかった。外国語ってなんか緊張しちゃうのよね」
 少女はほっと一息つくと、改めて私に話しかけた。
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