日本オペラ振興会(藤原歌劇団)が創立75周年記念公演として、ポンキエッリのオペラ「ラ・ジョコンダ」を上演した。私は初日をみたが、快調だ。
このオペラには主要な登場人物が6人いる。人数が多いので煩瑣になるが、まずは個々の感想から。
主役の歌姫ジョコンダはポルトガルのソプラノ、エリザベート・マトス。イタリアやスペインではワーグナーの諸役もうたっている歌手だそうだが、声の太さ、彫りの深さ、劇的表現の大きさ、どれをとっても申し分ない。
ジョコンダが恋い慕うエンツォは韓国のテノール、チョン・イグン。芯の強い声だ。
エンツォの昔の恋人ラウラはモルダヴィアのメゾ・ソプラノ、エレナ・カッシアン。太く豊かな声で、ジョコンダに負けていない。
エンツォからラウラを奪ったアルヴィーゼは中国のバス、彭康亮。声量はやや劣るが、正確な歌唱だ。
アルヴィーゼの部下で密偵のバルナバは日本のバリトン、堀内康雄。悪の化身の役どころを担って健闘したが、さらに背筋の凍るような冷たさを求めたいところ。
ジョコンダの盲目の母チェーカは日本のメゾ・ソプラノ、鳥木弥生。若手ながら、全曲を通して重要なテーマとなる第1幕のアリアをしっかりうたっていた。
要するに、以上の6人が互いに拮抗している上演だった。そのことによって、このオペラの堂々とした骨格がみえてきた。私は1999年の新星日本交響楽団の演奏会形式上演をきいて、いいオペラだと思ったが、今回の舞台上演をみて、その真価が分かった。
指揮は菊池彦典で、上記の新星日本交響楽団のときもこの指揮者だった。イタリア・オペラが身についている練達の職人だ。
演出は岩田達宗。当日のプログラムに載った演出ノートに興味深い部分があったので、少々長くなるが、引用させてもらいたい。「今回の舞台装置は、水に浮かんだヴェネツィアという罠だ。登場人物はすべて橋を渡って、このバルナバが張り巡らした罠の中へ入っていく。逆に、出口も橋しかない。橋以外の経路から逃げ出そうにも四方はほの暗い運河の水がやはり罠となってまちかまえている。」
なかなか見事な発想だ。ならば、できることなら床一面に水を張って、その上にセットを組むことができればよかったかな・・・と、後で反芻しながら思った。
バレエはスターダンサーズ・バレエ団。「時の踊り」は、野暮ったかった。
全体的な印象としては、手ごたえ十分だった。私は、今は昔の(帰宅後、調べてみたら昭和48年7月だった)二期会のオペラ公演「さまよえるオランダ人」のときの吉田秀和さんの評言を思い出した、「当たりも当たり、大当たりというべきだろう」。
(2009.01.31.東京文化会館)
このオペラには主要な登場人物が6人いる。人数が多いので煩瑣になるが、まずは個々の感想から。
主役の歌姫ジョコンダはポルトガルのソプラノ、エリザベート・マトス。イタリアやスペインではワーグナーの諸役もうたっている歌手だそうだが、声の太さ、彫りの深さ、劇的表現の大きさ、どれをとっても申し分ない。
ジョコンダが恋い慕うエンツォは韓国のテノール、チョン・イグン。芯の強い声だ。
エンツォの昔の恋人ラウラはモルダヴィアのメゾ・ソプラノ、エレナ・カッシアン。太く豊かな声で、ジョコンダに負けていない。
エンツォからラウラを奪ったアルヴィーゼは中国のバス、彭康亮。声量はやや劣るが、正確な歌唱だ。
アルヴィーゼの部下で密偵のバルナバは日本のバリトン、堀内康雄。悪の化身の役どころを担って健闘したが、さらに背筋の凍るような冷たさを求めたいところ。
ジョコンダの盲目の母チェーカは日本のメゾ・ソプラノ、鳥木弥生。若手ながら、全曲を通して重要なテーマとなる第1幕のアリアをしっかりうたっていた。
要するに、以上の6人が互いに拮抗している上演だった。そのことによって、このオペラの堂々とした骨格がみえてきた。私は1999年の新星日本交響楽団の演奏会形式上演をきいて、いいオペラだと思ったが、今回の舞台上演をみて、その真価が分かった。
指揮は菊池彦典で、上記の新星日本交響楽団のときもこの指揮者だった。イタリア・オペラが身についている練達の職人だ。
演出は岩田達宗。当日のプログラムに載った演出ノートに興味深い部分があったので、少々長くなるが、引用させてもらいたい。「今回の舞台装置は、水に浮かんだヴェネツィアという罠だ。登場人物はすべて橋を渡って、このバルナバが張り巡らした罠の中へ入っていく。逆に、出口も橋しかない。橋以外の経路から逃げ出そうにも四方はほの暗い運河の水がやはり罠となってまちかまえている。」
なかなか見事な発想だ。ならば、できることなら床一面に水を張って、その上にセットを組むことができればよかったかな・・・と、後で反芻しながら思った。
バレエはスターダンサーズ・バレエ団。「時の踊り」は、野暮ったかった。
全体的な印象としては、手ごたえ十分だった。私は、今は昔の(帰宅後、調べてみたら昭和48年7月だった)二期会のオペラ公演「さまよえるオランダ人」のときの吉田秀和さんの評言を思い出した、「当たりも当たり、大当たりというべきだろう」。
(2009.01.31.東京文化会館)