沖澤のどかの評判を聞くにつけ、早く聴いてみたいと思っていた。ついにその日が来た。なるほど、これは逸材だと思った。
1曲目はモーツァルトの「魔笛」序曲。最初の和音を聴いた途端に、そのクリアーな音に感心した。アレグロの主部に入ると、繊細な音が躍動する。音が団子状態にならずに、すべての音が見通しよく聴こえる。中間部の金管楽器による「タターンターン」というファンファーレは、最後の「ターン」が若干弱く演奏された。そのニュアンス付けに惹きこまれた。フォルテの部分は開放感がある。その開放感は指揮者としての確かな資質を感じさせる。
2曲目はベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」。ヴァイオリン独奏は三浦文彰。オーケストラは引き続きクリアーな音を保っている。第2部冒頭の衝撃的な音もけっしてカオスにはならない。あの部分がこんなに見通しよく鳴ったのは、今まで聴いたことがないと思った。全体を通して、肩の力を抜いてリラックスした演奏のように聴こえた。晦渋さは微塵もない。第1部の最後でのホルンのソロや、第2部のコラールでのトロンボーンのソロは美しく、かつ意味深く聴こえた。
ヴァイオリン独奏の三浦文彰は、オーケストラのテクスチュアの一部になったような演奏をした。オーケストラとヴァイオリン独奏とが、蔓が絡み合うように、繊細なテクスチュアを織りあげた。けっしてオーケストラを引っ張るとか、自己主張をするとか、そんな演奏ではない。その結果、全体として一編の抒情詩のような演奏になった。
3曲目はメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」。前2曲の演奏の特質を引き継ぎつつ、そこにアグレッシヴな攻めの演奏を加味して、見事なものになった。フォルテの音の切れ味は目が覚めるようだ。またどこをとっても細かい息づかいが脈打っていることも特筆ものだ。
個別のパートでは、第1楽章の展開部でのコントラバスの動きが明瞭に、(実感としては)立体的に聴こえた。その後もコントラバスの動きが浮き上がることがあった。沖澤のどかの音の見通しのよさの一例かもしれない。またクラリネットの一番奏者が、第2楽章のテーマはもちろんのこと、アンサンブルを構成する部分でも、さりげなく、滑らかに動いた。それは木管楽器群のアンサンブルへの配慮の象徴のように見えた。
沖澤のどかの音は、わたしにはカーチュン・ウォンの音を連想させた。クリアーで見通しがよく、肩の力を抜いて、しかも切れ味がよく、さらにそれらの音の構成にはスケール感がある。二人は同世代のように見える。新世代の登場だろうか。
(2021.7.9.サントリーホール)
1曲目はモーツァルトの「魔笛」序曲。最初の和音を聴いた途端に、そのクリアーな音に感心した。アレグロの主部に入ると、繊細な音が躍動する。音が団子状態にならずに、すべての音が見通しよく聴こえる。中間部の金管楽器による「タターンターン」というファンファーレは、最後の「ターン」が若干弱く演奏された。そのニュアンス付けに惹きこまれた。フォルテの部分は開放感がある。その開放感は指揮者としての確かな資質を感じさせる。
2曲目はベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」。ヴァイオリン独奏は三浦文彰。オーケストラは引き続きクリアーな音を保っている。第2部冒頭の衝撃的な音もけっしてカオスにはならない。あの部分がこんなに見通しよく鳴ったのは、今まで聴いたことがないと思った。全体を通して、肩の力を抜いてリラックスした演奏のように聴こえた。晦渋さは微塵もない。第1部の最後でのホルンのソロや、第2部のコラールでのトロンボーンのソロは美しく、かつ意味深く聴こえた。
ヴァイオリン独奏の三浦文彰は、オーケストラのテクスチュアの一部になったような演奏をした。オーケストラとヴァイオリン独奏とが、蔓が絡み合うように、繊細なテクスチュアを織りあげた。けっしてオーケストラを引っ張るとか、自己主張をするとか、そんな演奏ではない。その結果、全体として一編の抒情詩のような演奏になった。
3曲目はメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」。前2曲の演奏の特質を引き継ぎつつ、そこにアグレッシヴな攻めの演奏を加味して、見事なものになった。フォルテの音の切れ味は目が覚めるようだ。またどこをとっても細かい息づかいが脈打っていることも特筆ものだ。
個別のパートでは、第1楽章の展開部でのコントラバスの動きが明瞭に、(実感としては)立体的に聴こえた。その後もコントラバスの動きが浮き上がることがあった。沖澤のどかの音の見通しのよさの一例かもしれない。またクラリネットの一番奏者が、第2楽章のテーマはもちろんのこと、アンサンブルを構成する部分でも、さりげなく、滑らかに動いた。それは木管楽器群のアンサンブルへの配慮の象徴のように見えた。
沖澤のどかの音は、わたしにはカーチュン・ウォンの音を連想させた。クリアーで見通しがよく、肩の力を抜いて、しかも切れ味がよく、さらにそれらの音の構成にはスケール感がある。二人は同世代のように見える。新世代の登場だろうか。
(2021.7.9.サントリーホール)