Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ブライアン・ファーニホウの音楽

2022年05月25日 | 音楽
 東京オペラシティのコンポージアム2022。今年の作曲家はブライアン・ファーニホウ(1943‐)。現代音楽の大御所だ。「新しい複雑性」という言葉がトレードマークのようについてまわる。わたしもその譜面の一例を本で見たことがある。面食らうような譜面だ。リズムを勘定する気も起らない。そんな譜面がどんな音で鳴るのか。

 もっとも、コンポージアム2022に先立ち、ファーニホウの曲を何曲かYouTubeその他で聴いてみた。どこをどう聴いたらよいのか、つかめなかった。これはお手上げだ、というのが正直なところだった。でも、コンポージアム2022に行ってみた。実演を聴いたときに、なにかがつかめるか。そしてもうひとつ、演奏がアンサンブル・モデルンであることにも惹かれた。フランクフルトを拠点とする現代音楽の演奏集団だ。ファーニホウを聴くには絶好の機会だろう。

 1曲目は「想像の牢獄Ⅰ」(1982)。イタリアの版画家・ピラネージ(1720‐78)の版画の題名をとっている。わたしもその版画なら知っている。なので、そのイメージで聴いたのだろう。複雑な迷路のような牢獄に閉じ込められた絶望の叫びから始まる。音楽はエネルギーを減衰させて終わる。牢獄から解放されたのか、それとも息絶えたのか。

 2曲目は「イカロスの墜落」(1987‐88)。ブリューゲル(1525/30頃‐1569)の「イカロスの墜落のある風景」に想を得た曲だ。ブリューゲルのその絵画なら見たことがある。崖に沿った道を農夫が歩く。崖の下は海だ。海のむこうにイカロスが墜落するのが小さく見える。だが農夫は気付かない。のんびりと日常生活を続ける。

 その絵画が目に浮かぶせいもあるだろうが、ファーニホウのこの曲は、空中を浮遊するイカロスを描くように聴こえた。最後は墜落する。それはユーモラスでもある。

 この曲はクラリネット独奏と室内アンサンブルのための曲だ。クラリネットはイカロスを表すのだろう。金切り声を上げるような高音から、内にこもる低音まで、幅広い音域を駆け巡る。リズムは複雑というよりも、勝手気ままに吹いているように聴こえる。もちろん厳密に記譜されているわけだ。クラリネット独奏はヤーン・ボシエール。アンサンブル・モデルンの一員らしい。難曲を難曲らしく感じさせない。

 3曲目は「コントラコールピ」(2014‐15)。この曲は印象が薄かった。4曲目は「クロノス・アイオン」(2008)。これは当夜の白眉だった。なにがどうおもしろかったか、うまく説明できないが、ともかく晦渋な現代音楽ではなく、洗練された、明るい音色の曲のように感じられた。演奏が良かったからだろう。演奏が良いとこのように聴こえるのか。
(2022.5.24.東京オペラシティ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする