Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

指揮者の引退

2024年11月01日 | 音楽
 97歳のブロムシュテットがN響のA、B、Cのすべてのプログラムを振って帰国した。わたしはAプロ(オネゲルの交響曲第3番「典礼風」とブラームスの交響曲第4番)とCプロ(シューベルトの「未完成」と「ザ・グレート」)を聴いた。Aプロのときはオーケストラのコントロールが衰えたかなと思ったが、Cプロのときは見事なコントロールに脱帽した。ブロムシュテットは来年10月にもA、B、Cの全部のプログラムを振る予定だ。ブロムシュテットには引退の言葉はないらしい。

 昔はストコフスキー(1882‐1977)が長老指揮者の代名詞だった。ストコフスキーは90歳を超えても指揮を続け、引退宣言をしないまま、95歳で亡くなった。その後、朝比奈隆(1908‐2001)が90歳を超えても指揮を続け、巷では「ストコフスキーを超えるのではないか」と噂されたが、93歳で亡くなった。ブロムシュテットは97歳だ。ストコフスキーを軽く超えてしまった。

 高齢になっても指揮を続ける人はいる。だが中には目を覆うばかりに衰える人がいる。最晩年のカール・ベームがウィーン・フィルを率いて来日した際は、椅子に座って指揮をしたが、「指揮台で居眠りをしていた」といわれる。真偽のほどは定かではないが、そんな陰口をいわれる余地はあった。またN響を振った指揮者の中では、サヴァリッシュやプレヴィンが、最後の演奏会では悲しくなるくらい衰えた。

 一方、指揮者の中には引退宣言をする人もいる。たとえばハイティンク(1929‐2021)は2019年に引退宣言をした。そして2年後に92歳で亡くなった。わたしがハイティンクを最後に聴いたのは2015年のザルツブルク音楽祭でウィーン・フィルを振ったときだ。曲目はブルックナーの交響曲第8番だった。そのときはウィーン・フィルがほんとうに安心して演奏している様子に感動した。

 アシュケナージ(1937‐)は2020年に引退宣言をした。当時82歳だった。指揮者としてはまだやれる年齢だ。わたしは驚いた。その後どうしているか、消息は伝わらない。アイスランドのレイキャビクに自宅があるそうなので、自宅で悠々自適の生活をしていると良いのだが。アシュケナージのような身の引き方は、指揮者にかぎらず一般人にも、理想的に思える。やるべきことをやったら潔く身を引く。そして世間から消息を絶つ。それはできそうでできないことだ。

 今わが国では特異なケースが進行中だ。井上道義(1946‐)が今年の年末で指揮から引退すると宣言して、そこにむけて指揮を続けている。世間の注目を一身に集めてゴールに駆け込む。その引退の仕方は、井上道義らしい生き方かもしれない。

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