Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ソヒエフ/N響

2024年01月15日 | 音楽
 ソヒエフが指揮したN響の定期演奏会Aプロ。1曲目はビゼー作曲シチェドリン編曲の「カルメン組曲」。バレエのための音楽だ。初めて聴いたときにはびっくりした。「カルメン」の音楽が順不同に出てくるのはともかくとして、「カルメン」とは関係のない「アルルの女」の音楽と「美しきパースの娘」の音楽が出てくる。たぶんバレエのストーリーの展開のうえで、つなぎの音楽が必要だったのだろう。

 弦楽合奏と多数の打楽器(5人の打楽器奏者が演奏)のための音楽だ。全体は13曲からなる。たとえば第4曲「衛兵の交代」では打楽器がコミカルな動きをする。第11曲「アダージョ」から第12曲「占い」、第13曲「終曲」へと一気にシリアスになる。コミカルからシリアスへの転換が鮮やかだ。

 演奏は極上だった。弦楽器も打楽器も繊細な神経が張り巡らされ、集中力が途切れない。しかも力まずに、リラックス感を保つ。まさに一流指揮者と一流オーケストラの演奏だ。とくに印象に残った部分は第10曲「闘牛士とカルメン」で挿入される「美しきパースの娘」のボヘミアの踊りだ。驚くほど幻想的な響きだった。この部分はこういう音が鳴っていたのかと、目から鱗が落ちる思いだった。

 2曲目はラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」。1曲目でN響の弦楽器と打楽器を堪能した後に、2曲目では木管楽器を堪能した。シンプルな2管編成で書かれている。その一人ひとりの演奏に耳を澄ませた。どの音も音楽的だ。たぶん1曲目でわたしの耳がリフレッシュしたので、2曲目も細かく聴けたのだろう。

 3曲目はラヴェルの「ラ・ヴァルス」。この曲ではフル編成のオーケストラを堪能したわけだが、それと同時にこの曲の奇怪さも感じた。しきりに思い出したのは「ツィガーヌ」だ。ロマの音楽を模した曲だが、できあがった曲はロマとは別物の、ラヴェルの音楽だ。それと同じように「ラ・ヴァルス」も、ウィンナ・ワルツへのオマージュだといわれるが、曲自体はウィンナ・ワルツとは別物のラヴェルの音楽だ。しかも最後の、すべてが崩壊するエンディングが衝撃的だ。バレエ音楽なので、舞台上で全員が倒れれば効果的だろうが、音楽だけ聴くと、エンディングにうろたえる。それは一種のディストピアだ。そのためだろう。全体がどこか暗い。華麗で幻想的で「生きる喜び」を表すといわれるが、それは上辺のことで、底にはペシミズムがある。

 演奏は彫りが深く、陰影の濃い、堂々としたものだった。N響が1曲目と2曲目の張りつめた神経から解放され、パワー全開だった。2曲目までは出番のなかった金管楽器が切れ味のいい演奏を聴かせた。
(2024.1.14.NHKホール)
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