Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

出口大地/日本フィル

2024年10月06日 | 音楽
 最近、出口大地(でぐち・だいち)という指揮者の名前をよく見かける。どんな指揮者だろうと思っていた。日本フィルの横浜定期に登場するので、楽しみにしていた。結論から先にいえば、とても良い指揮者だと思った。

 1曲目はハチャトゥリアンの「スパルタクス」より「スパルタクスとフリーギアのアダージョ」。出口大地は2021年のハチャトゥリアン国際指揮者コンクールで優勝したので、ハチャトゥリアンを演奏する機会が多いのかもしれない。それもキャリアの形成期には名刺代わりになるだろう。当夜の「アダージョ」では冒頭の弦楽器の音の繊細さに惹かれた。以後もその印象は損なわれなかった。

 2曲目はカバレフスキーの組曲「道化師」。ギャロップが圧倒的に有名だが、組曲全体を聴くのは初めてかもしれない。プロローグは聴いたことがあると思った。その他の曲は(組曲は全部で10曲からなる)記憶がないが、どれも面白かった。演奏はリズムが軽くてチャーミングだった。

 3曲目はチャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」(フィッツェンハーゲン版)。チェロ独奏は鳥羽咲音(とば・さくら)。プロフィールによると2005年生まれなので、今年19歳だ。いまはベルリン芸術大学に在学中。テクニックがしっかりしていて、楽器も鳴る。もっと大きな曲でも良さそうだ。アンコールにプロコフィエフの「マーチ」が演奏された。

 休憩後、4曲目はムソルグスキーの「展覧会の絵」(ラヴェル編曲版)。冒頭のトランペットの柔らかくて伸びのある音に惹かれた。ソロ・トランペット奏者のオッタビアーノ・クリストーフォリは降り番で、日本人の奏者が吹いていた。以後、その奏者に注目した。「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ」の中間部も安定感がある。優秀な奏者だ。だれだろうと、帰宅後調べてみた。犬飼伸紀という人だったようだ。

 演奏全体は音がきれいなことが特徴だった。出口大地の指揮は、力まず、変に音楽をいじらずに、音色のイメージが明確なようなので(加えて、フレーズの入りを合わせやすい指揮のようだ)、オーケストラは演奏しやすいのではないだろうか。それが音の美しさにつながったと思う。しかもそれだけではなくて「バーバヤガー(鶏の足の上に立つ魔女の小屋)」の出だしではダイナミックで鋭角的な演奏をした。出口大地はオーケストラにとって合わせやすいだけではなく、踏み込んだ表現もする指揮者だ。

 書き落としたが、出口大地は指揮棒を左手で持つ。加えて、右手の動きも雄弁だ。ユニークな両手の動きから、新鮮な音楽が流れる。
(2024.10.5.横浜みなとみらいホール)
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