菅首相辞任を誘導すべき民主参院選総括に注目
民主党執行部は7月29日午後、両院議員総会を開催し、参院選の総括を行うことを決定した。参院選実施から18日経過しての参院選総括は、あまりに遅すぎる対応である。
民主党執行部が発表する総括案では、菅直人首相の消費税発言が唐突感を与えたとの見解が示されるようだが、この問題について、事実関係を明確にした総括が必要である。
菅首相は選挙戦の後半に「説明不足」や「誤解を与えた」などの表現を用い、「税制抜本改革の超党派の論議を呼び掛けただけ」などと弁明した。しかし、そののちに、「1ミリたりともぶれていない」、「1ミリたりとも後退していない」と述べた。
菅首相の暴走と迷走が民主党大敗の最大の原因になったことは明白である。菅首相の失策によって、本来、国会で活躍するはずの有能な人材が参院選で敗北した。民主党を指示する国民に対しても、落選した民主党候補者に対しても菅首相は責任を明らかにする必要がある。
消費税発言について、民主党は事実に即した総括を行う必要がある。参院選後半における菅首相の行動は、「逃げ、ぶれ、ごまかし」と言わざるを得ないものだった。この責任逃れのぶれまくった言動が民主党を大敗に導く原動力になった。その行動を真正面から総括しない限り、参院選の正しい総括にはなり得ない。
菅首相が消費税率10%発言を行ったのは、参院選マニフェスト発表会見の場においてである。幸い、民主党が公式サイトにマニフェスト発表会見の全容を動画配信しているので、問題を総括するためには、改めて動画を詳細に確認する必要がある。
菅首相は12分45秒の会見の大半を「強い経済、強い財政、強い社会保障」の説明に充てた。発言の7分経過以降は、消費税増税公約に充当した。
このなかで菅首相は、
「(消費税増税を含む)税制抜本改革案を年度内にまとめる」
(10分30秒経過時点)
「当面の税率としては自民党が提示した10%を参考にする」
(10分59秒経過時点)
と明言した。
さらに、超党派での協議が難航した場合には、与党単独でも税制改革案をまとめて成立を期す方針を明示した。
また、玄葉光一郎政調会長は、質疑応答のなかで、
「最速で2012年秋の実施」
(7分20秒経過時点)
を明示した。さらに玄葉光一郎氏は菅首相の口からマニフェスト発表会見で消費税増税公約が示されたことについて、「菅首相の思い入れがそれだけ強いためにこの形になった」ことを明示した。また、記者からの「公約と受け止めていいのか」の質問に対して、「マニフェスト発表会見での発言であるから、当然、公約という位置づけになる」ことを明言した。
つまり、菅首相の10%消費税率発言は、問題提起でも、論議の呼び掛け、でもなかった。参院選に向けての民主党マニフェストの「目玉」として示されたものであり、菅首相自身が自民党などの野党との協議が整わなくても、単独ででも法案をまとめて国会に提出する意向を示したものだった。
ところが、この消費税大増税公約提示に対する批判が高まると、菅首相は「逃げ、ぶれ、ごまかし」の方向に走った。この行動が有権者の強い批判を招いたと考えられる。
世論の批判に直面して、消費税増税公約を撤回したのなら、これはひとつの選択である。また、世論の反発にあっても、とよい覚悟と信念の下に提示した公約であるから、この公約を堅持するとの姿勢を貫くのも一つの選択である。
責任ある政治行動としては、上記の二つの選択肢のうちのいずれかが選択されなければならなかった。
ところが、菅首相が取った行動は、上記の二つの選択肢のいずれにも該当しない、「逃げ、ぶれ、ごまかし」だった。この「逃げ、ぶれ、ごまかし」が、有権者の厳しい批判の主因になったと考えられる。
菅首相は、明確に公約として示したにもかかわらず、
「論議を提起しただけ」
「超党派の協議を呼びかけただけ」
「総選挙で民意を問わずに消費税増税を実施しない」
などの発言を繰り返し、さらに、
「年収が300万円以下、350万円以下、400万円以下の国民には税の還付を行う」などの発言を不規則に繰り返した。
十分な検討をせずに、その場の思いつきでさまざまな具体案を提示したことは明白だった。
しかし、マニフェスト発表会見で菅首相も玄葉政調会長も、総選挙で民意を確認して消費税増税を行うのが「原則的に」必要、あるいは、「本来望ましい姿」だとは述べたが、この点を確約しなかった。つまり、総選挙前の消費税増税実施を否定せず、その結果として、最速2012年秋の実施を明言したのだ。
民主党の参院選総括では、この問題についての十分な検証と、責任明確化が不可欠である。
この問題の最大の焦点は、これらの重要施策、マニフェストの目玉政策の決定が、民主党内の民主的な意思決定手続きによって決定されたのかどうかの検証である。
民主党は昨年8月の総選挙で、政府支出の無駄排除優先を明示した。そのうえで、衆議院任期中の消費税増税を完全に封印した。増税を検討する前に、政府支出の無駄を排除するのが先決であり、政府支出の無駄排除をやり切るまでは消費税増税を封印することを公約として明示した。
これが、民主党が主権者国民とかわした約束、契約の骨子である。
菅首相が6月17日のマニフェスト発表会見で明示した新しい公約は、昨年8月の総選挙で民主党が掲げた公約とまったく異なるものである。その内容は、国の経済政策の根幹中の根幹である税制、しかも一般国民全体に重大な影響を及ぼす消費税大増税問題である。
こうした根本政策のついての主権者との契約、政権公約を変更するのであれば、当然、民主党内で十分な協議と公約変更の民主的な手続きが必要になる。
最大の問題は菅首相の新公約提示が、このような民主的な手続きを経て決定されたものであるのかどうかである。
小沢一郎氏の代表時代の党運営について、菅首相および菅政権の執行部議員は、意思決定手続きが十分に民主的でないとの批判を繰り返していた。この批判を踏まえれば、菅新体制の下では、少なくとも、消費税問題などに関する政権公約については、十分に慎重な党内論議が不可欠なはずである。
民主党の参院選総括においては、まずこの点が十分に検証されなければならない。
そのうえで、もし、菅首相が十分な党内手続きを経ずに消費税大増税公約を対外発表したことが明らかにされるなら、菅首相自身の責任が厳しく問われなければならないはずだ。
菅首相は総選挙を経ない首相交代について、野党時代に「民意を問うべき」との批判を展開してきた。今回、総選挙を経ない首相交代について、「参院選が菅政権に対する信任を明らかにする」ことを明言した。
その参院選で、菅首相が勝敗ラインに定めた低めのハードルである54議席を大幅に下回る44議席しか獲得できず、多くの有能な人材を参院選で落選させてしまった。
責任ある政治家として、菅首相は責任を明確化することが不可欠である。また、菅首相は参院選に臨む新体制構築に際して、「ノーサイド」発言に逆行する「反小沢体制構築」に突き進んだ。菅首相による民主党分裂人事も多くの民主党支持者の民主党離反を招く重大な原因になった。
参院選総括ではこの問題もしっかりと総括されなければならない。
菅首相は辞任する以外に道はないというのが、客観情勢である。この情勢のなかで、民主党現執行部がどのような参院選総括を示すのかが注目される。