「社会保障と税の一体改革」という名の単なる巨大増税
「社会保障と税の一体改革」
と野田内閣は表現しているが、いろいろと細部を問うと、
「単なる巨大消費増税」
以外、何も残らない。
これが、野田佳彦氏がいま進めている
「社会保障と税の一体改革」
だ。
参議院予算委員会で、「みんなの党」の小野次郎氏が質問した。
腕の立つ法廷弁護士の姿を彷彿させた。
ニュース報道も、小野氏と岡田氏のやり取りを放映した。
しかし、解説がないと、良かったのか悪かったのか、なかなか一般市民の腑には落ちない。
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二つの大きなポイントがある。
ひとつは、消費増税は、社会保障制度の抜本的な改革とセットで行うこと。だから、「一体改革」なのだ。
もうひとつは、消費増税の前に「わが身を削る」ことが必要だと政府が述べていること。
後者については、野田佳彦氏が、
「シロアリを退治し、天下り法人をなくし、天下りをなくす。
ここから始めなければ消費税をあげるのはおかしい」
と演説した動画が普及しており、全国民がこのセリフを暗記しておくべきだろう。
野田佳彦氏「シロアリ退治なき消費増税糾弾」演説
ただ、これ以外にも、野田氏や岡田氏が、消費増税の前提条件をいくつも掲げている。
それらをすべてやったうえで消費増税というのでなければ、「おかしい」ということだ。
さて、第一の問題は、消費増税とセットになる社会保障制度の抜本改革とは何を意味するのかだ。
この通常国会で消費増税を決めようというのだから、政策プロセスは最後の一手というところでないと間に合わない。
万全の案を国会に提出し、論議してもらい、成立させる、その上で消費増税を実現するのでなければ筋が通らない。
万全の法案が用意されていなければ、とても成立など覚束ないが、法案などまだ遠い彼方。民主党では党内論議さえ終わっていない。
実が何もないのだ。
民主党は2009年8月総選挙で、年金制度の抜本改革を実現することを公約に掲げた。
最低保証年金を新たに設定して、年金制度を一元化する。
現行の年金制度を抜本的に再構築して、同時に一元化する。年金制度は基礎部分の最低保障年金と積立方式に近い付加給付部分とによる二階建ての構造になる。このような抜本改革を実現することが政権公約で掲げられた。
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民主党のマニフェストに、消費増税はない。野田氏が「シロアリを退治しないで消費税を上げるのはおかしい」と声を張り上げていたのだから当然のことだ。
ところが、その消費増税をやると菅直人氏と野田佳彦氏が言い始めた。
その増税を受け入れてもらいやすいように、
「社会保障と税の一体改革」
の言葉が使われ始めた。
そうであるなら、少なくとも年金制度の抜本改革案が提示されていなければおかしいが、年金制度改革については、案すらまとまっていない。
税制の抜本改革についても、具体案が何も示されていない。
もぬけの殻だ。
どこが、「社会保障と税の一体改革」なのか。
税制についてすら、「素案」には、細目の設計が示されていない。
他方、「わが身を削る」とは何か。
野田氏は、
「シロアリを退治し、天下り法人をなくし、天下りをなくす
ここから始めなければ、消費税を引き上げるのはおかしい」
そう叫んでいたのではないか。
よく見ると何ひとつやっていない。
岡田氏はメニューだけふんだんに掲げた。
議員定数、議員歳費、特別会計の数、独立行政法人の数、公務員給与、など、項目だけは並べられた。
しかし、これらのひとつひとつを詰めてみると、消費増税案が審議される前に、実現するものがほとんどないことが分かる。
公務員給与など、7.8%下がるのは2年間だけで、恒久的に引き下げられるのは、なんと0.23%だけなのだ。民主党は公務員人件費を2割カットすることを政権公約に掲げたのだが、それが実現する可能性はゼロだ。
結局、「社会保障と税の一体改革」の中身は、
「巨大な消費増税」
でしかない。
これでは、全国民が背を向けるだろう。