第二十五 三時超過章
(密教では正像末を言わない。行者が一印一明一座行法で退転なければ功徳は無尽で必ず成仏する)
真言密教は法身如来、三世常恒の円明日に住して説きたまへる法爾の教体なるが故に、この教体の前には更に正像末の三時を論ぜず。若し信修することのあらば貴賤男女を通じて悉くこれ其の器ならざるはなし。故に高祖大師の釈に曰はく「人法法爾なり。興廃いずれの時ぞ。機根絶絶たり。正像なんぞ別かたん。」(梵網経開題)と。道範上人の云く「問う、本法濁せる吾等、即身成仏の最上乗教に値ふと雖も五濁乱漫の故に三密相応せず、無相の悉地終に之を得べからざるか。答、正像末の三時を分かちて末法には行証なしといふはこれ権教一途の説なり。真言には三世常住と宣べて専ら重障の機に被らしむ。相応経、六度経等の所説之を信ずべし。相応経に曰はく「若し末法の世の人,長くこの真言を誦すれば刀兵も害する事能わず、水火も焚漂せず、蓮華金剛手、翼従して侍衛せん。若し一百八を誦すれば能く百劫の罪を滅し、若し一千遍を誦すれば能く意願を成満す。若し一落叉を誦すれば大金剛身を得、若し一俱胝(1000万)を誦すれば遍照尊となることを得る」と。(金剛峯樓閣一切瑜伽瑜祇經卷上序品第一一切如來大勝金剛頂最勝眞實大三昧耶品第八「若末法世人 長誦此眞言 刀兵不能害 水火不焚漂 蓮華金剛手 翼從而侍衞 若誦一百八 能滅百劫罪 若誦一千遍 能成滿意願 若誦一洛叉 得大金剛身 若誦一倶胝 得成遍照尊」)。と。この刀兵不能害とは有相の悉地なり。「得大金剛身、成遍照尊」とは無相の悉地なり。仍って末世相応の悉地なること、経説分明なり。疑ふべからず。抑々真言教とは秘密如来の説也。仮使三密相応せずとも一印一明一座行法等退転なくんばこれを以て近宿善と為し、或は生中或は終焉に其の証を得べし。若し今生に得ずとも毒鼓の縁(『涅槃経』巻九に「たとえば人ありて、雑毒薬を以ってこれを用いて太鼓に塗り、大衆の中において、之を撃ちて声を発さしむるが如し。心に聞かんと欲すること無しといえども、之を聞けば皆死す。唯一人不横死の者を除く。是の大乗大般涅槃経もまたまた是の如し。在々処々の諸行の衆中、声を聞く者あれば、あらゆる貪欲・瞋恚・愚癡を悉く滅尽する」とあり)、金剛の種、速やかに発して次の生に当に証すべし。若しなほ遅しと雖も摂真実経に「百億劫を経て悪道に堕せず、恒に善友に遇ひ、常に退転せず、弥勒の会中に授記を得べし。」(諸佛境界攝眞實經卷下金剛界外供養品第五「若依法式修此祕密。所在國土安穩豐樂。若有善男子善女人。欲得六神通力。於一念頃。普詣十方無量佛所。來集衆中而爲上首。勸請諸佛轉正法輪。爲諸衆生作導師者。初夜後夜入道場中。應當繋念所歸本尊。依法觀行。現身必得廣大福智。利益衆生無有等比。經萬億劫不入惡道。恒遇善友常不退轉。彌勒會中得佛授記。速證阿耨多羅三藐三菩提。」)と説き給へるがゆえに巨益測るべからざるなり、と。