日々の恐怖 1月11日 海に住むもの(1)
親父が酒の席で怖い話となると毎回話す体験談がひとつある。
今から25年ほど前、親父が30代前半の頃の話だ。
親父はヨットが趣味なんだが、当時はまだ自分のヨットを持っておらず、友人のヨットに乗せてもらうのが休日の楽しみだった。
ゴールデンウィークで1週間以上仕事が休みになり、
“ 海に出たいな~。”
と思っていたら、タイミングよく会社のヨット仲間のHさんがクルージングに誘ってきた。
Hさんはかなりの上役で、部署も違うし年齢も50代と親父とはかなり離れているが、趣味が同じで気も合うので、しょっちゅう一緒に飲みに行く仲だった。
自前のウン百万もする大きなヨットを持っており、当時は俺の家と家族ぐるみで付き合いがあったので、クルージングに誘われて一家で同行することもたびたびあった。
Hさんの誘いは、家族と一緒にちょっと遠出のクルージングに来ないかとのものだったが、あいにく俺とオカンは、オカンの友人一家とキャンプに行く予定があり、家族全員での参加は日程的に難しかった。
Hさんの家族も用事で参加できないらしく、親父とHさんが、
「 さすがに男2人だけで行くのもつまらんしなぁ~。」
などと話し合っていると、親父の後輩でヨット仲間の一人のJさんが、
「 よかったら、友人と参加してもいいですか・・。」
と会話に入ってきた。
Jさんは高校時代からヨットをやっており、社会人になってすぐにローン組んで自分のヨットを購入した筋金入りのヨット好きだが、活動がレース中心の人で、ぶらぶらとクルージングしてるのが好きな親父達とはあまり一緒に活動することがない。
ただ、ちょうど友人2人に海釣りをやりたいから船出してくれと頼まれて、困っていた所とのことだった。
Jさんの所有しているヨットは、レース用の少人数が乗ることを想定した小型のもので、あまり快適とは言い難いし、素人2人連れて自分一人が操縦するとなると正直疲れるので、便乗させてもらえるなら是非とも便乗させて欲しいと頼み込んできた。
Hさんは、
「 どうせ他に行く人間もいないんだから、気にせず連れて来い。」
と快諾し、早速3人でスケジュールを練り、最終的な目的地は小豆島で、道中Hさんが知っている釣りポイントに寄り道するという感じで航路を決め、酒とつまみ大量に買い込んで出航となった。
クルージング中の天気は週間予報でも快晴続きで、雨の心配は全く無い絶好の航海日和で、釣りも絶好調で、ヨット航行中はトローリングでハマチとかが面白いように釣れ、Hさんの知っていたポイントでも大漁で、Jさんの友人二人も大喜びだった。
そんなこんなで若干予定よりも早く最終目的地の小豆島に着き、2日ほど観光したり釣りしたりして過ごしたが、皆疲れがたまってきたので、予定よりも1日早く帰途につくこととなった。
まっすぐ帰る予定であったが、順調に進んで来ているし予定よりもかなり早い帰りになってしまったので、以前にHさん一家と俺の一家で行った小さな島に寄ってみようという話になった。
俺の記憶だと海の家が2軒ほどあるだけの島だが、停泊できる桟橋もしっかりしており、入り江の水も澄んでいる綺麗なところだった。
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