日々の恐怖 1月26日 古都の暗闇(1)
これはまだ俺が京都で大学生だったときの話です。
当時バンドを組んでいた俺は、週末の夜になるとバンドメンバーとスタジオに入り練習をしていました。
その日練習が終わったのは夜の一時でした。
季節は夏で、京都特有のけだるい、のしかかるような蒸し暑い夜でした。
そのスタジオは家から遠く、いつもはバスで帰るのですが、時間的にもうバスも走っていなかったので、仕方なくタクシーを拾いました。
背中に背負ったギターケースをおろし、
“ あー、無駄な出費だなぁ、次のライブのノルマもきついのになあ・・・。”
なんて思いながらタクシーに乗り込みました。
50代くらいのどこにでもいそうなおじさんが運転手でした。
ガンガンに冷房の効いた車内が、汗をかいた体にありがたかったのを覚えています。
「 ○○通りまで。」
と行き先を告げると、運転手さんが話しかけてきました。
「 ○○通りに住んでるってことは、○○大の学生さん?」
「 はい、そうです。」
「 あの近く、ボーリング場があるでしょう?
私ボーリングがすきでねぇ、社のボーリング大会でも結構いいとこまで行ったんですよ。」
「 へえ、そうなんですか。」
正直そのときは練習のあとで疲れていたので話したくはなかったのですが、気さくに笑った目元がミラー越しに見えたので、話し好きのいい運転手さんなんだなと思い、しばらく相槌を打っていました。
そうして話し込んでいると、妙な違和感を感じはじめました。
こちらの返答とまったく関係のない話が急に出てきたり、なんとなく話の前後が合っていないのです。
“ まぁ、そういう話し方をする人はたまにいるよなぁ・・・。”
と気にも留めていませんでした。
が、しばらくすると、
「 ところで○○通りに住んでるってことは、もしかして○○大の学生さん?」
「 あ、はい・・・?」
「 あの近く、ボーリング場ありますよね?私好きなんですよ。
こう見えてうまいんですよ。」
「 ・・・・・。」
「 ○○大の学生さんっておっしゃいましたよねぇ?」
「 あ、はい・・・・。」
「 ボーリング場の近くですよね?
いいなぁ。
実は私ボーリングが趣味でして・・・。」
「 あの・・・。」
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