日々の恐怖 1月16日 祠のこと(2)
Kは父に水を飲ませ、詳しく話を聞いた。
しかし、帰宅途中にバイクのハンドルが効かなくなり、草むらの中に突っ込んでから先の記憶が無いと語る。
居間の散らかり具合を見た父は、自分がやったことも忘れ、唖然としていたという。
翌朝、休日だった事もあり、Kは父と二人で事故現場に赴いた。
そこは緩やかな弧を描く道で、事故を起こすような場所には思えなかったが、Kの心の中には変なものを見た時のような、じめじめとした嫌な気分が生じたそうだ。
Kは、
「 おお、あったあった!」
と素っ頓狂な父の声に振り返った。
しかし、目に入ったのはバイクを手にした父の姿だけではない。
バイクが転がっていた草むらの中には、地元の人々からも忘れ去られたような小さな祠が佇んでいた。
それは祠本体と中の像がひとつの石材から彫り出された簡素な物だったが、像の部分はおぼろげでよく分からない形だった。
風雨に晒されて削り取られたというよりは、むしろ人為的に打ち砕かれたのではないかとも思える。
Kは祠の事を聞こうとしたが、父はバイクがカスリ傷で済んだことにご機嫌で、祠のことなど眼中にない様子だった。
帰宅してからKが祠のことを祖母に尋ねると、
「 口にしちゃならん!」
と怒鳴られ、それ以上聞くに聞けない。
“ やはり、あの祠は何かあるらしい。”
そう思ったKは、日を改めてまた例の草むらに行ったものの、生い茂った草に阻まれてか、再び祠を目にすることは叶わなかったという。
結局、事故と父の豹変、そして祠にどんな関連があったのか分からないまま、Kにいつもの日常が戻った。
ちなみに、この事故から一年くらい経って、Kに父からバイクを譲ってやるという話があったが、祠と関わってしまったあのバイクには何となく乗りたくなかったそうで、Kは学校を卒業するまで、雑木林の先の明かりを目指して懸命にペダルを漕ぎ続けたのである。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ