日々の恐怖 1月12日 海に住むもの(2)
島について湾内に入っても全く船が泊まっておらず、どうやら海の家もやっていないようだった。
「 あー、まだシーズンやなかったか・・・。」
とHさんはかなり残念そうだったが、せっかくなので皆で釣りして、釣った魚で宴会しようという流れになった。
皆で誰もいない島でそれぞれ適当なポイント探して釣り始めると、これが今まで一番の爆釣れ状態。
うちの親父は堪え性がない性格で、全くと言っていいほど釣りに向いてない人間でセンスもゼロだが、そんな親父でもそこそこ釣れるほどで、3時間ほど釣ればクーラーボックスいっぱいになるほどだった。
15時か16時ぐらいに、ちょっと早目の夕飯を食ってから出航しようという流れとなり、皆が釣った魚を大量に使って豪勢な夕食を作り宴会となった。
皆で酒を飲みながらヨットや釣りの話、仕事や家庭、子供の話で大いに盛り上がったが、酒好きだがそこまで強くない親父は途中からウトウトしてしまったらしく、ハッと気がつくと、高かった日が落ちて僅かに水際が光ってるぐらいになっていた。
“ しまった!”
と飛び起きて見回すと、Hさん、Jさんがデッキに拵えたテーブルにグラスを持ったまま突っ伏して寝てる状態で、Jさんの友人2人は船内に入って寝ているようだった。
全員が酔って寝てしまっている状態に親父は苦笑して、
“ とりあえずHさん、Jさんを起こして帰り支度するか・・・。”
と思い、立ち上がって寝てる二人を揺り起こそうとした時、ヨットの船尾からバシャ、バシャ、バシャと派手な水しぶきが上がった。
驚いた親父が船上から覗いてみると、暗いのでよくわからんが、恐らく魚が群れて跳ね回ってるようだった。
小型のライトをつけて照らして確認すると、イカの群れだということがわかった。
かなり近い位置でバシャバシャやってるから、備え付けてあるタモで掬えるんじゃないかと思い、船尾に降りてダメ元で群れにタモを突っ込んでみるとすごい重い手ごたえで、引き上げてみると5匹ぐらいイカが入っている。
親父が思わず、
「 おおっ!」
と驚きの声をあげると、Hさん、Jさんも目が覚めたようで、船尾から上がってデッキでドタドタやってる親父のところに寄ってきた。
親父が海水を汲んだバケツにイカを入れなが事情を説明すると、Hさんは、
「 じゃあ、ワシもやってみるわ。」
と言い、タモ持って船尾に降りて行った。
親父とJさんが、
「 アオリイカかな?」
などとイカについて喋ってると、
“ ドボン!”
と大きな水音がした。
“ まさか!”
と思い船尾を見るとHさんの姿がなく、バシャバシャやってたイカの群れも消えている。
“ これは身を乗り出しすぎて落ちたな・・・。”
と思いながらも親父は、Hさんは泳ぎも上手く、波もまったく無いので、すぐに浮き上がって泳いで帰ってくるだろうと思い楽観していたが、Hさんが浮かび上がってきたのはなぜかヨットから5m近くも離れた場所で、しかも懸命にもがいていた。
溺れたHさんを助けようと親父が反射的に海に飛び込もうとすると、Jさんがすごい力で親父の腕を押さえつけて、怖い顔で、
「 救命用の浮き輪を投げて引っ張りましょう!」
と言う。
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