大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 1月21日 外飼い猫♂

2016-01-21 18:39:40 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月21日 外飼い猫♂



 夫の単身赴任で自分が一人暮らしだった頃、近所のとある外飼い猫♂に異様になつかれた。
高価そうな首輪をした子猫だったが、エサもやらない我が家に、夜毎に来ては爆睡していった。
 そんなある冬、泊まりがけの出張中に予想外の大雪が降った。
猫が心配で心配で、大急ぎで家を目指した。
 家に着いたのは薄暮れ時、ドアノブは氷のように冷たい。
向こうに待つのは、一人きりの暗い部屋だった。

“ 猫は・・・?”

と見回したら、早くも、

「 にゃ。」

と後ろで待っていた。
 地面の雪に、一直線の足跡があった。
撫でようと伸ばす手を待ちきれないかのように、猫は目一杯伸び上がって手のひらに頭をゴッチンスリスリした。
 不意に幼児の姿が浮かんだ。

「 おかーさん帰ってきた!」

と、つないだ温かい手を嬉しくてブンブンする幼児。

“ 子供、いいかもなぁ・・・。”

何かがフッと灯ったように感じた。
 選択子無し夫婦だったのだが、夫に、

「 子供をもってみないか?」

と相談してみた。
そこから亀裂は始まった。
 夫は、

「 契約違反だ、そんな人間は信用できない。」

と言った。
休まず働き続けて家に収入を入れる条件だったと。
 私は、件の猫を連れて家を出ることになった。
猫も成猫となって、飼い主の引越しに置き去りにされたのだ。
 一人と一匹の暮らしはうっすら温かで、この大柄な猫はとても賢く優しく、決して私に怪我をさせなかった。
しかし外飼い時代に猫白血病と猫エイズに感染しており、そう長くは生きなかった。
 猫を送った頃には、私もさらに年齢を重ねていた。

“ ああ、また一人だ。
これからも、多分・・・。”

そう思った。
薄暮れの道を、一人で歩いていくのだ、と。
 その頃、動物好きな今の夫と出会った。
望外の妊娠。
 夫は、

「 おお、生き物が増える!」

と素朴に喜んだ。
無事に息子が生まれ、夫がつけた名前は、さきの猫の名とよく似ていた。
 夫は猫の名前までは知らず、

「 画数で・・・。」

と言った。
 タクマはもう幼稚園児になった。
お迎えにいくと、

「 おかァ~さん。」

と大きな体で腕にぶらさがってくる。
 先生によると、タクマはお友達にも決して乱暴せず、誰かが泣いているとそっとついててあげるそうだ。
タクマがタマの生まれ変わりというのは無理があるし、そうすると不思議な話でも何でもないのだが、薄暮れの道に、

「 にゃ。」

と現れた温いものが人生を変えた、そんな話。











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