日々の恐怖 1月27日 古都の暗闇(2)
その後は、
「 ○○通りの近くはいいですよねえ、あ!○大の学生さんでしょう?」
「 あの近く、ボーリング場があるでしょう?
私ボーリングがすきでねぇ、社のボーリング大会でも結構いいとこまで行ったんですよ。」
「 ○○大の学生さんっておっしゃいましたよねぇ、え?」
こんな感じで、会話がずっと同じ内容でループし始めたのです。
物忘れがひどい年齢には見えませんし、そういった類のものとは違う、なにか得体のしれない不気味さを感じました。
俺のうつろな返答にかまわず、運転手は延々同じ話題を繰り返しています。
密閉された真夜中の車内は暗く重く、いやな汗が背中から吹き出し、効かせすぎた冷房に冷やされて寒気さえ感じていました。
ミラー越しには、さきほどと同じ笑った目元が張り付いたままでした。
突然、会話がふっと途切れました。
“ この奇妙な会話から解放されたのか?”
と思った瞬間、
“ ドンッ!!”
という衝撃音が車内に響きました。
“ ビクッ!”
と身体を硬直させながら見ると、運転手が左足を、まるで何かを踏み殺すかの勢いで床に打ち付けているのでした。
それも一回ではなく何度も何度も、ドン!ドン!ドン!と。
「 ああ!あああ!!あああああ!!!」
さらにはこんな唸り声まで上げ始めました。
運転手は足を、今度は貧乏ゆすりのようにゆらしているのですが、力いっぱい足を上下しているので車がグラグラ揺れるほどでした。
“ なぜ・・・?
前の車が遅かったのが気に障ったんだろうか?
それとも、俺が何か怒らせることを言ったんだろうか!?
ていうか、この人ちょっとおかしいんじゃないか!?”
俺は完全に混乱してうろたえていると、
「 お客さぁん、○○通りに住んでるってことは、もしかして○○大の生徒さん?」
と、また同じことを俺に聞いてきたのです。
グラグラと貧乏ゆすりをしながら、目元にはあの笑顔を張り付けたままです。
この時俺は、もはや違和感や不気味さなどではなく、はっきりとした恐怖心を抱いていました。
自分の命を、明らかに異常な男の操縦に預けている。
これを意識した時の恐怖は、今でもはっきりと思い出せます。
しかも運転は明らかに荒くなっており、曲がるたびに右へ左へ体がふられ、前を走る車にはクラクションを鳴らして強引に前に割り込んで行くのです。
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