大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 1月3日 土蔵の中

2016-01-03 19:26:38 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月3日 土蔵の中



 母方の祖母から聞いた話である。
何十年も前のことだ。
 その日、祖母は珍しく夜更けにふと目が覚めたそうだ。
喉が渇いたので、水を飲もうと台所の灯りをつけたところ、台所から続いている土間の方から、

「 スミマセン、スミマセン。」

と声が聞こえた。
おそるおそる土間の様子を伺うと、どうやら土間の先から繋がっている土蔵の中に誰かがいるらしい。
 声の調子から女性のようだが、蔵の扉には外から閂がかかっているし、扉以外には人が入れるような窓も無い。
祖父を起こそうとも考えたが、一度寝付いたらなかなか起きない人だった。
 相手は女性のようなので、危険はないだろうと思い、祖母は取り敢えず、

「 どなたですか?」

と声をかけてみた。
そうすると、蔵からは早口な喋り方で、

「 コチラに迷い込んでしまって、出るに出られなくなってしまいました。」

と聞こえた。
 これは不思議だ。
どうやって入ったのかと問うても、

「 ナンマンダ、ナンマンダ。」

と繰り返すばかり。
祖母はかわいそうに思い、出してやろうと閂を上げようとした。
 しかし、閂は何故だか動かない。
普段は1人で上げ下げしているのに、その日は重石をかけたように動かなかったのだという。
 仕方が無いので、

「 私の力では開きませんので、お父さんを呼んできます。」

と伝えると、

「 それには及びません。
空が白んでまいりましたので、元来た道を探します。」

と聞こえた後に、

“ バタン!バン!”

と扉を開け閉めするような音がして、その後の倉は静まりかえるだけだった。
 祖母が翌朝に目が覚めた時には、あれは夢か幻かじゃないかと思ったそうだ。
しかし、祖父にその事を伝えると、

「 お前さんは狐にからかわれたんだよ!ガハハ!」

と笑った。
 なんでも、早口であったり無闇に姿を見せないのは、狐が化けた時の特徴なんだそうな。
家の裏手は小川が流れる森となっており、当時は狐やムジナ、狸やらがいたらしい。
 しかし、祖父には、

「 待てよ、ただの狐に仏教は分からんかも知れんな。」

と思うところがあったらしく、蔵の中をくまなく調べてみたところ、床板の下にそれは大きな木箱が埋まっていることに気付いた。
 木箱を掘り起こし、恐る恐る開けてみると、中にはさらに黒々と輝く立派な扉だった。

「 仏壇だ!」

蔵にはそれは立派な仏壇が埋まっていたのだ。
 仏間には仏壇を置くための2畳ほどの小部屋があったのだが、置いてある仏壇の大きさに対して置き場が大きすぎた。
 掘り返された仏壇は、誂えたように仏間の小部屋に収まった。

「 もともと、これを置くための部屋だったんだな。」

祖父はそう言った。
 古来から何度か戦火に見舞われた土地であったため、家財である立派な仏壇を隠しておいたまま、いつしか忘れられてしまったのだろう。
 それ以降、母方の実家では、裏手の小川のほとりに稲荷の祠を立て、奉っている。
とある大きな地震に遭った際、土蔵も、そこから見つかった立派な仏壇も潰れてしまったが、幸い家中に怪我人は出なかった。

「 お稲荷様のおかげだろうて・・・・・。」

とは、当時存命であった祖母の言だ。
 祖父も祖母も既に他界してしまい、事の真偽は確かめようがない。
しかし、稲荷の祠は新調され、今でも家を見守っている。












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