日々の恐怖 2月14日 恐怖心
夏の寝苦しい夜の出来事です。
その日、猛暑と仕事で疲れていた私は、いつもよりかなり早めの9時頃に、子供と一緒に就寝することにしました。
疲れていたのですぐに寝入ることは出来ましたが、早く寝過ぎたのと暑さのせいか、夜中に目が覚めてしまいました。
まだ目は閉じたままでしたが、ふと気が付くと、軽く握った自分の左手のひらの中に何かがありました。
それは誰かの指のようでした。
同じベッドに寝ている子供は自分の右側に寝ているはずです、いつもそうしてますから。
それに、それは子供の指にしては大きすぎるのです。
ドキッとしましたが、目を開けて確かめる勇気はありませんでした。
それなのに、自分でもどういう訳か分かりませんが、反射的にギュッとその指を握ってしまったのです。
それは確かに人間の指でした。
不思議と恐怖心は湧いてきませんでした。
というより、その指はどこかでさわったことの有るように感じで、懐かしくさえありました。
“ 妻か・・、あるいは親か・・・。”
とにかくそんな感じがしました。
そんなことを考えていると、左手の中に握られた指の感触がスッとふいに消えて無くなりました。
しかし、今度はすぐ横に人が座っている気配、というより圧迫感を感じました。
その圧迫感が段々と重みに変わってきて、体中から冷や汗がドッと出てきました。
こんなことは初めての体験でした。
さすがに怖くなってきて、知っているお経を頭の中で何度か唱えました。
しばらくすると、その気配も突然スッと消えて無くなりました。
ほっとして、ゆっくりと目を開け、まわりを確認しましたが、何も変わったところはありません。
子供は静かな寝息を立てて、やはり右側に寝ていました。
しばらく横になって、今の出来事を思い返してみました。
その時、ふっと亡くなった祖母の記憶が蘇ってきました。
自分にとって祖母は母親代わりの人でした。
そんな祖母が老衰と院内で感染した病で、余命幾ばくも無くなっていたときのことです。
週に何度か見舞いに行っていましたが、いつもはただ寝ているだけの祖母が、その日に限って目をぼんやりと少しだけ開けており、私に向かってゆっくりと手を差し出してきたのです。
それは、まるで助けを求めているかのようでした。
私はある種の恐怖心のようなものをその時感じてしまって、弱々しく差し出されたその手を、どうしても握り返してあげることが出来ませんでした。
それからしばらくして祖母は亡くなり、私はその日のことを後悔しました。
感傷的になっていると思われるでしょうが、
“ さっき握った指は、祖母のものだったのかも・・・。”
と思うと涙が出そうになりました。
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