極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

最新熱触媒及び熱電変換素子工学論 ④

2023年07月12日 | 環境リスク本位制


彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救
ったと伝えられる"招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備
え。(戦国時代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした
部隊編のこと)の兜(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。




もう二十年程前になるか、仕事で仙台を訪れた時、韓国冷麺のルー
ツがこの盛岡冷麺に息づいていることを知った時の鮮やかな驚きを
盛夏になると、仙台駅の駅なかで出会った「牛タンサンド」の美味
さとこの思い出を彼女には迷惑なことだろうが、融和しこころ柔ら
ぐ語り草である。

 

     

 

  

【再エネ革命渦論 146: アフターコロナ時代 145】
技術的特異点でエンドレス・サーフィング
  特異点真っ直中  ㉙
ここ数年の科学技術進展に驚く昨今。今日も気になる事例を摘出。

【最新ペロブスカイト材料応用技術情報】


1.効率的で安定した完全印刷された炭素電極ペロブスカイト
 太陽電池
実現に役立つ正孔輸送二重層で作製
7月3日、フリードリヒ・アレクサンダー・エアランゲン・ニュルン
ベルク大学の研究グループらは、炭素電極 PSC (c-PSC) の曲線因子
と開放電圧を改善する正孔輸送二重層(HTbL) 構成を提案。最先端
の炭素電極 PSC (c-PSC) の電力変換効率 (PCE) は、金属電極のPSC
に比べて著しく遅れていた。 印刷可能な平面カーボン電極は、ペロ
ブスカイト太陽電池 (PSC) の背面コンタクトとして、熱蒸着金属の
代替品として浮上。

【要点】
1.正孔輸送二重層は炭素電極用に設計
2.完全周囲環境で印刷可能なペロブスカイト太陽電池を製造
3.エネルギーカスケード(多段)形成で電力変換効率が向上
4.炭素電極ペロブスカイト太陽電池の優れた安定性を実証
【概要】
印刷可能な平面カーボン電極は、ペロブスカイト太陽電池 (PSC)
の背面コンタクトとして熱蒸着金属の有望な代替品として浮上して
いるが、最先端の炭素電極 PSC (c-PSC) の電力変換効率 (PCE) は、
対応する金属電極に比べて著しく遅れていた。ここでは、c-PSCの
曲線因子と開回路電圧を同時に改善するための正孔輸送二重層(HT
bL)構成を提案します。 HTbLはペロブスカイトと炭素の間に2つ
の有機半導体を逐次ブレードコーティング法で調製、外側HTLは炭
素への正孔抽出を強化し、内側HTLはペロブスカイト表面の再結合
を緩和たし結果、HTbL使用し完全印刷。c-PSC は、単一のHTLを使
用した c-PSC よりも優れたパフォーマンスを示し、17.3%と比較し
て19.2%という安定したチャンピオンPCEを達成。このプロトタイプ
のc-PSC は、1 太陽、65℃のエージング テスト (ISOS-L-2I)で
2,500 時間安定して動作し、PCEの低下は無視でき、費用対効果の
高い太陽光発電技術の可能性を検証できたことで、硝子基盤から可
撓性の優れた有機薄膜基盤への実用展開への道を切り開いた。

Efficient, stable, and fully printed carbon-electrode perovskite solar
    cellsenabled by hole-transporting bilayers,  Joule, 2023,
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2.山形大,安定な赤色量子ドットLEDの開発
量子ドットのサイズ制御とグアニジウム置換による赤色量子ドット
7月11日、山形大学は,ペロブスカイト量子ドットの精密なサイズ制御とグ
アニジウム置換により,CsPbI3 QDsの構造安定化を実現し,高効率かつ
長寿命な赤色量子ドットLEDの開発に成功。
【概要】
赤色発光のCsPbI3量子ドットは,優れた発光量子収率と電荷輸送特性を
示す一方で,イオンサイズの小さなCsカチオンにより,結晶格子の歪みや
非光活性相への構造相転移が課題となっている。また,バルク結晶に比
べ極めて高い表面積をもつ量子ドットは,イオン脱離やイオン赤色発光の
CsPbI3量子ドットは,優れた発光量子収率と電荷輸送特性を示す一方で
イオンサイズの小さなCsカチオンにより,結晶格子の歪みや非光活性相
への構造相転移が課題となっている。また,バルク結晶に比べ極めて高
い表面積をもつ量子ドットは,イオン脱離やイオン拡散により発光性能が
低下することが知られている。 この研究では,結晶格子歪みの緩和およ
び量子ドット表面の安定化に着目し,相安定性を有するCsPbI3量子ドット
を合成し,高性能赤色量子ドットLEDを開発した。

研究グループは,平均粒径6-12nmのCsPbI3量子ドットを合成し,結晶構
造および光学評価を実施した。小粒径化されたCsPbI3量子ドットにおいて
光活性相の立方晶構造を形成し,斜方晶への相転移が抑制されたこと
を確認した。 これは,小粒径化により増大した表面エネルギーが格子歪
みを緩和したことに起因する。また,遷移エネルギーと平均粒径の依存
性を検証したところ,平均粒径10nm以下において,量子閉じ込め効果が
発現していることを確認した。小粒径化されたCsPbI3量子ドットは,大粒径
CsPbI3量子ドットに比べ,相安定化と量子閉じ込め効果により,比較的高
い発光量子収率を示した。 さらに,量子ドット表面への高い吸着性を有す
るグアニジウムの導入により,大幅な材料安定性の向上に成功した。量
子ドット表面へのグアニジウムの吸着エネルギーを第一原理計算により
算出したところ,一般的な配位子のオレイルアンモニウムに比べ,高い吸
着エネルギーを示した。 3つの窒素を有するグアニジウムは,量子ドット
表面のハロゲンイオンと複数の水素結合を形成することから高い吸着性し,
大気下および光照射下におけるPLQYの安定化を達成した。さらに,高い
材料安定性を示したGAI-CsPbI3量子ドットを発光層に用いたLEDにおいて,
外部量子効率22.5%および輝度半減寿命10.5時間を示し,ペロブスカイト
量子ドットLEDの高効率かつ長寿命を達成した。
図1. 異なる温度で合成したCsPbI3 QDsのa-c透過型電子顕微鏡画像 (合
成温度は、a 210 ℃、b190 ℃、c140 ℃)およびd X線回折スペクトル。
e CsPbI3量子ドットの平均粒径と遷移エネルギーの依存性。
『関連論文』
雑誌名: Chemical Engineering Journal
論文タイトル: Guanidium Iodide Treatment of Size-controlled CsPbI3
Quantum Dots for Stable Crystal Phase and Highly Efficient Red LEDs
著者:Hinako Ebe*, Rikuo Suzuki, Shunsuke Sumikoshi, Mizuho Uwano,
Reine Moriyama, Daisuke Yokota, Mahiro Otaki, Kazushi Enomoto,
Takao Oto, Takayuki Chiba*, and Junji Kido*
DOI:https://doi.org/10.1016/j.cej.2023.144578

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【最新特許事例】
1.特開2021-48280 グラファイト集積膜、グラファイト集積膜の製
 造方法、並びに該グラファイト集積膜を用いた熱電変換層及び熱
 電対機能ないし熱発電機能つき放熱材
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➲先回のつづきからか

【発明を実施するための形態】
計測端子部における熱起電力ΔVは、 【数1】
に示すように、測温部と計測端子部の温度差ΔTと、一方の熱電変
換層のSeebeck係数(SP)及び他方の熱電変換層のSeebeck係数(S
N)にのみ依存するため、部材の形状に依存しない。 したがって、
下図5に示すように、計測端子部の温度T2が既知で一定、又はΔ
Tが同じ場所なら、どこにΔV計測端子をつないでも、同じΔVが
得られ、部品形状の自由度がある。

図5.本発明のグラファイト集積膜の、熱電対機能付き放熱材の使
 用例を示す図

【符号の説明】1:グラファイト集積膜 2:酸化グラフェン集積
膜 3:放熱・測温対象物(発熱体又は熱源) 4:ヒートシンク 
5:熱電変換層 6:5とはSeebeck係数の異なる熱電変換層 7:
接合部 8:測温部 9:計測端子部 10:負荷 11:放熱フ
ィン

下図6は、本発明のグラファイト集積膜を用いた熱電対機能付き放
熱材の、他の設計・使用例を断面図として示すものであり、前図3
及び前図4と同様に、図中、3は、放熱・測温対象物を示し、5は、
熱電変換層を、6は、5とはSeebeck係数の異なる熱電変換層を、
7は、接合部を示し、矢印は、熱流を示している。(a)に示すよ
うに、放熱・測温対象物(3)から、1対の接合による熱起電力を
測定してもよいし、(b)に示すように、放熱・測温対象部品(3)
から、n対の接合を複数直列にして、合計の熱起電力(測温感度)
を向上させて測定してもよい。


図6 本発明のグラファイト集積膜を用いた熱電対機能付き放熱
材の使用例を示す図、

図6は、本発明のグラファイト集積膜を用いた熱電対機能付き放熱
材の、他の設計・使用例を断面図として示すものであり、
前図3及
び前図4と同様に、図中、3は、放熱・測温対象物を示し、5は、
熱電変換層を、6は、5とはSeebeck係数の異なる熱電変換層を、
7は、接合部を示し、矢印は、熱流を示している。 (a)に示す
ように、放熱・測温対象物(3)から、1対の接合による熱起電力
を測定してもよいし、(b)に示すように、放熱・測温対象部品
(3)から、n対の接合を複数直列にして、合計の熱起電力(測温
感度)を向上させて測定してもよい。


7.発明のグラファイト集積膜の、熱発電する放熱材の設計例を
 示す図

(熱発電する放熱材としての利用)
上図7は、本発明のグラファイト集積膜の熱発電する放熱材の設計
例を断面図として示す図であり、図中、2は、導電性を有しない酸
化グラフェン集積膜を、5は、熱電変換層を、6は、5とはSeebeck
係数の異なる熱電変換層を、7は、接合部、10は、負荷(抵抗R)
を、それぞれ示しており、熱電変換層(5)及び熱電変換層(6)
の少なくとも一方に、本発明のグラファイト集積膜を使用するもの
である。 この例では、熱電変換層(Seebeck係数SP)(5)と、
熱電変換層(Seebeck係数SN)(6)を用い、端部の接合部(7)
を除き、導電性のない酸化グラフェン集積膜(2)を介在させたも
のを用いている。(a)は、その1対の熱発電素子の例であり、最
大出力電力は、
【数2】

となる。
【式3】


図8は、前記図7に示した熱発電する放熱材の使用例を断面図とし
て示す図であり、放熱フィンを兼ねた熱発電素子を示すものであり、
図中、3は、熱源、4は、ヒートシンク、10は、負荷、11は、
放熱フィン、矢印は、熱流を、それぞれ示している。 この例では、
放熱フィン(11)を兼ねた熱発電素子を介して、熱源(放熱対象

物)(3)から放熱をしながら、発電も行うことが可能である。

図8.本発明のグラファイト集積膜の、熱発電する放熱材の
 使用例を示す図

【実施例
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらに限定さ
れるものではない。 


図9.実施例における、本発明のグラファイト集積膜の製造工程を
模式的に示す図
(グラファイト集積膜の製造)
グラファイトを分散する前の界面活性剤水溶液のモル濃度は、水溶
液全体の容積に対し て所定のモル濃度になるように界面活性剤の量
を電子天秤(アズワン製IUZ-101型)で秤量したのち、それを100
mLビーカー内の精製水に投入し、スターラー(アズワン製RS-1AR
型)を用いて室温にて毎分1000回転で回転子を約3分間回して
溶解することで調節した。 図9に示すように、薄片化したグラフ
ァイト粉末(アイテック社製、iGrafen-a、粒子径最大100μm、
平均厚さ約10nm)180mgを前記の界面活性剤の水溶液40
mLに投入し、超音波洗浄器(アズワン製USK-1R型)で30分程度
超音波を印加して分散処理を行うことにより、グラファイト薄片の
表面を界面活性剤の水溶液で被覆した。 その後、このグラファイト
分散液を孔径10μmのPTFEメンブレン(Omnipore製JCWP04700)で
濾過し、メンブレンを除去した直径40mmの積層体を25~70
℃のホットプレート(アズワン製HI-1000型)上で2~6時間静置・
乾燥して水分を除去した。この積層体に、小型熱プレス機(アズワ
ン製AH-2003型)を用いて25~100℃で10トンのプレス処理
を施すことにより、直径40mm・厚さ約70~90μmのグラフ
ァイト集積膜を得た。(以下、得られたグラファイト集積膜を「D
BS添加グラファイト集積膜」ということもある。)
上記の例では、分散した界面活性剤を陰イオン系のDBS(ドデシ
ルベンゼンスルホン酸、関東化学製24023-32)の水溶液を用いてい
るが本実施例ではこの他に、陽イオン系のCTAB(臭化ヘキサデ
シルトリメチルアンモニウム、和光純薬工業製036-02102)の水溶液
を用いた集積膜、さらにはこれらの界面活性剤を用いずに成膜した
グラファイト集積膜を電気物性の比較のために作製した。
本実施例で用いた界面活性剤のモル濃度は、DBSで1×10-3
mol/L~500×10-3 mol/L、CTABで1×10-3
mol/L~10×10-3 mol/Lとしたが、これは導電体の
キャリア極性の制御や熱電特性の最適化を目的として選んだ濃度で
ある。他の界面活性剤では、溶媒の種類、溶解度によって適切な熱
電特性になる様に濃度を制御すればよい。


図10.ドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)添加グラファイト
集積膜(実施例で得られたグラファイト集積膜)の表面及び断面の
走査型電子顕微鏡(SEM)写真

(走査型電子顕微鏡観察)
図10は、得られたDBS添加グラファイト集積膜を、走査型電子
顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製S-4800型)を用いて撮
影したSEM写真であり、(a)は、表面を撮影したもの、(b)
は、断面を撮影したものである。 SEM写真に示すように、DBS
添加グラファイト集積膜の表面及び断面はいずれも、グラファイト
薄片が隙間なく敷き詰められた積層体を形成している様子がわかる。
緻密な集積膜であることは、この膜の密度が1.95g/cm3で
グラファイト結晶の密度2.2g/cmの85%以上を有してい
ることからも示された。


図11 DBS添加グラファイト集積膜及びグラファイトシートの
X線回折パターン

(X線回折パターン及びラマンスペクトル)
図11は、X線回折測定装置(Rigaku製UltimaIV/PSK型)を用いて
測定した、DBS添加グラファイト集積膜(a)及び市販のグラフ
ァイトシート(b)のX線回折パターンである。 また、図12は、
ラマン顕微鏡(Horiba製XploLA型)を用いて測定した、DBS添加
グラファイト集積膜(a)及び市販のグラファイトシート(b)の
ラマンスペクトルである。 いずれも、純粋な市販のグラファイトシ
ートと同様のパターン及びスペクトルを示した。これは、分散溶液
中で超音波印加しても、グラファイト薄片に大きな欠陥は生じてい
ないことを示している。


図12.DBS添加グラファイト集積膜及びグラファイトシートの
 ラマンスペクトル

(界面活性剤の有無・極性と、得られた集積膜の電気物性との関係)
界面活性剤の有無及び界面活性剤分子の極性と、界面活性剤で被覆
したグラファイト集積膜の電気物性(Seebeck係数、導電率、パワー
ファクター、Hall係数、磁気抵抗)の関係を調べた。最初に、グラ
ファイト集積膜のSeebeck係数、導電率、Hall係数、磁気抵抗の測定
について説明する。Seebeck係数及び導電率の測定は次のように行な
った。幅約3mm長さ約20mmの短冊状に切り出した集積膜試料
を、試料の片側が加熱できるようにした試料ステージに設置し、試
料の長手方向の両端に電流供給用の端子2個、及び試料内2点間の
温度差及び電位差測定用のR型熱電対2本を、試料に電気的・熱的
に接触させた。その後、試料の片側をヒータで加熱した時の、試料
内2点間の温度差をデジタルマルチメータ(ケースレーインスツル
メンツ製2700型)で、R型熱電対の白金電極側での電位差をナノボ
ルトメータ(キーサイトテクノロジー製34420A型)で測定した。試
料内2点間の温度差を0~2Kの間で3点以上変えて与え、それら
の温度差に対する電位差の傾きを求めて熱起電力を算出し、その値
から白金電極のSeebeck係数を差し引くことで、試料のSeebeck係数
を算出した。 
導電率は、直流電流源(エーディーシー製6242型)を用いて電流供
給用端子を通じて試料に約100mA以下の電流を流しながら、試
料内2点間の電位差を同型のデジタルマルチメータで測定し、4端
子法によって求めた。
また、Hall係数、磁気抵抗は導電率と共に次のように行なった。1
辺約10mmの正方形に切り出した集積膜試料を、ホール計測シス
テム(東陽テクニカ製Resitest 8300型)にセットし、van der Pauw
法を用いて導電率、Hall係数、磁気抵抗測定した。この際に印加し
た磁場は最大0.55Tとした。Seebeck係数計測時及びHall係数計
測時の2つの導電率が互いに10%以内の精度で一致していること
を確認した。Seebeck係数、導電率、Hall係数、磁気抵抗の測定はい
ずれも室温でのみ測定した。

図13.界面活性剤の有無及び界面活性剤分子の極性と、界面活性
 剤で被覆したグラファイト集積膜の電気物性の関係を示す図

図13に、陰イオン系の界面活性剤DBS水溶液を用いた集積膜、
陽イオン系の界面活性剤CTAB水溶液を用いた集積膜、及び界面
活性剤を用いずに成膜した集積膜の、Seebeck係数、導電率、Hall
係数、磁気抵抗を測定した結果を示す。パワーファクターは、以下
のとおりSeebeck係数と導電率の値を用いて算出した。 パワーファ
クター=(Seebeck係数)2×導電率
図13に示す結果から、特筆すべき点として、
(1)陽イオン系界面活性剤→界面活性剤なし→陰イオン系界面活
  性剤の順に、Seebeck係数及びHall係数の符号が負から正の方
  向に変化していること、
(2)界面活性剤なしの場合にSeebeck係数とHall係数の符号が異な
  ること、
(3)すべての試料で磁気抵抗がゼロでないこと、 の3点が指摘
  できる。
(2)及び(3)は、グラファイト集積膜の電気伝導には正孔と電
子の両方が寄与している半金属的物性であることを意味する。加え
て(1)で示されたとおり、界面活性剤の極性を変えることで、界
面活性剤分子とグラファイト表面の間の電荷移動により、電気伝導
を担う正孔と電子の濃度のバランス(差)をわずかに変化させ、
Seebeck係数とHall係数の符号を変化させている。本実験で用いた
濃度範囲では、導電率に対する界面活性剤の有無や種類への依存性
は小さく、そのためにSeebeck係数の比較的大きなDBSを用いた
集積膜のパワーファクター(熱電発電性能)が、界面活性剤を用い
ない場合やCTABを用いた集積膜より数倍以上高い値を示した。

(DBS濃度と電気物性との関係)
DBS濃度(モル濃度)と、Seebeck係数、導電率、Hall係数、及
び磁気抵抗との関係を調べた。 高いパワーファクターを示したD
BSを用いた集積膜について、水溶液中のDBS濃度と、Seebeck
係数、導電率、Hall係数、及び磁気抵抗との関係を図14に示す。


図14.分散液中のDBS濃度と、電気物性の関係を示す図

図14に示すとおり、Seebeck係数は、DBS濃度に大きな依存性を
示さず、約+20V/K以上の値で符号が正であり、正孔の相対的寄
与が大きいP型導電体である。 導電率はDBS濃度が50×10
-3~100×10-3 mol/Lの範囲でピークを示しており、そ
のためにパワーファクター(熱電発電性能)は同じ濃度範囲におい
て0.17~0.18mW/m・Kの最大値を示した。DBS濃
度が100×10-3 mol/L以下の範囲では、DBS分子がグ
ラファイト表面を被覆することで、隣り合うグラファイト薄片間の
密着性(接触面積)を向上させる効果を示す一方、200×10-3
mol/L以上の範囲では過剰なDBS分子の凝集が起こり、グラ
ファイト同士の密着性を阻害していると推測される。 以上のよう
に、DBS濃度によって熱電発電性能が最適化できることが分かっ
た。

(熱電対の作製)
以上のとおり、DBS添加によって熱電発電性能を最大化した熱電
変換層である、P型導電体のグラファイト集積膜を作ることに成功
した。 そこで、本実施例では、N型で高い導電率を有することが既
に知られている、純粋な市販のグラファイトシート(パナソニック
製PGSグラファイトシートEYGS121803)とPN接合させることに
より、以下のようにして、グラファイト熱電対を作製した。 


図15.実施例で作製した、グラファイト集積膜を用いたグラファ
 イト熱電対を模式的に示す図

図15は、本実施例で製造したグラファイト熱電対を模式的に示す
図であり、前記の実施例で得られたDBSで被覆したグラファイト
集積膜(DBS添加グラファイト集積膜)(厚さ約70~90μm)
及び市販のグラファイトシート(厚さ約30μm)を、幅4mm、
長さ30mmの短冊状に加工し、いずれも片方の先端部分3~5m
mの長さの領域で互いに直接接合し、それ以外の部分は電気的絶縁
体である厚さ約10~30μm(プレス前)、幅10mm、長さ3
0mmの酸化グラフェン集積膜(GO膜)を挟んで接合した。 その
後、先述と同型の小型熱プレス機を用いて25~100℃で1~3
トンの荷重でプレス処理(熱圧着)をして、グラファイト熱電対を
得た。 酸化グラフェン集積膜は、濃度4mg/mLの酸化グラフェ
ン(Graphenea社製)水分散液20~30mLを、80℃で2時間
以上乾燥させて得た膜である。 
なお、上記実施例では、N型導電体として、グラファイトシートを
用いた例を示しているが、CTAB等の陽イオン系界面活性剤で被
覆したグラファイト集積膜(熱電変換層)を用いることもできるこ
とは言うまでもない。
このグラファイト熱電対では、直接PN接合された先端部分が測温
部となり、その測温部ともう片方の端との間(シートの面内方向)
で温度差を付与することにより、熱起電力を発生させて温度差を検
知することや、熱電発電を行うことができる。 
本実施例で用いたN型の市販グラファイトシート及びP型のDBS
添加グラファイト集積膜(熱電変換層)に対して、先述の方法によ
ってSeebeck係数、導電率、パワーファクターを評価した。その結
果を、表1に示す。

図16に、グラファイト集積膜を熱電対に用いた温度計測の結果を
示す。

図16.グラファイト集積膜を用いた熱電対による温度計測の結果
 を示す図

図中、ΔTは、熱電対測温の加熱用ヒータの温度と周囲温度の差、Δ
Vは、グラファイト熱電対から発生した熱起電力をそれぞれ表してい
る。 計測は次のように行った。グラファイト熱電対の測温部近傍に
局所加熱用ヒータとK型熱電対(以下、「ヒータ用熱電対」と呼ぶ)を
接触させてヒータで加熱し、その際のヒータ用熱電対の温度と室温
(周囲温度)の差ΔTをデジタルマルチメータ(ケースレーインス
ツルメンツ製2700型)で計測し、並行してグラファイト熱電対の熱
起電力ΔVをナノボルトメータ(ケースレーインスツルメンツ
製2182A型)で測定した。 その結果、図16(a)に示すように、
ΔTに応じてΔVが変化することが分かり、熱電対として機能して
いることを確認した。
さらに、図16(b)に示すように、本実施例のグラファイト熱電
対は、温度差ΔT=43.4Kでの応答性を規格化すると、K型薄
膜熱電対よりも早い応答性を示すことが分かった。
グラファイト熱発電素子は、図15と同様の構造として形成される。
図17に、幅4mm、長さ30mmの短冊状グラファイト熱発電素
子の測温部と周囲温度との間に温度差ΔT=43.4Kを与えた場
合の、電圧電流特性及び熱電発電出力Poutの値を示す。


図17.グラファイト集積膜を用いた熱電対による温度計測の結果
 を示す図

電圧電流特性はソースメータ(ケースレーインスツルメンツ製2400
型)を用いて、最大1mAの直流電流を供給して測定した。
この熱発電素子では、P型導電体をDBS濃度が100×10-3
mol/L、パワーファクター0.173mW/m・Kで最大化
したグラファイト集積膜(熱電変換層)を用いたところ、最大出力
0.135μWを生じ、グラファイト熱発電素子の断面積で割ると
31μW/cmの最大出力密度を生じていることが確認できた。

下表2に、市販のグラファイトシート、DBS添加グラファイト集
積膜、及びこれらを接合したグラファイト熱電対の3種類に対する、
膜面内方向の熱拡散率(ベテル製サーモウェーブアナライザTA33型
で測定)、密度(電子天秤、アズワン製IUZ-101型で測定)、比熱(
Netzch製示差走査熱量測定装置で測定)の測定結果をまとめた。測
定はいずれも室温のみで行った。 膜面内方向の熱伝導率は、上記
の熱拡散率、密度、比熱の3つの値の積で算出し、表2に記した。
------------------------------------------------------------
【符号の説明】1:グラファイト集積膜 2:酸化グラフェン集積
膜 3:放熱・測温対象物(発熱体又は熱源) 4:ヒートシンク 
5:熱電変換層 6:5とはSeebeck係数の異なる熱電変換層 7:
接合部 8:測温部 9:計測端子部 10:負荷 11:放熱フ
ィン
------------------------------------------------------------


表で特筆すべき点は、DBS添加グラファイト集積膜が、アルミニ
ウムと同程度の高い熱伝導率(258W/m・K)を示す点と、優
れた放熱材として高い熱伝導率を示す市販のグラファイトシートと
接合した後も、 1000W/m・K以上の高い熱伝導率を維持し
ている点である。 グラファイト熱発電素子は、グラファイト熱電
対と同様の構造として形成されることから、本実施例で作製したグ
ラファイト熱電対及びグラファイト熱発電素子は、温度計測機能及び
熱電発電機能を有しながら、高い熱伝導率を伴い、放熱材の機能も
兼ね備える部材であることが示された。

【産業上の利用可能性】
本発明のグラファイト集積膜は、発熱部品の温度計測と放熱の2つ
の機能を1つの部材で兼ね備えることができ、温度測定部位に別途
、熱電対を設置する必要がないので、電気自動車や電子機器等に用
いられるパワー半導体や電池等、種々の分野においての利用が期待
できる。あるいは、発熱部品を冷却する放熱フィン自体が熱電発電
を行ない、電力を得てセンサーや通信を自立駆動できる孤立微小電
源、及びこれを利用するIoT分野にも応用できる。
                           以上
※矢継ぎ早に膨張する疑問・好奇心に手を焼いている昨今。”どう
する信長?!” とほほのホ・・・・・ ^^;。

 風蕭々と碧いの時

John Lennon Imagine

【 J-POPの系譜を探る:2015年代

● 今夜の寸評:先端技術で世界一をめざす




吳汝俊首張專集It's For You之楊貴妃

京胡という楽器は、胡弓の一種であり、同じ二弦の形をしているの
で、ともするとひたすらじょうじょうとした哀愁をおびた音色を求
められがちだが遠う。 実は私自身もそのあたりのことを誤解し、も
っと優婉な音を……などと要求したりもしたが、「ゆうえん」でも
女偏のついた「優婉」ではなく、「悠遠」な壮大さ持った「幽遠」
であり、「優艶」な艶っぽさがあると同時に、ダイナミックなエッ
ジを持つ男性的な楽器でもあるといえる。ここにご紹介する呉汝俊
(ウー・ルーチン)は、中国で文化大革命の嵐が吹き荒れる直前の
1963年に南京で誕生。21歳で中国戯曲学院を主席で卒業すると同時
に、中国京劇院に 所属して、男且(女形;おやま)歌手兼京胡奏
者となる。先頃来日した京劇団の京間奏者の、呉氏にとっては先輩
格にあたる方たちに、当時の 呉氏のことを聞くと、本当に練習熱
心な生徒で、すでにその頃から天才ぶりを発揮していたそうで、と
ても陽気でヤンチャなところもある愛すべき少年であったという。  
京胡という楽器は京劇の伴奏楽器だが、彼はは2年後に京胡をソロ
楽器として独立させ、自作の「京胡軽音楽」を創始して、政府直轄
の中国文化部の優秀作品奨を受賞。25歳だった1988年には、京胡と
いう占典楽器始まっていらいの初の独唱・独奏コンサートを北京で
開催し成功を収める。しかし文化大革命いらい、京劇の中で男且(
女形)は追放されており、女性に扮して女性の声で歌う呉さんの居
場所は中国に無く、「組曲/三国志」がアルバムとして完成し 東南
アジアと日本で同時に発売された1996年あたりから、呉さんと日本
との急激な交流が生まれる。その呉氏と私が出逢ったのは、呉さん
が芸能25周年を迎え、日本の文化庁主催の国際音楽祭として福岡の
サンパレスという大きなホールで記念コンサートを開いた1998年の
こと、そのコンサートの会場ではなく、九州のテレビに出演してい
た呉さんを見て感激して、「
ぜひ、あの人に逢いたい」と言って捜
していた鹿児島県串木野の、それは辺鄙な山の中のおかの和尚さん
のご祭事で、偶然そのお寺の信者さんに連れて来られた呉氏に引き
合わされ、その年から私がこれまた偶然のきっかけで毎年8月に奉
納することになった観月祭のステージで、呉氏の京胡を初めて聞い
た。
でも、実は、本当に衝撃を受けたのは、去年2001年の観月祭の夜に
、新京劇「東方オペラ」の女形として、揚貴妃に扮して歌う呉さん
の中国放送のビデオを見せられた時のこと。自ら脚本を書き、歌を
作り、演出して、華麗な衣装に身を包んで歌う女装の呉さんは、張
り上げた声と中国特有の抑揚で、異様ともいえるほとの強烈なイン
パクトを私に与えれ。
「え-?! こんな声がでるの?」と驚く私に、「中国では黄金の
声と呼ばれ、復活した男日.として、大変な評判を呼ぶ。でもこの
声が、幾つまで出せるか解らない。30代のうちに、「1本でも皆さ
んに聞いて欲しいです。」と、呉氏は流暢な日本語で話してくれた。
その新京劇「揚貴妃と阿倍仲麻呂」は、日中国交正常化30周年記念
事業として、すでに現在中国公演中であり、8月からは全国的な規
模での日本公演が決まっている。
その豪華絢爛な大輪の花のような呉さんも素敵だけれど、私はやっ
ぱり音楽家、類い稀な京胡奏者としての呉氏紹介したいと思った。
この壮大なスケールと、心をかきむしるような抒情、そして日本の
奏者には決して味わえないダイナミズム。そこには中国数千年の歴
史と古典のスピリットが、時空を越えて息づいているという気がす
る。
そしてその悠遠にして幽遠、また優艶なダイナミズムは、中国や「
]本という狭い国境や文化を越えて、地球規模に広がっていく可能
性をもっていることが、バット・メセ二ーやアントニオ・カルロス
・ジョピン、喜多郎といった大たちの作品を聞いていただくと、き
っと良くお解り頂けるでしょう。
最後に、井上鑑さんという、日本を代表する作曲家てあ(編曲家で
ある、とてもグローバルで豊かな感性を持った魂の盟友とめくう逢
えたことを、呉氏のために心から感謝したい。
                 2002年6月12日 湯川れい子

※筆者、一部意訳薬転載(2023年7月13日)
                         

 

 

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