極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

どうしてクリーブランドなのだろう ?

2017年06月09日 | 時事書評

           
      僖公二十四年:晋の文公、本国に帰る / 晋の文公制覇の時代  
               
   

                          

              ※ 垂耳(文公)が亡命の旅に出て五年目に一度帰国の機会が
         訪れた。父の献公が死に、偏愛を受けていた異母弟の奚斉、
         卓子が反乱で殺される。やはり、亡命していた異母兄弟の
         夷吾(垂耳の母と夷吾の母は姉妹)が祖国に迎えられて即
         位、恵公となった。しかし、恵公は、それまで同じ運命に
         おかれていた垂耳をよびもどすどころか、かれの存在をお
         それて刺客をひける。ために垂耳は、なお流浪の旅をつづ
         けなければならなかった。在位十四年で恵公が死に、その
         子圉があとをついだ(懐公)。だが、晋の人々は垂耳をし
         たうことしきり、ちょうど秦に身をよせていた垂耳のもと
         に使者が立ち、秦の穆公の助けによって、重耳は十九年ぶ
         りで晋に帰って即位する。かれはすでに六十二歳になって
         いた。懐公
は殺される。【経】 晋侯夷吾(懐公)卒す。

       ※ 帰 国:僖公二十四年春、王の正月、秦の穆公の力により、
         垂
耳は晋に帰国、即位した。これを『春秋』に記録してい
         ないのは、魯国に通知がなかったからである。
その途中、
         一行が黄河の岸まで来たとき、随行の子犯は自分があずか
         っていた璧(玉の一種、公子の
回を垂耳に手渡して、「あ
         なたのお供をして、諸国をめぐり歩いて来ましたが、その
         間、あなたに対し数えきれぬ無礼をは
たらいたことが心に
         かかります。あなたにしてみれば、どれほどお腹立ちのこ
         とか……。帰国してあ
なたから罰をうけぬうらに、おいと
         まさせていただきます」
 垂耳は、「黄河の神に誓って、
         わが叔父(子犯は垂耳の叔父にあたる)と仲違いはせぬ」

         こう言って誓いを立てると、受けとった璧を黄河の流れに
         投げ込んだ。
黄河を渡って晋の領域に入ると、垂耳は、ま
         ず令孤、ついで桑泉、臼衰と、次々に城をおとして都
の絳
         (こう)にむかった。

 

 Feb. 27, 2017

 No.32

【RE100倶楽部:スマートグリッド篇】

 
● 「PnP型マイクログリッド」 太陽光に水素・蓄電池を統合

5月31日、イタリアの電力最大手であるエネル(Enel)社は太陽光発電に2種類の蓄電システムを統
合したマイクログリッドが、チリのアントファガスタ(Antofagasta)州で稼働を開始したと発表。
エネルギー貯蔵方法は、❶太陽光の電力で水素を製造して蓄える方法と❷リチウムイオン蓄電池を
併用する。温室効果ガスの排出量がゼロで、設置や撤去、移動などの容易な「プラグ・アンド・プ
レイ(PnP)」型として世界で初めてのマイクログリッドとなる。
電力系統に接続する場合と、接
続せずオフグリッドで利用する場合の両方に対応でき、遠隔地や離島など、電化の進んでいない地
域などに有用。
太陽光発電の出力は125kW、水素による貯蔵システムの容量は450kWh、蓄電池は
1322kWhの容量である。
システム全体の容量が580kWhを超え、さらに太陽光の出力変動を2
つの蓄電システムで平準化できるので、安定した出力を供給するエネルギー源として運用できる。
マイクログリッドとしての柔軟性や安定性を確保する。
チリ北部にあるアントファガスタ州のオヤ
ーグ(Ollagüe)に建設し、同社の「Cerro Pabellón」地熱発電所で勤務する約6百人の作業員宿舎の
電力の一部を賄う。
再生可能エネルギー事業をチリで行うために設立したグループ会社、エネル・
グリーン・パワー・チリ(EGPC)社を通し進める。

エネル社は、設備容量ベースでチリ最大の再エネ事業者という。同社が運用する再エネ電源は、風
力564MW、太陽光492MW、水力92MWで、これらの合計は1.1GWを超える。48MWのCerro
Pabellón 
地熱発電所も運転を開始したばかり。
Cerro Pabellónは南米では初めての地熱発電所(海抜
4500mという高度の高い場所)。建設された商用の地熱発電所も世界初である。
エネルは傘下
の再エネ発電事業者であるエネル・グリーン・パワー社を通じてグローバルでプロジェクト開発に
取り組んでいる。チリでは、2016年6月に同国最大となる160MWのメガソーラー(大規模太陽光
発電所)「Finis Terrae」が稼働中。
南米ではチリ以外に、メキシコ、ペルー、ブラジルなどでも風
力や太陽光のプロジェクトを開発しているが、このまま行けば、わたし(たち)が提唱する「エネ
ルギーフリー社会
」をもっと
も早く実現する国となるかもしれない。しかも、日本と同様にチリは
地震国で、商用原発はゼロ
(研究炉2基が存在する)。


   June 1, 2017

【RE100倶楽部:スマートグリッド篇】

● 3つの精密林業技術でバイオマス供給増産

再エネのなかで、原理的/技術的な側面から評価すると、風力/太陽光発電のエネルギー理論変換限
界効率の技術はほぼ達成/あるいは到達のための開発目標/工程表が明確にされているなか、バイオ
マスのそれは明らかででなかった。今月1日、
NEDOのプロジェクトで日本製紙(東京都公社)、東
京農工大学(東京都府中市)、千葉大学(千葉県千葉市)は、❶林業用土壌センシング技術、❷DNA
マーカー育種技術と❸リモートセンシング技術の3つを活用し、植林木の単位面積あたりのバイオマ
ス生産量を現行法の1.8倍以上に増やせる精密林業技術を開発したこと発表。
 

同技術は、NEDOのプロジェクトにおいて、2013年12月から2017年2月までの約3年間、ブラジル北部
にある日本製紙保有のユーカリ植林地で品種改良、植栽技術向上等によるバイオマスの収量アップを
目的に進めてきた委託研究で開発。ところで、バイオ燃料は、化石燃料に対して競争力を持つため原
材料の低コスト化が求められ、植林地の単位面積あたりから得られるバイオマス生産量が課題になる。
また、安価で高品質な植林木の供給は、天然林の伐採量を緩和できるため、地球環境の保全にも役立
つ。日本製紙は、今回の成果を海外植林地の木質バイオマスの生産に活用し、林業のほか木質バイオ
マスを主要原料とする幅広い製造業の発展・強化を目指すとのこと。このように、量産/品質/収量
の安定化の目途がたっことになった。今後は、バイオマスのエネルギー変換効率や加工プロセスの効
率化/加
工プロセス多様化が残件が焦点となる。これで風力×太陽光×バイオマス×水力×(地熱)
の4(5)
つがそろい踏みし夢が実現することになる。

 
June 1, 2017

1.新たな技術でユーカリチップ原材料費は44%削減

❶ 林業用トラクタ搭載型土壌センシング装置

林業用土壌センシング技術として、植林地ほ場において、栄養成分などの土壌情報を効率的かつ迅速
に収
集できる、林業用のトラクタ搭載型土壌センシング装置(土壌センサー)を開発した。これを用
いて、土壌を迅
速に評価することにより、植林木の成長に適した土地が選択でき、現行法と比較して
1.3倍のバイオマス生産
量の確保が可能になる。

❷ 有用形質を間接選抜するDNAマーカー育種技術

DNAマーカー育種技術は、植林木がもつゲノム(DNAの塩基配列の違い)を目印(DNAマーカー)
に、成長性や、体積当たりの重さ(容積重)、セルロース量、パルプ収率など木質特性等の有用形質
を間接的に選抜するもの。この技術により、推定バイオマス生産量が現行の1.4倍以上となる優良
木の選抜にも成功した。
これら2つの技術を合わせると、単位面積当たりのバイオマス生産量が現行
法と比べて1.8倍以上(1.3×1.4)に増やすことが可能で、ユーカリチップ原材料費(立木費、
伐採費、輸送費、切削費)を44%削減することが期待できる。



➌ 高精度なバイオマス量評価を行うリモートセンシング技術

リモートセンシング技術は、ドローン(自律飛行可能な無人航空機)、3Dレーザースキャナ(レーザ
ーを用いて3次元構造物を計測する装置)を使用した、広大な植林地における高精度なバイオマス量評
価のための技術で、バイオマス量をより精密で高効率に測定することが可能となった。

 


 

 

    

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編   
 

   34.そういえば最近、空気圧を測ったことがなかった

  時計は午後二時を少しまわっていた。ひどくくたびれたという感覚があった。私はクローゼッ
 味噌汁をつくった。そしてそれを一人で黙って食べた。語りかけるべき相手心いないし、語るべ
 き言葉も見当たらない。その簡素なひとりぼっちの夕食を食べ終えかけた頃に、玄関のベルが鳴
 った。どうやら私かあと少しで食事を終えようというところで玄関のベルを鳴らそうと、人々は
 心を決めているらしかった。
  一日はまだ終わってはいなかったのだ、と私は思った。長い日曜日になりそうな予感がした。
 私はテーブルの前から立ち上がり、ゆっくりと玄関に向かった。

   35.あの場所はそのままにしておく方がよかった

  私はゆっくりとした足取りで玄関に向かった。玄関のベルを鳴らしているのが誰なのかまった
 く見当がつかなかった。もし車が家の前に停まれば、その音は聞こえたはずだ。食堂は少し奥ま
 ったところにあるが、とても静かな夜だったし、車がやってくればそのエンジン音やタイヤの軋
 みは必ず耳に届くはずだ。たとえそれがもの静かなハイブリッド・エンジンを誇るトヨタ・プリ
 ウスであったとしてもだ。しかしそんな音はまったく聞こえなかった。
  そして日が落ちてから、車を使わずにここまで長い坂道を歩いて登ってくるような物好きな人
 間はまずいない。照明もほとんどなく道はずいぶん暗いし、人気もない。孤立した山の上にぽつ
 んと建った家なので、近くには隣人と呼べるような人々もいない。
  ひょっとしたら騎士団長かもしれないと私は思った。しかしどう考えても彼であるわけはない。
 今ではもう、好きなときに好きなだけこの家に入ってくることができるのだから、わざわざ玄関
 のベルを押したりはしない。


  相手が誰かを確かめもせずにロックを外し、玄関のドアを開けた。そこには秋川まりえが立っ
 ていた。昼間とまったく同じかっこうだったが、今はョットパーカの上に紺色の薄手のダウン・
 ジャケットを着ていた。日が落ちてさすがにあたりは冷え込んでいた。そしてクリーブランド・
 インディアンズの野球帽をがぶり(どうしてクリーブランドなのだろう?)、右手に大きな懐中
 電灯を持っていた。
 「入ってかまわない?」と彼女は尋ねた。〈こんばんは〉もなければ、〈突然うかがってごめん
 なさい〉もなかった。
 「かまわないよ、もちろん」と私は言った。それ以上のことは何も言わなかった。私の頭の中の
 抽斗はまだうまくきちんと閉まっていなかったからだ。まだ奥の方に毛糸の玉がつっかえている。
 私は彼女を食堂に案内した。
 「食事の途中なんだ。最後まで食べちやっていいかな?」と私は言った。
  彼女は黙って肯いた。社交性といった面倒な概念は、この少女の頭の中には存在しないのだ。
 「お茶を飲む?」と私は尋ねた。
  彼女はやはり黙って肯いた。そしてダウン・ジャケットを脱ぎ、野球帽をとって髪を整えた。
 私はやかんでお湯を沸かした。そして急須に緑茶の葉を入れた。どうせ私もお茶を飲みたかった
 ところだ。

  私がブリの粕漬けを食べ、味噌汁を飲み、米飯を食べるのを、秋川まりえはテーブルに肘をつ
 いて、珍しいものでも見るように見ていた。まるでジャングルを散歩している途中、巨大ニシキ
 ヘビが穴熊の子供を呑み込む現場に出くわして、近くの石の上に腰を下ろしてそれを見物してい 
 るみたいに。

 「ブリの粕漬けは自分で作ったんだ」、深まっていく沈黙を埋めるために私は説明した。「こう
 しておけば日待ちがするから」

  彼女は何の反応も示さなかった。私の言葉が耳に入っているのかどうかさえ確かではなかった。
 「イマヌエル・カントはきわめて規則正しい生活習慣を待った人たった。町の人々は彼が散歩を
 する姿を見て、それに時計の時刻を合わせたくらいだ」と私は言ってみた。
  もちろん意味のない発言だ。秋川まりえが意味のない発言に対してどんな反応をするか、様子
 を見てみたかっただけだ。私の言ったことが本当に耳に届いているのかどうか。しかし彼女はま
 ったくどのような反応も示さなかった。あたりの沈黙がより深まっただけだった。イマヌエル・
 カントはあくまで日々寡黙に規則正しく、ケーニヒスベルクの通りから通りへと散策を続けてい
 た。彼の人生最後の言葉は「これでよし(Es ist gut)」だった。そういう人生もあるのだ。

  私は食事を終え、使った食器を流し台まで運んだ。それからお茶をいれた。二つの湯飲みを待
 ってテーブルに戻った。秋川まりえはテーブルの前に座ったまま、私のひとつひとつの動作をじ
 っと眺めていた。文献の細かい脚注を検証する歴史学者のような注意深い目で。
 「車でここまで来たわけじゃないよね?」と私は尋ねた。
 「歩いてきた」と秋川まりえはようやく口を開いた。
 「君のうちからここまで一人で歩いてきた?」
 「そう」

  私は黙って相手の話の続きを待った。秋川まりえも黙っていた。食堂のテーブルを挟んで、二
 人のあいだにかなり長く沈黙が続いた。しかし沈黙を維持することにかけては、私も決して不得
 意な方ではない。何しろ山のてっぺんでずっと一人で暮らしているくらいだ。

 「秘密の通路があるの」とまりえはしばらくあとで言った。「車で来るとけっこう道のりは長い
 けれど、そこを抜けてくるととても近い」
 「しかしぼくもずいぶんこのあたりを散歩しているけれど、そんな道を目にしたことはないよ」
 「探し方が悪いから」とその少女はあっさりと言った。「普通に歩いて普通に見ていたのでは、
 通路は見つからない。うまく隠してあるから」
 「君が隠したんだね?」
  彼女は肯いた。「私は生まれてすぐここに来て、ここで育ったの。小さい頃から山ぜんたいが
 私の遊び場だった。このへんのことは隅から隅まで知っている」
 「そしてその通路は巧妙に隠されている」
  彼女はもうコ伎こっくりと肯いた。
 「そして君はその通路を辿ってここにやってきた」
 「そう」

  私はため息をついた。「食事はもう済んだの?」
 「さっき終わった」
 「どんなものを食べた?」
 「叔母さんはあまり料理が得意ではない」と少女は言った。私の質問に対する答えにはなってい
 ないが、それ以上はあえて追及しなかった。白分かさっき食べたもののことをきっとあまり思い
 出したくないのだろう。

   「それで君の叔母さんは、君が一人でここに来ていることは知っているのかな?」

  まりえはそれには返事をしなかった。唇をまっすぐ堅く結んでいた。だから私が自分で返事を
 することに
した。

 「もちろん知らない。まともな大人は十三歳の女の子に、暗くなってから一人で山の中をうろつ
 かせたり
 はしない。そうだよね?」

  またひとしきり沈黙が続いた。

 「秘密の通路があることも彼女は知らない」

  まりえは首を何度か横に振った。叔母は通路のことは知らないという意味だ。

 「君以外にその通路のことを知っている人はいない」

  まりえは首を何度か縦に振った。

 「いずれにせよ」と私は言った。「君のおうちのある方角からすると、君はきっと通路を抜けた
 
あと、古い祠のある雑木林を通ってここに来たんだろうね?」
  まりえは肯いた。「祠のことはよく知っている。このおいた、大きな機械を使ってその裏手に
 ある石の塚を掘り返したことも知っている」
 「君はその現場を見ていたの?」
  まりえは首を振った。「掘り起こしたところは見ていない。その日は学校に行っていたから。
 見たときには機械のあとが地面にいっぱい残っていた。どうしてそんなことをしたの?」
 「いろんな事情があったんだ」
 「どんな事情?」 
 「最初から説明すると、けっこう長い話になってしまう」と私は言った。そして説明はしなかっ
 た。そこに免色が関与していることを、できることなら私は彼女に教えたくなかった。
 「あそこはあんな風に掘り起こしたりするべきではなかった」、まりえは唐突にそう言った。
 「どうしてそう思うの?」
  彼女は肩をすくめるような動作をした。「あの場所はそのままにそっとしておく方がよかった。
 みんなそうしてきたのだから」
 「みんなそうしてきた?」
 「長いあいだずっと、あそこはそのままにされてきたのだから」

  たしかにこの少女の言うとおりかもしれない、と私は思った。あの場所には手をつけるべきで
 はなかったのかもしれない。これまでみんながそうしてきたのかもしれな
 い。しかし今になってそんなことを言っても手遅れだ。石の塚は既にどかされ、穴はあばかれ、
 騎士団長は解放されてしまったのだ。

 「あの穴にかぶせておいた蓋を取ったのはひょっとして君だったのかな?」と私はまりえに尋ね
 た。「穴の中をのぞき、それからまた蓋をして、石の重しを元通りに載せておいた。そうじやな
 いか?」
  まりえは顔をあげて私の顔をまっすぐ見た。なぜそれがわかるの、というように。
 「蓋の上の石の並べ方が少しだけ違っていたから。ぼくは視覚的な記憶力が昔からとてもいいん
 だ。そういうちょっとした違いが一目でわかる」

 「ふうん」と彼女は感心したように言った。

 「でも蓋を開けても穴の中はからっぽだった。暗闇と湿った空気以外には何もなかった。そうだ
 ね?」

 「梯子がひとつ立てかけてあった」

 「穴の中には降りてないよね?」

  まりえは強く首を振った。まさかそんなことをするわけはない、というように。

 「それで」と私は言った。「君は今夜こんな時刻に、何か用件があってここまで来たんだろう

 か? それともただの社交的訪問なのかな?」

 「社交的訪問?」

 「たまたま近所まで来たから、ちょっと挨拶に寄ってみたとか?」

  それについて彼女は少し考えた。それから首を小さく振った。「社交的訪問というのでもない」
 「だとしたら、これはどういう種類の訪問なんだろう?」と私は言った。「もちろん君がうちに
 遊びに来てくれるのは、ぼくとしても嬉しいけれど、もしあとで君の叔母さんやお父さんにこの
 ことがわかったら、妙な誤解を受けることになるかもしれない」

 「どんな誤解?」

 「世間にはあらゆる種類の誤解がある」と私は言った。「ぼくらの想像を遥かに超えたような誤
 解もある。ひょっとしたらもう君をモデルにして絵を描くことを許可されなくなるかもしれない。
  それはぼくとしてはすごく困ることなんだ。君にとっても困ることじやないかな?」

 「叔母さんにはばれない」とまりえはきっぱりと言った。「夕食が終わったら、わたしは自分の

 部屋に引きあげるし、そのあと叔母さんはわたしの部屋にはやってこないから。そういう取り決
 めになっている。だから窓からこっそり抜け出してもだれにもわからない。一度だってばれたこ

 とはない」  

 「昔からよく夜の山の中を歩きまわっていた?」

  まりえは肯いた。

 「夜の山の中に一人でいて怖くないの?」

 「もっと怖いものはほかにある」
 「たとえば?」

  まりえは小さく肩をすぼめるような動作をしただけで、返事はしなかった。

  私は尋ねた。「叔母さんはともかく、お父さんはどうしているの?」

 「まだ家に帰っていない」

 「日曜日なのに?」

  まりえは返事をしなかった。父親のことにはなるべく触れたくないようだった。
  彼女は言った。「とにかく先生は心配しなくていい。わたしが一人で外に出ていることはだれ
 にもわからないから。そしてもしわかったとしても、先生の名前はぜったいに出さない」

 「じやあ、もうその心配はしない」と私は言った。「しかし、今夜どうしてわざわざ君はぼくの
  うちにやって来たのだろう?」
 「先生に話があったから」
 「どんな話?」

  秋川まりえは湯飲みを手に取り、熱い緑茶を一ロ静かに飲んで、それから鋭い目で周囲をぐる
 りと見回した。話を聞いているものがほかにいないことを確かめるように。もちろんまわりには
 我々のほかには誰もいない。もし騎士団長が戻ってきて、どこかで耳を澄ませていなければの話
 だが。私もあたりを見回してみた。しかし騎士団長の姿は見えなかった。とはいえ、騎士団長が
 形体化していなければ、誰の目にもその姿は見えないわけだが。

 「今日のお昼にここに来た、あの先生のお友だちのこと」と彼女は言った。「きれいなしらがの
 ひと。なんていう名前だったっけ。ちょっと珍しい名前」
 「免色さん」
 「そうメンシキさん」
 「彼はぼくの友だちじやない。少し前に知り合っただけの人だよ」
 「なんでも」とまりえは言った。
 「で、免色さんがどうかしたの?」

  彼女は目を細めて私を見た。そして少しだけ声をひそめて言った。「あの人はたぶんなにかを
 心に隠していると思う

 「たとえばどんなことを?」

 「そこまではわからない。でもメンシキさんが今日の午後、ただ偶然立ち寄ったというのは、た
 ぶんホントじゃないと思う。きちんとしたなにかがあってここに来たんだという気がする」
 「何かって、たとえばどんなことなんだろう?」、私は彼女の観察眼の鋭さにいくぶんひるみな
 がらそう尋ねた。

                                     この項つづく

 ● 疾走するロードスター:近江八幡国民休暇村

 近江八幡国民休暇村

  シャーレ 水ヶ浜 柘榴の花

晴天といえど、PM2.5濃度が30PPMを超しているのか曇天で霞むなか車を走らせ近江八幡の国
民休暇村にさしかかると彦根市の中学一年生たちが手作りボートレース中。早速デジカメ、良い体
験になるねとはなしながら、水ケ浜のシャレーに向かう。到着すると看板の取り付け作業中、むべ
が枯れていたのに驚き彼女が作業中のマスターに理由を訊いている。食事を済ませ暫く休息し正午
過ぎ帰宅。好日とまで言えぬが、たまのドライブでリフレッシュ。
 

 

 

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世界初が多すぎる国

2017年06月08日 | ネオコンバーテック

           
      僖公二十三年:晋の文公、亡命十九年 / 晋の文公制覇の時代  
               
   

                          

              ※ 秦におもむく秦の穆(ぼく)公は、重耳に侍妾五人を与
         えて礼遇した。この五人の侍妾のなかに、懐嬴(かいえい)
         もいた。
ある日のこと、懐嬴が水差を捧げもって垂耳に手
         洗いの水をつかわせていた。垂耳が濡れた手を振
ったので、
         そのとばしりが懐嬴にかかった。懐嬴は、きっとなって垂
         耳を詰問した。
「秦と晋とはいねば同輩の間柄です。なん
         てわたしを賤しむのです」
 垂耳は大いに恐縮し、上着を
         脱ぎ、囚人姿になって穆公の前に進み出て、許しを乞うた。

         また、穆公が垂耳のために宴を張ったときのこと。垂耳は、
         子犯を連れて行こうとしたが、子犯は、
「わたしは趙衰ほ
         ど挨拶がうまくありません。どうか趙衰をお連れになって
         ください」
と、辞退した。席上、垂耳は『河水』の詩を誦
         した。穆公は『六月』の詩を誦して、これに応じた。趙衰
         がすかさ
ず口をはさんだ。

         「垂耳どの、今のありかたいお言葉にお礼申しあげなさい
         ませ」
そこで、垂耳は階を下りて拝し、地に額づいた。穆
         公が階を一段下りて辞追すると、趙衰は言った。
「君にお
         かれては、いかにして天子を輔佐したてまつるべきかを述
         べ、その大任を垂耳どのにお命じになりました。垂耳どの
                  として、どうして拝礼せずにおられましょう」

             ★ 〈懐嬴〉秦の穆公の娘で、もと晋の太子圉(ぎょ)の妻。韓
                  原の戦いに晋が大敗し、圉が秦に人質となったとき、穆公
                  がこれに娶せたのである。懐は子圉の温号、嬴(えい)は
         秦の姓。子圉はこの前の年(僖公二十二年)晋に逃げ帰っ
         た。二十三年九月、恵公が薨ずると、子圉は位を嗣いで懐
         公となったが、垂耳は帰国するやこれを殺して文公となっ
         た。

        〈濡れた手を・・・・・〉垂耳は懐嬴の身分を知らず、戯れてそ
         う
したのであろう。一方、懐嬴はなお前夫のことが忘れら
         れず、垂耳に好意をもたなかったのであろう。

        〈『河水』の詩〉王侯の宴会にはこのように詩を誦する習わ
         しがあった。『河水』の詩は、今の『詩経』に収められて
         いない、いわゆる逸詩であるが、河の水が結局は東海に流
         れこむことを歌い、海を秦になぞらえて、故国に帰ること
         ができたならば、河の水が海に朝するように、秦に朝参し
         ようとの意を寓したのであろう。

        〈『六月』の詩〉『詩経』小雅の一篇。尹吉甫(いんきつほ)
         が周の宣王を佐(たす)けて玁狁(けんいん)を征伐した
         ことを歌った詩。穆公がこれを誦したのは詩中に「六月棲
         棲 我是用急」とあるためで、公子を晋に入れるために、
         急いで軍を出そうと言おうとしたのである。それを趙衰は
         穆王の真意をよく知りながらも、『六月』の詩中に「王子
         出征 以匡王国」および「以佐天子」とあるのを利用して、
         尹吉甫の勤王を重耳に比したものとして受け取ったのであ
         る。

            六月棲棲 戎車既飭 四牡聧聧 戴是常服 
            玁狁孔熾 我是用急 王于出征 以匡王國 
            比物四驪 閑之維則 維此六月 既成我服 
            我服既成 于三十里 王于出征 以佐天子 
            四牡脩廣 其大有顒 薄伐玁狁 以奏膚公
            有嚴有翼 共武之服 共武之服 以定王國 

            玁狁匪茹 整居焦穫 侵鎬及方 至於涇陽
            織文鳥章 白旆央央 元戎十乘 以先啟行
            戎車既安 如輊如軒 四牡既佶 既佶且閑
            薄伐玁狁 至于大原 文武吉甫 萬邦為憲
            吉甫燕喜 既多受祉 來歸自鎬 我行永久
            飲御諸友 炰鱉膾鯉 侯誰在矣 張仲孝友

                                  小雅.六月 《詩經》

 

 No.31

【RE100倶楽部:エネルギー貯蔵篇】

● 最新アルミニウム空気電池技術:

  世界初!アルミニウム-空気電池の初の二次電池化を実現

現在主流のリチウムイオン電池を上回る性能を持つ電池として期待されているアルミニウム空気電池
の課題は充放電が可能な二次電池化の実現冨士色素は電解質にイオン液体系電解液を用いたアルミニ
ウム空気二次電池の開発に成功。空気極に非酸化物セラミック材料を用いることで、二次電池化の障
壁となっていた化学反応の抑制に成功ことを報る(スマートジャパン、2017.06.07)。

正極材料に大気中の酸素を利用し、負極材料に金属を利用する金属空気電池が注目を集めている。空
気中の酸素を正極活物質として用いる金属空気電池は、正極活物質を電池に内蔵する必要がないため
電池容器内の大部分の空間に負極活物質を充填することが可能であり、原理的に化学電池の中で最
大きなエネルギー密度を有するため
、電池の小型軽量化や高容量化が期待できる。しかし、これまで
の金属空気電池は主に一次電池として用いられ、充放電可能な二次電池としての使用には多くの課題
が残されている。

たとえば、✪亜鉛を用いた金属空気電池が、補聴器の電源等に使用されているが、すべて一次電池で
あって二次電池ではない。これは、亜鉛を用いた金属空気電池が低充放電効率である等の解決すべき
課題が多かった。他方、✪アルミニウムを負極に用いた空気二次電池の場合、充放電の繰り返しによ
水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等の反応副産物が電極上に蓄積され、二次電池としての機
能が阻害される。➀アルミニウム合金を用いた負極、➁電解液への高分子、オキソ酸塩等の添加によ
り、電極での副生成物の産出を抑制する試みが行われているが十分な効果は得られなかった。

そこで、冨士色素株式会社は、酸化物系材料/カーボン系材料群から一種以上を含有する組成物を用
いて金属空気二次電池用負極に多孔性層を形成し、多孔性層が電解質層に接するように配置、充放電
に伴い生成する副生成物の負極蓄積を防止することに成功する。

具体的には、空気極に窒化チタン/炭化チタンを用いると、酸化アルミニウム生成をが抑制。空気極
側副生成物生成を抑制し完全なる二次電池化へのめどがつく。実際に電解液にイオン液体系を、正極
に窒化チタンや炭化チタンを用いたアルミニウム空気電池を作成し、充放電カーブを測定すると4百
mAh/g以上の電池容量を安定して示すことを確認する(下図)。非酸化物セラミック材料酸化アル
ミニウムの生成を抑制する理由ははっきりと分かっていない。ただ、従来の炭素系の空気極を用いた
時は、炭素がカーボネート基として存在し、これが何らかの反応で酸化アルミニウムなどの副生成物
になるのに対し、窒化物、炭化物を空気極に用いた場合は炭素がヒドロキシル基で存在する。これが
副生成物の生成を抑制している可能性がある推測する。



● 事例研究:特開2017-050294 組成物、該組成物を含有する多孔性層を有する電極、
                     および該電極を有する金属空気二次電池

【要約】

空気極層、負極層、および電解質層を有する金属空気二次電池であって、前記負極層が、金属電極層
が多孔
性層と当接して被覆された金属空気二次電池用負極を含み、前記金属空気二次電池用負極の多
孔性層が前記
電解質層と接している金属空気二次電池である。前記多孔性層の原料組成物が、酸化物
系材料およびカーボ
ン系材料からなる群から選択される一種以上を含有することを特徴とすることで
充放電に伴い生成する副生成物の電極への蓄積を防止して、長期にわたり充放電可能な金属空気二次
電池を提供する(詳細は下図ダブクリ参照)。

【特許請求の範囲】

  1. 金属空気二次電池の電極に当接して被覆する多孔性層の原料組成物であって、酸化物系材料お
    よびカーボン系材料からなる群から選択される一種以上を含有する組成物。
  2. 前記酸化物系材料が、Al、ZrO、SiO、MnO、TiO、V、VO
    のうちのいずれか一種以上を含有した請求項1に記載された組成物。
  3. 前記カーボン系材料が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、グラ
    ファイト、グラフェン、活性炭のうち、いずれか一種以上を含有する請求項1に記載された組
    成物。
  4. 金属電極層が多孔性層と当接して被覆された金属空気二次電池用負極であって、前記多孔性層
    が請求項1~3のいずれか一項に記載された組成物から構成された金属空気二次電池用負極。
  5. 前記金属電極層が、アルミニウム、鉄、マグネシウム、亜鉛、リチウムからなる群から選択さ
    れる一種以上を含有する請求項4に記載された金属空気二次電池用負極。
  6. 集電支持体を含有する触媒層が多孔性層と当接して被覆された金属空気二次電池用空気極であ
    って、前記多孔性層が請求項1~3のいずれか一項に記載された組成物から構成される金属空
    気二次電池用空気極。
  7. 前記空気極層が、請求項6に記載された金属空気二次電池用空気極を含み、前記金属空気二次
    電池用空気極の多孔性層が前記電解質層と接している金属空気二次電池。


JP 2017-50294 A 2017.3.9


JP 2017-50294 A5 2017.4.13

尚、冨士色素は今回開発した新しいアルミニウム空気二次電池の製品化に向けた試作も進めている。
今後
は他の企業や研究機関との連携、協業も模索し、商品化に向けた取り組みを加速させる方針だと
いうが、それにしても、世界初を冠する見出しがやけに多すぎるねぇ~と感心する。

● 参考特許:特開2017-092014  アルミニウム空気電池

【要約】

負極にアルミニウムやアルミニウム合金を用い、その負極をポリアニオン性水溶性多糖類でコーティ
ングした構造を特徴とする。これらの構造によりアルミニウム空気電池の最大の問題点である放電生
成物による放電阻害を防ぐことによって、電池を長寿命化することができる。

【特許請求の範囲】

  1. 負極及び、正極(空気極)が、電解槽内に配置された一室型電池であって(1)負極として、
    アルミニウム又は、アルミニウム合金の導電体を、ポリアニオン性水溶性多糖類を含む溶液を
    浸漬させ、電気分解することによって、正極に接続したアルミニウム又は、アルミニウム合金
    の導電体に、ポリアニオン性水溶性多糖類が堆積した、負極電極からなり(2)正極(空気極)
    として、活性炭、カーボン、カーボンナノチューブなどの炭素材料、La(1-x)MnO
    (0.05<x<0.95;A=Ca,Sr,Ba)で表されるランタンマンガナイトなどの
    ペロブスカイト型複合酸化物、Mn、Mnなどのマンガン低級酸化物、あるいはポリ
    アセチレン、ポリチオフェン類などの伝導性高分子から選ばれる1種以上である、正極からな
    り、(3)電解液からなる、アルミニウム空気電池。
  2. 前記ポリアニオン性の水溶性多糖類が、アルギン酸塩である、アルミニウム空気電池。
  3. 前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニ
    ウムである、アルミニウム空気電池。
  4. 請求項1の電解液は、塩化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、過酸化水素、塩化
    マグネシウム水溶液、海水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液からなる群から
    選ばれる少なくとも1つである、アルミニウム空気電池。



● 自然エネルギーで製造したビール 累計百億本超

今月2日、アサヒビールは、2009年からバイオマス発電や風力発電といった自然エネルギーを活用し
て製造。「アサヒスーパードライ」の累計製造本数が、2016年末時点で百億本を超えたと発表。同社
は、2009年4月に日本自然エネルギーとグリーン電力に関する契約を締結。「食品業界で初」という
商品の製造にグリーン電力の活用を始めている。活用した累計のグリーン電力量の累計は約1.6億
kWh(キロワット時)で、一般家庭が1年間で使用する電力の約3万7千0世帯分に相当する。また、
二酸化炭素の削減量に換算すると、累計で約7万7千トンで、杉の木約5百本に相当する二酸化炭素
吸収量に匹敵する。アサヒグループは『環境ビジョン2020』に“自然の恵みを明日へ”という思い
を込めており、今後も太陽光や風力、バイオマスなどの自然エネルギーの利用拡大や省エネルギーを
推進し、低炭素社会の実現に向けて貢献していく。
 

    

 June 5, 2017

● ゲルマニウム単結晶の超薄膜化 集積回路の高速化と低消費電力化に貢献

携帯情報端末の普及や、IT機器の高機能化に伴う消費電力の増大により、電子情報機器の消費電力低
減が求められているが、搭載されているLSIを構成する個々のトランジスタの動作電圧の低減が有効
である。これまでトランジスタを微細化することで動作電圧は徐々に下げられてきたが、これまで
LSIで使われていたケイ素(Si)の物性の物理的限界に近づき、近年は1V程度で停滞。ケイ素(Si)
り低電圧で動作するゲルマニウム(Ge)を用いた微細なトランジスタの研究開発が進めらている。電
子や正孔の移動度が高く高品質の単結晶Ge薄膜の形成が難しいことがその大きな要因であり、産総研
では、独自の低温貼り合せ技術と高度な半導体転写法を用いた高品質Ge薄膜の形成技術を研究。




今回、半導体転写技術の高度化させ、膜厚10ナノメートルのゲルマニウム単結晶薄膜の作成す法を
開発。上図に今回開発した超薄膜Ge構造の形成法、HEtero-Layer Lift-Off (HELLO)法の概要を示す。
まず、ヒ化ガリウム(GaAs)基板上に剥離層となるヒ化アルミニウム(AlAs)層を形成し、その上に高
品質の超薄膜ゲルマニウム/シリコンゲルマニウム/ゲルマニウム(Ge/SiGe/Ge)の複層膜構造をヘテ
ロエピタキシャル成長させる。SiGe層は後述の選択エッチングプロセスのエッチングストップ層とな
る。ここで、AlAs層やSiGe層のように化学的な性質は大きく異なるがGe結晶の格子とは一致した結晶
成長が肝となる。その後、酸化アルミニウム(Al2O3)絶縁膜を堆積させた。剥離層であるAlAs層を
露出させるために、Al2O3/Ge/SiGe/Ge/AlAs層を部分的にエッチングした後、二酸化ケイ素(SiO2)膜
を付けたSi基板と貼り合わせる。剥離層であるAlAs層だけを薬液により溶解してGaAs基板を剥離する
と、Al2O3/Ge/SiGe/Ge層が転写されたSi基板が得られ、さらに転写されたGe/SiGe/Ge層のうち上側の
Ge層とSiGe層を選択エッチングして順次取り除くと、絶縁膜上に均一な超薄膜Ge構造ができる。最終
的にこの超薄膜Ge構造を、原子層レベルで繰り返しエッチングすることで精密に膜厚を制御できる。


以上、❶半導体転写技術によりゲルマニウム(Ge)単結晶を10 nm以下に超薄膜化、❷薄膜化に伴い、
絶縁膜に挟まれたGe膜中の電子移動度が急激に向上する新しい現象を発見、❸高速情報処理を低消費
電力で行える大規模集積回路実現の貢献が期待される。


  June 5, 2017

● 最も熱い惑星発見 4300度と恒星並み

表面温度が約4300度と、これまで観測された中で最も熱い太陽系外惑星を、東京大と国立天文台など
の研究チームが発見し、5日付の英科学誌ネイチャーに発表。太陽系以外の惑星(系外惑星)は1995
年の初発見以来、4000個近くが見つかっているが、恒星に匹敵する温度の惑星は例がなく、従来
の惑星の概念を覆す発見となる。
成田憲保東京大の助教らは、地球から約650光年離れた温度約1
万度の恒星「KELT-9」を回る惑星「KELT-9b」を、国立天文台岡山天体物理観測所(岡
山県浅口市)の望遠鏡などで詳しく観測。周期約1.5日で公転するこの惑星から放射される近赤外
線の測定から、惑星の昼側(恒星を向いた面)の温度が約4300度に達していることが分かった。

こうした高温の惑星では、大気成分に二酸化炭素やメタンなどの分子は存在できず、恒星からの強い
紫外線により大気が常に流出している可能性が高いという。成田助教は「太陽系を含め、惑星形成の
過程を知るためには、さまざまなタイプの惑星を調べる必要がある。これまで不足していた高温の惑
星の情報は、全体像を知る手掛かりになる。


    

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編   
 

   34.そういえば最近、空気圧を測ったことがなかった

  
時計は午後二時を少しまわっていた。ひどくくたびれたという感覚があった。私はクローゼッ
 トから古い毛布を持ってきて、それを身体にかけてソファの上に横になり、しばらく眠った。目
 が覚めたのは三時過ぎだった。部屋に差し込む太陽の光が少しだけ移動していた。妙な一日だっ
 た。自分が前に進んでいるのか後ろに下がっているのか、あるいは同じところをぐるぐる回って
 いるのか、見定めることができない。方向感覚が乱されている感覚があった。秋川笙子とまりえ 
 と、そして免色。彼ら三人が三人とも、それぞれに強い特別な磁力のようなものを発している
 そしてその三人に囲まれるように、私が真ん中に置かれていた。どのような磁力をも身に帯びる
 ことなく。

  しかしどれだけくたびれてはいても、もう日曜日が終わってしまったわけではなかった。時計
 の針は午後三時をまわったばかりなのだから。そしてまだ日が暮れてもいないのだから。日曜日
 が過去のものとなり、明日という新しい一日が訪れるまでにはたっぷり時間がある。でも何をす
 る気にもなれなかった。昼寝をしたあとでも、頭の奥の方にまだぼんやりとした塊が残っていた。
 机の狭い抽斗の奥に古い毛糸の玉が詰まっているような感覚だ。誰かがそんなものを無理にそこ
 に詰め込んだのだ。おかげで抽斗がきちんと最後まで閉まらない。たぶんこんな日には、私も車
 の空気圧を側ってみるべきなのだろう。何もする気が起きないときには、人はせめてタイヤの空
 気圧でも測ってみるべきなのだ

  しかし考えてみれば、私はまだ生まれてこの方、自分で車のタイヤの空気圧を測った経験が一
 度もなかった。たまにガソリン・スタンドで「空気圧が下がっているみたいだから、測ってみた
 方がいいかもしれませんね」と言われて、そのときに測ってもらうくらいだ。もちろん空気圧計
 みたいなものも所有してはいない。それがどんな形をしているかすら知らない。コンパートメン
 トに入るくらいだから、それほど大きなものではないのだろう。そしてたぶん月賦を使って買わ
 なくてはならないほど高価なものでもないはずだ。今度試しに買ってきてみよう。

                                     この講つづく

  

● 世界一のマ・マーのペペロンチーニ

最近、日本の冷凍食品も悪くないと思えることがあった。確かに加工食品は、農薬・遺伝子組み換え・
添加物による複合汚染リスクがある。最近摂った日清フーズの冷凍「マ・マー THE PASTA ソテー
スパゲティ ナポリタン」(税抜き価格は330円)で日本食糧新聞・電子版によると、今年3月に
発売されているが、5、6百キロワット電子レンジで5~6分程度加熱するだけで頂ける。フライパ
ンでソテーした時のあの香ばしい炒め感が魅力。エクストラ・バージン・オリーブオイルが豊かに香
り、にんにくの旨味と、赤唐辛子の辛味がクセになる味わいとはメーカーのうたい文句だが、その通
り。これに香辛料、アンチョビ、粉チーズなどを加えて和えれば格段に美味くなり手間暇いらず、昼
間の作業にはもってこい。かくして、虜になる、世界一の技術だ!と。

 

 

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自動車のシンギュラリティ・ボイント

2017年06月06日 | デジタル革命渦論

           
      僖公二十三年:晋の文公、亡命十九年 / 晋の文公制覇の時代  
               
   

                          

       ※ 前七世紀末、天下の覇者となった晋の文公(重耳:ちょう
         じ)には、即位するまえ、長い雌伏の時代があった。すな
         わち、父献公の寵愛する驪姫の姦計(驪姫の禍)により出
         奔を余儀なくされたかれは、諸国を流浪する。父に追われ、
         異母兄弟にねらわれての逃避行のすえ、本国に帰って即位
         したのは、嬉公二十四年のことである。その間の人間模様
         
がここに一括して記されている。この条、経文はない。
 

       ※ 三舎を避(さ):  一行は楚国に着いた。楚の成王は盛
         大な宴を催して、一行をもてなした。その席上のことであ
         る。成王は重耳に、「あなたが本国にお帰りになったあか
         つきには、返礼に何をくださるかな」と、たずねた。「美
         女とか玉とか帛(きぬ)のたぐいは、いくらでもお持ちで
         しょう。さりとて、鳥の羽、獣の毛皮、牙などは、みなお
         国の持産物。わが国のほうがお余りを頂戴しているくらい
         です。さて、何にしたものか」「それはそうでしょうが、
         わたしとしては何か一つくらい頂戴したい」「では、こう
         しましょう。もし、あなたのお力で本国に帰ることができ
         たとします。そして将来わが晋と貴国とが、軍勢をととの
         えて中原の地で相まみえるようなことになったとき、わた
         しは九十里だけわが国の軍勢を後退させましょう。これで
         ご納得いただけるかと思います。もしこれで納得がいかな
         いとおっしゃるのでしたら、やむをえません。はばかりな
         がらこのわたくし、弓をとってお相手つかまつりましょう」

         そばできいていた楚の令尹子玉(しぎょく)は、これこそ
         未来の強敵と思い、今のうちに重耳を暗殺するよう成王に
         申し出た。しかし、成王は、「晋の公子は大きな理想を抱
         きながらも、足取りは着実だ。派手にふるまっている一面、
         決して礼にもとるようなことがない。従者たちにしてもそ
         うだ。慎しみ深く仕えていながら、窮屈そうではない。
         誠実に努力をつみ重ねている。それに引きかえ、今の晋侯
         (恵公、名は両君、垂耳の異母兄弟)はどうだ。心を許せ
         る臣下に恵まれず、国内はもちろん国外からも怨みを買っ
         ている。晋は姫他の国、唐叔(とうしゅく)の後裔で、ど
         この国よりも長く栄えると聞き及んでいる。重耳こそ、晋
         の国力を盛り返す人物にちがいあるまい。天が復興させよ
         うとしているものを、だれが押しとどめられよう。これに
         逆らえば、必ず天罰がくだるだろう。こう言って、重耳を
         秦国に送り届けた。

       ★〈九十里……〉 原文は「辟君三舎」(君を辟けること三舎)。
         当時、軍隊の行程は一日三十里で宿営する慣わしであった。
         三舎とは九十里である。「三舎を避ける」という語源。
        〈恵公〉驪姫の禍によって、重耳と同様に亡命したが、父懐
         公の死後、帰国して即位した。重耳をおそれ刺客をおくる。
        〈唐叔〉周の成王の弟叔虞のこと。唐(今の山西省大原の北)
         に封ぜられて唐侯といわれた。すなわち晋の始祖である。
 

   Jun 6,2017

● カップヌードル そうめん 鯛だし柚子風味

トムヤンクンヌードルが発売されやみつきになり、スープを残さず飲むという健康には良くない?こ
とを続けて
いる。家族のものからは敬遠されているのだがこれが切れるとわたしもキレてしまう。そ
んな日清食品株式会
社から「カップヌードル そうめん 鯛だし柚子風味」が6月19日に発売されると
いう。曰く、カップヌードル」ブランドから夏期限定で販売している「そうめん」シリーズは、のど
ごしの良いそうめんを和風だしでさっぱりと食べられることから、好評だという。今年は、上質感あ
る「和」の味わいにこだわった「カップヌードル そうめん 鯛だし柚子風味」だとか。その技術的な
特質は、小麦粉の香りとしなやかな麺質にこだわり、熱湯で作る "温調理" は湯のびしにくく、氷で
冷やして食べる "冷調理" ではコシのある食感にあるらしい。スープは、昆布や鶏のうまみとしょう
がの風味
を加えた味わい深い鯛だし、爽やかな柚子の香りでアクセントをつけました。具材には、
白身魚のつみれ、たまご、ネギ、花形かまぼこ、柚子皮を使用し、彩り鮮やかに「和」を表現。パッ
ケージは、雄大な富士山が描かれた葛飾北斎の「東海道江尻田子の浦略図」(富嶽三十六景) をあし
らっている。面倒くさがり屋の現代人には好適じゃないのと嫌味を言う彼女に、俺のことかと問う場
面のあったが試食してみないとわからない。





● 観測史上最高を更新 日本付近の二酸化炭素濃度

   May 31, 2017

   

  Jun 5,2017

【自動車のシンギュラリティ・ボイント 2018】

● 電気自動車 2018年 従来車とのコストパリティを実現

スイスのチューリヒおよびバーゼルに本拠を置く世界有数の金融持株会社USBの調査によると、
気自動車は来年までに内燃エンジン搭載車のコスト・パリティを達成する可能性が高い。電気自動車
は25年になるとエネルギーコストはガソリンよりを安くする。
報告書によれば、電気自動車はまだ
ガソリン車(ICE)以上のコストがかかるが、電気自動車は、長期的にガス車/
ディーゼル車と匹
敵する。
この分析には、燃料コスト、維持費、およびその他の関連支出を基幹軸に測定しガソリン

ディーゼル車と比較。
グリーン車は、バッテリ容量、充電時間、環境に配慮技術に対する需要の急増
するにつれ量産効果が働きコスト逓減し手頃なものになる。現在は電気自動車は売り上げの14%程
度と想定している
今後数年間に複数の長距離電気自動車が市場に出回り本格化する。バッテリーの
コストは8年前の予想より価格下落し、自動車メーカーは走行距離320キロメートル以上クラスの
バッテリー搭載を想定する。

 Jun 05, 2017
 

    

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編   
 

   34.そういえば最近、空気圧を測ったことがなかった

    結局、翌週の日曜日の正午過ぎに、免色が二人を迎えにうちに来ることになった。私も一緒に
 来るように誘われたが、その日の午後は用事があるのでと言って丁重に断った。私としてはこれ
 以上、この件に深入りしたくはなかったからだ。あとのことは当事者だけに委ねたい。そこで何
 が起こるにせよ、私はできる限り部外者でいたい。私はただ結果的に――もともとそんなことを
 
するつもりはなかったのだが――両者のおいたを取り持っただけだ。
  美しい叔母と姪が二人で帰っていくのを見送るべく、私と見色は外に出た。秋川笙子は、プリ
 ウスの隣に駐まった免色の銀色のジャガーをしばらく興味深そうに眺めていた。まるで愛犬家が
 よその犬を見るときのような目で。

 「これはいちばん新しいジャガーですね」と彼女は免色に尋ねた。
 「そうです。今のところこれがジャガーの最新のクーペです。車はお好きなのですか?」と免色
 は尋ねた。
 「いえ、そんなわけでもありません。ただ亡くなった父が昔、ジャガーのセダンを運転してい
 たんです。よく乗せてもらったし、たまに運転もさせてもらいました。だから車体の先について
 いるこのマークを見るとつい懐かしくなるんです。XJ6っていったかしら。丸い四つ目のヘッ
 ドライトがついていた車。直列六気筒の4・2リッター・エンジンでした」
 「シリーズⅢですね。ええ、あれはとても美しいモデルです」
 「父はあの車が気に入っていたようで、かなり長く乗っていました。燃費の悪さと、細かい故障
 の多さには群易していましたが、それでも」
 「あのモデルはとりわけ燃費がよくありません。電気系統に故障も多かったかもしれません。ジ
 ャガーは伝統的に電気系統があまり強くないのです。しかし故障なく走っているときには、そし
 てガソリン代さえ気にしなければ、一貫して素晴らしい車です。乗り心地にもハンドリングにも、
 他では得られない魅力が溢れてます。もちろん世間の圧倒的多数の人は、故障と燃費のことをし
 っかり気にかけますし、だからこそトョタ・プリウスが飛ぶように売れるわけですが」
 「これは兄が私専用にということで貫ってくれたんです。私か自分で貫ったわけではありませ
 ん」と秋川里子はトョタ・プリウスを指して、まるで言い訳をするように言った。「運転しやす
 いし、安全だし、環境にも優しいということで」
  「プリウスはとても優秀な車です」と免色は言った。「実は私も真剣に貫うことを考えました」
  本当だろうか? 私は内心首を傾げた。トヨタ・プリウスに乗っている免色の姿はうまく想像
 できなかったからだ。レストランでニソワーズ・サラダを注文している豹の姿が想像できないの
 と同じくらい。



  秋川笙子はジャガーの車内をのぞき込みながら言った。「たいへん不躾なお願いですが、この
 車に少しだけ乗ってみてかまいませんか? 運転席に座ってみるだけですが」
 「もちろん」と免色は言った。そして声を整えるように軽く咳払いをした。「いくらでも乗って
 みてください。もしよかったら、運転なさってもかまいませんよ」
  彼女がそれほど免色のジャガーに関心を示すのを目にするのは、私にとっては意外なことだっ
 た。穏やかで清楚な外見からして、車に興味を持ちそうなタイプには見えなかったからだ。しか
 し秋川笙子は目を輝かせてジャガーの運転席に乗り込み、クリーム色の革シートに身体を馴染ま
 せ、ダッシュボードを注意深く眺め、ハンドルに両手を置いた。それから左手をシフトレバーの
 上に載せた。免色はチノパンツのポケットから車のキーを取り出し、彼女に渡した。

 「エンジンをかけてみてください」

  秋川笙子は黙ってそのキーを受け取り、ハンドルの脇に差し込み、時計回りに回した。その大
 きな描科の獣は一瞬にして目を覚ました。彼女は底深いエンジン音にしばらくうっとりと耳を澄
 ませていた。

 「このエンジンの音には聞き覚えがあります」と彼女は言った。
 「4・2リッター V8のエンジンです。お父さんの乗っておられたXJ6は六気筒で、バルブ

 の数も圧縮比も違いますが、音は似ているかもしれません。化石燃料を盛大に無反省に燃やして
 いるという点にかけては、今も昔も変わることなく罪深い機械です」

  秋川笙子はレバーを上げて右折のウィンカーを出した。独特のこんこんという明るい音が聞こ
 えた。

 「この音がとても懐かしいわ」
  免色は微笑んだ。「これはジャガーにしか出せない音です。他のどんな車のウィンカーの音と
 も追っています」
 「私は若い頃、XJ6で密かに練習して運転免許を取ったんです」と彼女は言った。「パーキン
 グ・ブレーキが普通とは少し追っているので、初めて他の車に乗ったときにはけっ号っ戸惑いま
 した。どうしていいかわからなくて」
 「よくわかります」と免色は微笑んで言った。「英国人というのは、なにかと妙なところにこだ
 わるんです」
 「でも車の中の匂いは、父の車とは少し追うみたい」
 「残念ながら追っているかもしれません。使われているインテリアのマテリアルが様々な事情で、
 昔とまったく同じというわけにはいかなくなったのです。とくに二〇〇二年にコノリー社が皮革
 を提供しなくなってからは、車内の匂いはずいぶん変わってしまいました。コノリーという会社
 そのものが消滅してしまったからです」
 「残念だわ。あの匂いがとても好きだったのに。なんていうか、父の匂いの思い出と一緒みたい
 になっていて」
  免色は言いにくそうに言った。「実を言いますと、私はこのほかにも古いジャガーを一台特っ
 ているんです。そちらならあるいは、お父さんの車と同じような匂いがするかもしれません」
 「XJ6をお持ちなんですか?」
 「いいえ、Eタイプです」
 「Eタイプって、あのオープン・力ーですか?」
 「そうです。シリーズーのロードスター、六〇年代半ばに作られたものですが、まだしっかり走
 ります。これもやはり六気筒の4・2リッター・エンジンを積んでいます。オリジナルのツー・
 シーターです。さすがに幌は新しくしましたので、正確な意味ではオリジナルとは言えないので
 すが」



  私は車のことはまったく詳しくないので、何の話なのかほとんど理解できなかったが、秋川笙
 子はその情報にある種の感銘を受けたようだった。いずれにせよ、二人がジャガー車という共通
 の――おそらくはかなり狭い領域の――趣味を持っていることが判明したおかげで、私はいくら
 か気が楽になった。初対面の二人の会話のために話題を見つけてやる必要が、これでなくなった
 わけだから。まりえは自動車に開しては私以上に興味を持っていないらしく、二人の会話をいか
 にも退屈そうに開いていた。

  秋川笙子はジャガーから降りてドアを閉め、車のキーを免色に退した。免色はキーを受け取り、
 チノパンツのポケットに戻した。それから彼女とまりえはブルーのプリウスに乗り込んだ。免色
 がまりえのためにドアを閉めてやった。ジャガーとプリウスとでは、ドアの閉まる音がまったく
 違うことに私はあらためて感銘を受けた。音ひとつとっても世界には実に多くの差違がある。ダ
 ブルベースの同じ開放弦を一度だけぽんと鳴らしても、チャーリー・ミンガスの音とレイ・ブラ
 ウンの音が確実に追って聞こえるのと同じように

  Ray Brown

 「それでは来週の日曜日に」と免仏は言った。
  秋川笙子は免仏に向かってにっこりと微笑み、ハンドルを握って去って行った。トヨタ・プリ
 ウスのずんぐりとした後ろ姿が見えなくなってしまうと、私と免仏は家の中に戻った。そして居
 間で冷えたコーヒーを飲んだ。我々はしばらくのあいだ口をきかなかった。見仏は身体全休から
 力が抜け落ちてしまったみたいだった。過酷な長距離レースを走り終えてゴールインしたばかり
 のランナーのように。
 「美しい女の子ですね」と私は少ししてから言った。「秋川まりえのことですが」
 「そうですね。大きくなったらもっときれいになるでしょう」と免仏は言った。しかしそう言い
 ながら、頭では何か違うことを考えているみたいに見えた。
 「彼女を近くで見て、どう感じました?」と私は尋ねた。
  免色は居心地悪そうに微笑んだ。「実を言うと、あまりよく見ることができなかったんです。
 緊張していたものですから」
 「でも少しは見たでしょう?」

   Charles Mingus

 免色は肯いた。「ええ、もちろん」。それからまたしばらく黙っていたが、急に顔を上げて真剣
 な眼差しで私を見た。「それで、あなたはどのように思われましたか?」
 「どのように思うって、何をですか?」
  免色の顔にまた少し赤みが差した。「つまり、彼女の顔だちと私の顔だちとの間には、何か共
 通点のようなものはあるのでしょうか。あなたは画家だし、長く肖像画を専門的に描いてきた方
 だから、そういうことはおわかりになるのではありませんか」

  私は首を振った。「たしかにぼくは顔の特徴を素早く掴む訓練を積んでいます。でも親子の見
 分け方まではわかりません。世の中にはまったく似ていない親子もいれば、そっくりな顔をした
 赤の他人もいます」
  免色は深いため息をついた。身体全休から絞り出されるようなため息だった。彼は両手の手の
 ひらをこすりあわせた。
 「私は何も鑑定をお願いしているわけではありません。あくまで個人的な感想をうかがい
 たいんです。ごく些細なことでかまいません。もし何か気にとめられたことがあったら、教えて
 いただ
きたいのですが」

  私はそれについて少し考えた。そして言った。「ひとつひとつの具体的な顔の造作について言
 えば、あなたがた二人のあいだに似通ったところはあまりないかもしれない。ただ目の勤きには、
 何かしら相通じるものがあるように感じました。しばしばはっと、そういう印象を受けました」
 彼は薄い唇を結んで私の顔を見た。「私たちの目に共通したところがあるということですか?」
 「感情がそのまま率直に目に出るところが、あなたがた二人の共通点かもしれない。たとえば好
 奇心とか、熱意とか、驚きとか、あるいは疑念とか、抵抗感とか、そういう微妙な感情が目を通
 して外に現れます。表情は決して豊かとは言えないのに、両目が心の窓みたいな働きをしていま
 す。普通の人とは逆です。多くの人は表情はそれなりに豊かでも、目はそれほど生き生きしてい
 ません」
  免色は意外そうな顔をした。「私の目もそのように見えるのですか?」
  私は肯いた。 「そんな風に意識したことはなかったな」
 「自分でコントロールしようと思っても、きっとできないものなのでしょう。あるいは意識して
 表情を抑制しているぷん、感情が目に集中して出てくるのかもしれません。でもそれもよくよく
 注意深く観察していないと読み取れない程度のものです。普通の人ならまず気づかないかもしれ
 ない」
 「でもあなたにはそれが見える?」
 「ぼくは人の表情の把握をいねば職業にしています」
  免色はそのことについてひとしきり考えていた。そして言った。「私たちはそのような共通点
 を特っている。しかし血を分けた親子かどうかということになると、それはあなたにもわからな
 い?」
 「ぼくは人を見ていくつかの絵画的印象を特ちますし、それを大切にします。しかし絵画的印象
 と客観的事実とは別のものです。印象は何も証明しません。風に運ばれる薄い蝶々のようなもの
 で、そこには実用性はほとんどありません。それで、あなたはいかがですか? あなた自身は彼
 女を前にして何か特別なものを感じなかったのですか?」
  彼は何度か首を握った。「一度短く顔を合わせたくらいでは何もわかりません。もっと長い時
 間が必要です。あの少女と一緒にいることに慣れなくては……」

  それから彼はもう一度ゆっくり首を握った。何かを深すようにジャケットのポケットに両手を
 突っ込み、またそれを出した。自分か何を深していたか忘れてしまったみたいに。そして続けた。

 「いや、回数の問題ではないかもしれません。会えば会うほどむしろ混乱が増していくだけで、
 どのような結論にもたどり着けないかもしれません。彼女はひょっとしたら私の血を分けた娘か
 もしれないし、あるいはそうじやないかもしれない。でもどちらでもかまわないのです。あの少
 女を前にして、そういう可能性に思いを巡らせているだけで、この指で仮想に触れているだけで
 一瞬のうちに新しい鮮やかな血液を身体の隅々に行き渡らせることができます。私は生きること
 の意味を、これまで本当には理解できていなかったのかもしれない」

  私は沈黙を守った。免色の心の勣きに関して、あるいは生きることの定義に関して、私に口に
 できるようなことは何ひとつない。免色はいかにも高価そうな薄い腕時計に目をやり、もがくよ
 うにぎこちなくソファから立ち上がった。
 「あなたに感謝をしなくては。もしあなたが背中を押してくれなかったら、私一人ではおそらく
 何もできなかったでしょう」
  それだけを口にすると、彼はおぼつかない足取りで玄関に向かい、時間をかけて靴を履き靴紐
 を結び直し、それから外に出た。彼が車に乗り込み、立ち去っていくのを、私は玄関の前から眺
 めていた。ジャガーの姿が見えなくなると、あたりは再び日曜日の午後の静寂に包まれた。


今回も、隠喩(いんゆい)が遷化(せんげ)する。実に面白い。

 Act 2, Scene 7


   All the world's a stage,
    And all the men and women merely players;
       They have their exits and their entrances

                         —William Shakespeare, As You Like It,

                                      この項つづく

 

 

 

 

 

 

 

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発電する超高層ビルディング

2017年06月05日 | 環境工学システム論

           
      僖公二十三年:晋の文公、亡命十九年 / 晋の文公制覇の時代  
               
   

                          

       ※ 前七世紀末、天下の覇者となった晋の文公(重耳:ちょう
         じ)には、即位するまえ、長い雌伏の時代があった。すな
         わち、父献公の寵愛する驪姫の姦計(驪姫の禍)により出
         奔を余儀なくされたかれは、諸国を流浪する。父に追われ、
         異母兄弟にねらわれての逃避行のすえ、本国に帰って即位
         したのは、嬉公二十四年のことである。その間の人間模様
         
がここに一括して記されている。この条、経文はない。
 

       ※ 宋の襄公、馬を贈る:一行は宋に着いた。宋の襄公は馬八
         十頭を重耳に贈った。

       ★ このとき宋は泓(おう)の戦い(前節)に敗れて困窮して
         おり、垂
耳をもてなす余裕がなかった。それでもさすがは
         襄公、垂
耳の大器であることを見込み、贈物だけはしたの
         である。


       ※ 天の啓(ひら)くところ、人及ばず:一行は鄭国に着いた。
         鄭の文公もかれらを礼遇しなかった。大夫の叔詹(しゅく
         
せん)が文公を諌めた。「"天の意志"は、人智のばかり知
         るところではない"という言葉がございますが、垂耳には、
         人智を
もってしては解釈できない点が三つあります。おそ
         らくは天があの方の将来を保証しているのではな
いでしょ
         うか。手厚くもてなさなければいけません。その三つとは
        
 同姓の男女が結婚すれば、その子孫は跡絶えて当り前なの
         に、垂耳は父君も母君も姫姓でありなが
ら、げんに今日ま
         であのとおり元気でいます。これが第一です。


         次にかれは迫害を受けて国外を流浪していますが、一方、
         天はかれのいない回国に内紛を起こさせ
ています。これは
         公子を本国に導き入れようとの天の凪召しではないでしょ
         うか。これが第二です。
また、かれには、一国の宰相たる
         器量の持ち主が三人まで付き従っています。これが第三で
         す。
そうでなくとも、もともと回国とわが鄭国とは同等(
         同じく侯爵)の国、当然、わが国に立ち寄った晋
国の子弟
         は、手厚くもてなしてしかるべきです。まして、かれには
         天が味方しているのですから、
冷遇などもってのほかです」
         だが、文公は聞き入れなかった。

       ★ 三人『国語』によると、狐偃、趙衰、賈佗(かだ)の
         三人を指す。 




   

 No.30 

 RE100倶楽部:太陽光発電篇】  

 May 25, 2017 

● 高層ビル外壁の太陽発電化

今回は、5月30日で第27回の「ガラス壁からの太陽エネルギーを利用する」で掲載した、高層ビルな
どの建築物外壁(窓を含む)の太陽光発電化――ゼロエネルギービルの外壁の事業プラットフォーム
構築――
をさらに考えを進めてみよう。高層ビルといっても屋根(5月27日の第25回で掲載した「フ
ォワードラボ社のソーラールーフ」参照)を含めると様々なタイプとなるが、ここでは典型的な高層
ビル(下図:新横浜市庁舎)を参考にすると、床面積:8,080平方メートル、周長:65×4=260
メー
トル×高さ150メートル)が外形寸法とすると、屋根除く延外壁面積は、39,000平方メートルとなる。
因みに、日照時間を3.5時間/日として、平均変換効率を10%、20%、30%、被覆係数を0.75とし発
電量を求めると、それぞれ、10,238kWh/d、20,475238kWh/d、30,713kWh/dの発電量を得ることができ
る。但し、この被覆係数には窓ガラス部分を含めるものとして、太陽電池は、化合物半導体、ペロブ
スカイト、結晶シリコンによるモノリシックあるいはタンデムの構造の太陽電池とする。また、色彩
マント、エンボス加工による質感の意匠性、強化ガラス層による保護、各パネルにはマイクロインバ
ーター回路など組み込み、陰や断線などの保護に配慮設計を前提とする。また、発電した電力の貯蔵
は、リチウムイオン電池などの蓄電池方式や電気分解水素製造貯蔵方式に2通りを想定している。、

Dec. 12 ,2016

このような、高層/超高層ビルディングの外壁(窓)の太陽電池化の課題はやはり、パネルの据え付
け/収納
/交換作業などの保全修理の配慮、強風、火災、地震の防災配慮するための工夫を必要とし、
ほとんどが新規考案になることであが、ここではそれには触れない(残件扱い)。



● 高効率なモノリシックタンデム型(一枚体・多段型)太陽電池の事例

US 9627576 B2 Monolithic tandem chalcopyrite-perovskite photovoltaic device

【特許請求範囲】

    1. モノリシックタンデム光起電力デバイスを形成する方法であって、基板を導電性材料でコ
      ーティングするステップと、第1の吸収体層の形成時に、第1の吸収体層のバンドギャッ
      プを約1.0から同程度に調整するステップと、第1の吸収体層の上に第2の吸収体層を
      形成するステップと、 eV~約1.9eV;前記第1の吸収体層の前記導電性材料とは反対側にバ
      ッファ層を形成する工程と、バッファ層の第1の吸収体層とは反対側の面に透明なフロン
      トコンタクトを形成する工程と、前記透明前面コンタクトの前記バッファ層に対向する側
      に正孔輸送層を形成するステップと、第2の吸収体層の形成中に、第2の吸収体層のバン
      ドギャップを調整して、第2の吸収体層を形成する工程と、約1.5eV~3eV;前記第2の吸収
      体層の前記正孔輸送層と反対側に電子輸送層を形成する工程と、電子輸送層の第2の吸収
      層とは反対側に透明な上部電極を形成する工程とを含む。
    2. 前記カルコパイライト材料が銅、インジウム及びセレンを含み、前記カルコパイライト材
      料がガリウムフリーである、請求項1に記載の方法。
    3. 前記第2の吸収層は、約60℃~約150℃の温度で形成されることを特徴とする請求項1に記
      載の方法。
    4. 前記被覆するステップが、モリブデン、タングステン、ニッケル、モリブデン、モリブデ
      ン、モリブデン、モリブデン、モリブデン、モリブデン、モリブデン、タンタル、アルミ
      ニウム、プラチナ、窒化チタン、窒化ケイ素、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
    5. 前記黄銅鉱材料が硫黄を含まない、請求項1に記載の方法。
    6. 前記透明上部電極が、約5ナノメートル?約50ナノメートルの厚さを有する金属の層から形
      成される、請求項1に記載の方法。
    7. 前記第1の吸収体層のバンドギャップのチューニングが、前記カルコパイライト材料の組
      成を変化させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
    8. 前記第2の吸収層の前記バンドギャップの同調が、前記ペロブスカイト材料中の金属ハロ
      ゲン化物組成を変化させるステップを含む、請求項1に記載の方法。

異なるバンドギャップを有する少なくとも2つの吸収体からなるタンデム型太陽電池は、単一接合型
太陽電池と比較してより広いスペクトル光収穫および優れた光電変換効率を可能にする。タンデム型
太陽電池は、多くの場合、1つの太陽電池を別の太陽電池の上に置きます。最適な性能を得るために
は、上部ソーラーセル内の吸収体のバンドギャップは、下部ソーラーセル内の吸収体のバンドギャッ
プよりも高くなければならない
。2つの一般的に使用されるタイプのタンデム装置は、2端子装置と
4端子装置
である。

Apr. 18, 2017

❶?2端子タンデムデバイスは、上部に1つの電極を、下部に1つの電極を含み、デバイスの上部/下
部の太陽電池間にトンネル接合部を有する。❷4端子タンデムデバイスは、互いに独立したデバイス
を含み、各独立したデバイスはそれ自身の上部および下部電極を有する。❸2端子タンデムデバイス
は、トップソーラーセルとボトムソーラーセルとの間の電流整合を必要とするので、2端子タンデム
デバイスは、4端子タンデムデバイスより製造するのが難しい。❹さらに、トップソーラーセルの処
理中にボトムソーラーセルを損傷しないように、2端子タンデムデバイスの製造中に注意を払わなけ
ればならない。❺それにもかかわらず、4端子デバイスは、複数の透明な導電性コンタクトおよび追
加の基板および層に関連する反射損失の必要性のために、かなりの抵抗および光学損失を被る。

CuInSe2(略称:CIS)、Cu(In、Ga)(S、Se)(略称:CIGS)、Cu2ZnSn(S、Se)などのカルコゲナ
イド系太陽電池(略称「CZT(S、Se)」)
は、比較的低いバンドギャップ(約1.15電子ボルト(eV))
で最高の効率を達成している。しかしながら、タンデムデバイス構造におけるカルコゲナイドベース
の太陽電池の使用は、注目すべきいくつかの課題を提示する。
例えば、最大限の性能を得るためには、
カルコゲナイドベースの太陽電池は、❶吸収体層の非常に高い処理温度(摂氏450度(摂氏)以上)
を必要とする。したがって、カルコゲナイドベースの太陽電池は、タンデムデバイスにおいて上部太
陽電池として使用できないことが多い。これらの高温は、下部太陽電池を劣化させる。❷さらに、カ
ルコゲナイド吸収体の低バンドギャップは、カルコゲナイド太陽電池をトップセルでの使用に適さな
いものにする。
いったん形成されると、カルコゲナイドベースの太陽電池は、約200℃を超える温度
で著しく劣化するpn接合を使用する。したがって、カルコゲナイドベースの太陽電池をボトムセルと
して使用する場合、トップセルの処理温度は約200℃以下に保たなければならない。底部セル内のp-n
接合を維持するために、この要件は、トップソーラーセルに従来のソーラーデバイスを使用する際の
課題になる可能性がある。したがって、カルコゲナイドベースの太陽電池設計をタンデム型光起電力
デバイス構造に統合する技術が望ましい

【図面の簡単な説明】 

    1. 本発明の一実施形態による、例示的な2端子、2太陽電池モノリシックタンデム光起電力
      装置を示す図
    2. 本発明の一実施形態による、2端子、2太陽電池モノリシックタンデム光起電力装置を形
      成する例示的な方法を示す図
    3. 本発明の一実施形態による、本技術によって形成された2太陽電池モノリシックタンデム
      光起電力装置の断面走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図
    4. 図1の光起電力装置の性能を示す図である。 本発明の一実施形態による図3のシステム
      のブロック図
    5. 図4の光起電力装置の電流電圧(J-V)曲線を示す図である。 本発明の一実施形態による
      図3のシステムを示す図

この事例のように、ペロブスカイト(トップ)とカルコパイライト(ボトム)の組み合わせで、耐久
性(望ましくは10年以上)があり、耐熱性(望ましくは100℃以上)があり、この様な直射光を吸収
するシリコン系太陽電池と異なり、曇天の散乱光を効率よく吸収する、ハイブリット型ペロブスカイ
トが赤外光周辺をを光電変換変換し、残りの可視光/紫外光の波長帯を化合物半導体カルコパイライ
トで光電変化変換し、変換効率が20%超(望ましくは30%程度)であれば、理想の薄膜タンデム太
陽電池が実現できる(様々な技術的なハードルが残件するにしても)。
 

● 壁面形成可能な太陽電池モジュールの事例

・特開2016-058697 太陽電池モジュール及び壁面形成部材

【特許請求範囲】  

    1. 第1透光性絶縁基板と、第2透光性絶縁基板と、前記第1透光性絶縁基板と第2透光性
      絶縁基板に挟まれた光電変換素子を備える太陽電池モジュールにおいて、前記光電変換
      素子は、第1透光性絶縁基板側から、第1透明電極層、光電変換層、第2透明電極層の
      順に積層されたものであり、前記光電変換層は、光を照射したときに光エネルギーを電
      気エネルギーに変換可能であって、かつ、光の一部を透過するものであり、前記光電変
      換素子は、第1透光性絶縁基板を平面視したときに、少なくとも光電変換層が除去され
      た開口部を有し、第1透光性絶縁基板側から光を照射したときに、前記開口部の内部を
      経由して通過し、第2透光性絶縁基板に至る光路を備えていることを特徴とする太陽電
      池モジュール。
    2. 前記光電変換素子を複数の小片に分割する素子分離溝を有し、前記素子分離溝は、前記
      開口部の少なくとも一部を形成するものであり、前記複数の小片は、それぞれ電気的に
      直列接続又は並列接続されており、第1透光性絶縁基板側から光を照射したときに、前
      記素子分離溝の内部を経由して通過し、第2透光性絶縁基板に至る光路を備えているこ
      とを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール。
    3. 前記光電変換素子を複数の小片に分割する素子分離溝と、前記光電変換層を部分的に除
      去した電極接続溝を有し、前記電極接続溝は、前記開口部の少なくとも一部を形成する
      ものであり、前記光電変換素子は、一の小片の第2透明電極層の一部が前記電極接続溝
      に進入して、他の小片の第1透明電極層に接することによって、前記一の小片と他の小
      片が電気的に直列接続されており、第1透光性絶縁基板側から光を照射したときに、前
      記電極接続溝の内部を経由して通過し、第2透光性絶縁基板に至る光路を備えているこ
      とを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池モジュール。
    4. 第1透光性絶縁基板を平面視したときに、前記開口部の開口面積は、第1透光性絶縁基
      板の面積の20パーセント以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載
      の太陽電池モジュール。
    5. フィルム状の封止部材を有し、前記封止部材は、光電変換素子を封止するものであって、
      かつ、弾性を有し、前記封止部材は、その大部分が光電変換素子と第2透光性絶縁基板
      との間に配されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の太陽電池モジ
      ュール。
    6. 光電変換素子を基準として前記第1透光性絶縁基板の外側の主面には、凹凸が形成され
      ており、前記外側の主面の算術平均粗さは、0.25μm以上1.25μm以下であり、
      JIS Z 8741に準ずる60度鏡面光沢度が8パーセント以下であることを特徴と
      する請求項1~5のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
    7. 請求項1~6のいずれかに記載の太陽電池モジュールを使用する壁面形成部材であって、
      建物の外壁面を形成する壁面形成部材において、前記太陽電池モジュールは、建物の内
      外の空間を区切るように配されており、建物の内部空間側に第2透光性絶縁基板が配さ
      れ、建物の外部空間側に第1透光性絶縁基板が配されており、前記光電変換層は、分光
      感度が異なる2つの光電変換ユニットを有し、前記2つの光電変換ユニットの内、吸収
      波長のピークが550nmに近い光電変換ユニットが第2透光性絶縁基板側に位置して
      いることを特徴とする壁面形成部材。

 Apr. 21, 2016

屋根以外に窓への設置を目的として考案された株式会社カネカの事例は壁面にも設置、そのまま窓面
にも設置できシームレスに展開できるものとしてここに掲載する。そこで、従来型の太陽電池では、
❶裏面電極層として透明電極を使用し、発電部位でも、室内空間に太陽光を取り込む構造で、❷発電
部分から光として取り出すこができるものの、❸建物の窓に使用した場合に、遮光――
光電変換層で
で使用され、通常の窓に比べ光の取り込み量が小さく差し障りが生じることもも。❹また、通常の窓
の採光量に近づけには、太陽光をできる限り建物内部に採光できることが好ましい。このため、
従来
に比べて発電面積の急激な低下を抑えつつ、高い採光性が得られる太陽電池モジュール及び壁面形成
部材が提案される
。この課題解決の請求項1に記載の発明は、第1透光性絶縁基板と、第2透光性絶
縁基板と、前記第1透光性絶縁基板と第2透光性絶縁基板に挟まれた光電変換素子を備える太陽電池
モジュールにおいて、前記光電変換素子は、第1透光性絶縁基板側から、第1透明電極層、光電変換
層、第2透明電極層の順に積層し、この光電変換層は、光を照射したときに光エネルギーを電気エネ
ルギーに変換/透過させ、第1透光性絶縁基板を平面視したときに、少なくとも光電変換層が除去さ
れた開口部を有し、第1透光性絶縁基板側から光を照射したときに、この開口部の内部を経由して通
過し、第2透光性絶縁基板に至る光路を備える太陽電池モジュールである(上/下図参照)。

【符号の説明】

1 太陽電池モジュール(壁面形成部材)  10 第1透光性絶縁基板  11 第2透光性絶縁基板 
12 光電変換素子  13 封止部材  15 凹凸  20 第1透明電極層  21 光電変換層 
22 第2透明電極層  25 結晶系光電変換ユニット(光電変換ユニット)  26 非結晶系光電
変換ユニット(光電変換ユニット)  41 電極接続溝(開口部)  42 第1素子分離溝(開口部)
  43 第1素子分離溝(開口部)  51 室内空間(内部空間)  52 外部空間

【図面の簡単な説明】

図1 本発明の第1実施形態の太陽電池モジュールの設置状態を模式的に表す斜視図
図2 図1の太陽電池モジュール近傍を抜き出した概念図
図3 図2の太陽電池モジュールの分解斜視図
図4 図3の太陽電池モジュールの要部の平面図
図5 図4の太陽電池モジュールのA-A断面図
図6 図4の太陽電池モジュールのB-B断面図
図7 図5の太陽電池モジュールの要部を表す説明図であり、電流の流れを矢印で示している。
図8 図5及び図6において太陽光の光路を表す説明図であり、(a)は図5に対応し、(b)は
   図6に対応する。

ここで、わたしの提案は、窓部周辺の太陽電池/モジュール回路パターンを変え、採光面積を広くす
ることにある。


● 電流整合を改善したシリコン系を含むタンデム型太陽電池

・特開2016-122755 太陽電池モジュール

このように、タンデム型太陽電池は、複数の太陽電池がそれぞれ、そのバンドギャップに対応する波
長範囲の光を光電変換し、連続的スペクトルを示す光を効率よく光電変換するので、高い変換効率を
示す太陽電池として期待されているが、
結晶シリコン基板を使用した太陽電池は、シリコンの吸収波
長の長波長端である1150nm以上の赤外線を透過する。そこで、シリコン結晶の太陽電池の受光
面とは反対側の裏面に、赤外線を吸収して発電するゲルマニウム太陽電池を配置し、それらを直列に
接続したタンデム構造の太陽電池が知られている。

この場合、180μmのSi単結晶基板を透過する近赤外線は、太陽光全体のエネルギーの1/4程
度で、シリコン太陽電池セルとゲルマニウム太陽電池を直列に接続した、いわゆるタンデム構造にし
た場合、太陽電池JSC(短絡電流密度)は、シリコン基板を透過した近赤外線のエネルギーに依存
するため、シリコン基板のみを用いた太陽電池の1/4程度のJSCとなり、電流整合が不十分であ
り、発電効率が小さかった。
そこで、シリコン太陽電池セルの裏面にゲルマニウム太陽電池を2つ直
列に接続したものを配置し、シリコン太陽電池セルと、ゲルマニウム太陽電池セルを2つ直列に接続
したものを並列接続した多接合型セルが知られている。

しかしながら、一般的に、シリコン太陽電池のセルVoc(開放電圧)は、ゲルマニウム太陽電池Voc
の丁度2倍というわけではないので、シリコン太陽電池とゲルマニウム太陽電池を2つ直列に接続し
たもののVocは一致しない。このため、シリコン太陽電池と2つ直列に接続したゲルマニウム太陽電
池とを並列に接続した多接合型セルを用いた太陽電池モジュールは、多接合型セル毎にロスがあり発
電効率が低くなる恐れがありこの理由から発電効率の高い太陽電池モジュールを、下図1の太陽電池
セルを複数枚接続した第1の太陽電池群と、第1の太陽電池群の受光面と反対側の面側に絶縁材料を
介し設置され、第1の太陽電池セルよりも吸収波長が長波長側にある第2の太陽電池セルを複数枚接
続した第2の太陽電池群を備えることで発電効率の高い太陽電池モジュールを実現する提案がシャー
プ株式会社より提供されている。ここで特に注目したのは請求項5の量子ドットとの組み合わせ。

【特許請求の範囲】

  1. 第1の太陽電池セルを複数枚接続した第1の太陽電池群と、前記第1の太陽電池群の受光面と反
    対側の面側に絶縁材料を介して設置され、前記第1の太陽電池セルよりも吸収波長が長波長側
    にある第2の太陽電池セルを複数枚接続した第2の太陽電池群を備えた太陽電池モジュール。
  2. 前記第1の太陽電池群を構成する複数枚の前記第1の太陽電池セルは直列に接続されるととも
    前記第2の太陽電池群を構成する複数枚の前記第2の太陽電池セルは直列に接続され、前記
    第1
    の太陽電池群と前記第2の太陽電池群は並列に接続された太陽電池モジュール。
  3. 前記第1の太陽電池群の開放電圧と、前記第2の太陽電池群の開放電圧が略等しい請求項1ま
    たは2に記載の太陽電池モジュール
  4. 前記第1の太陽電池群は、シリコン太陽電池からなり、前記第2の太陽電池群はゲルマニウム
    太陽電池からなる請求項1から3のいずれかに記載の太陽電池モジュール。
  5. 前記第2の太陽電池群は、量子ドットを使用した太陽電池からなる請求項1から3のいずれか
    に記載の太陽電池モジュール。

 July 7, 2016

【符号の説明】

10太陽電池モジュール 11太陽電池セル 12インターコネクタ 13カバーガラス 14E
VA樹脂 15絶縁シート 16EVA樹脂 17EVA樹脂 18バックシート 19太陽電池セ
ル 20インターコネクタ 21正極端子 22負極端子 23第1の太陽電池群 24第2の太陽
電池群 25ガラス基板 26透明導電層 27発電層 28裏面電極層 29太陽電池セル 30
EVA樹脂 31バックシート 40量子ドットペロブスカイト太陽電池 41ガラス基板 42
透明電極 43ホール輸送層 44ペロブスカイト層 44'アクリル樹脂 45、45'InNナ
ノ粒子 46…電子輸送層 47金属電極 48,48'発電層 50ペロブスカイト太陽電池 
51ガラス基板 52透明導電層 53p型ペロブスカイト層 54n型ペロブスカイト層 55
アルミ電極

【図面の簡単な説明】

【図1】本発明の太陽電池モジュールを示す模式的断面図
【図2】本発明の太陽電池モジュールを示す模式的断面図
【図3】本発明の太陽電池モジュールに使用される量子ドットペロブスカイト太陽電池を示す模式図
【図4】本発明の太陽電池モジュールに使用される量子ドット太陽電池を示す模式図。
【図5】本発明の太陽電池モジュールに使用されるペロブスカイト太陽電池を示す模式図

【実施形態3】

(実施の形態2の)太陽電池セル29において、薄膜ゲルマニウム太陽電池に代えて、CHNH
IとPbClをモル比において3:1で混合して形成されるペロブスカイトに、量子ドットとして直径
nm~50nmのInNナノ粒子を離散的に分散した薄膜を用いた量子ドットペロブスカイト太陽電池
を用いることができる。量子ドットとして、近赤外における吸光度の高いInNナノ粒子を用いるこ
とで、量子ドットペロブスカイト太陽電池を使用して第2の太陽電池群を構成することができる。

3は、本発明の太陽電池モジュールに使用されるペロブスカイト太陽電池の模式図。量子ドットペ
ブスカイト太陽電池40
は、ガラス基板41上に、透明電極42、ホール輸送層43、ペロブスカイト
層44、電子輸送層46、金属電極47を順に積層した構造である。ペロブスカイト層44には、
InNナノ粒子45が分散されている。InNナノ粒子45の間隔は2nm程度である。InNナノ
粒子同士を2nm程度の間隔に配置することによって、InNナノ粒子同士がトンネル結合するよう
になり、吸光度の高い、狭バンドギャップのペロブスカイト層44形成することが可能になる。ホー
ル輸送層43、ペロブスカイト層44、および電子輸送層46で発電層48を構成している。

ペロブスカイト太陽電池を使用した太陽電池モジュールは、図2に示される太陽電池モジュールと同
様の構造をとることができる。すなわち、図2における発電層27をペロブスカイト太陽電池の発電
層48に置き換えた構造をとる。 ペロブスカイト太陽電池は以下のように作成することができる。
まず、ガラス基板41上に厚さ100nmITOをスパッタリングで形成し、透明電極42を形成する。

次に、透明電極42上に、PEDOTPSSをスピンコートで50nm塗布してホール輸送層43を形成する。
次に、ペロブスカイト溶液に、ペロブスカイト成分に対して50wt%の、量子サイズ効果が発生しない
ド・ブロイ波長以上である直径10nmのInNナノ粒子を添加したものを、ホール輸送層43上にスピ
ンコートで、厚さ1μm程度塗布することにより、InNナノ粒子45を分散したペロブスカイト層
44を形成する。


次に、ペロブスカイト層44上に、PCBMをスピンコートして、電子輸送層46を形成する。電子輸
送層46の厚みは100nm程度である。電子輸送層46を積層した後、100℃程度で焼成する。真空蒸着
で形成し量子ドットペロブスカイト太陽電池40を形成する。
電子輸送層46として酸化チタン微粒
子を使用しても良い。この場合、ITOの上に酸化チタン微粒子を2μm塗布し、酸化チタン粒子の
上にペロブスカイト層、PEDOT:PSS層、アルミ電極を順に形成する。
このようにして、近赤外の太陽
電池を形成することができる。発電層48がスピンコートやスクリーン印刷などの非真空工程で形成
できる。



【実施形態4】

4は、本発明の太陽電池モジュールに使用される量子ドット太陽電池の模式図である。InNナ
ノ粒子45'はコアシェル型のナノ粒子であり、アクリル樹脂44'の絶縁材料に分散している。コ
アシェル型のInNナノ粒子45'は、直径10nmのInN粒子45a'を厚さ1nm程度のGa
N45b'でコーティングした粒子である。InNナノ粒子をコアシェル型にすると、発電特性が改
善する。また、InNナノ粒子45'同士が接触してトンネル接合するので、InNナノ粒子を離
散的に分散する必要がなくなる。また、InNナノ粒子45'を分散するアクリル樹脂44'は必ず
しも必要はなく、InNナノ粒子45'焼結したものであってもよい。


コアシェル型のナノ粒子が接触している場合、コアの半径を2倍にした距離aとシェルの厚さを2
倍にした距離bを周期ポテンシャルと見なし、ブロッホ関数を作る。ブロッホ関数の解から求めら
れる許容されたエネルギーバンドが中間バンドとなる。中間バンドを電子は移動することができる。
InNナノ粒子45'を含有する発電層48'をホール輸送層43、電子輸送層46で挟むことによ
って、太陽光を電気エネルギーとして取り出すことができる。量子ドット太陽電池を使用した太陽
電池モジュールは、図2に示される太陽電池モジュールと同様の構造をとることができる。すなわ
ち、図2における発電層27を量子ドット太陽電池の発電層48'に置き換えた構造をとる。実施
の形態3、実施の形態4に示した上述の実施の形態1または2に示した第1の太陽電池セル11は
シリコン太陽電池であるが、シリコン太陽電池に代えて、可視光を吸収して発電するペロブスカイ
トを使用した薄膜太陽電池を用いることができる。

【実施形態5】

上述の実施の形態1または2に示した第1の太陽電池セル11はシリコン太陽電池であるが、シリ
コン太陽電池に代えて、可視光の波長に吸収領域を持つペロブスカイトを使用した薄膜太陽電池を
用いることができるペロブスカイト太陽電池は、輸送層と電子輸送層の間にペロブスカイトを真性
半導体として使用して、ホール輸送層と電子輸送層を挟んだものであり、ホール輸送層としては、
PEDOTPSS電子輸送層としてはPCBMなどの有機材料を使用することができる。ホール輸送層と
電子輸送層はそれぞれ電極に接続される。さらに、n型ペロブスカイト層、p型ペロブスカイト層
を作成することで、上述のPEDOTPSSのホール輸送層やPCBMの電子輸送層が要らない安価な太
陽電池を提供することができる。 図5は、本発明の太陽電池モジュールに使用されるペロブスカ
イト太陽電池を示す模式図である。ガラス基板51上に厚さ100nmの透明導電層52をスパッタで
形成する。次に、200nmのp型ペロブスカイト層53、および、200nmのn型ペロブスカイト層54
を順次形成する。最後に厚さ100nmのアルミ電極55を真空蒸着で形成しペロブスカイト太陽電池
50を形成できる。詳細は、上図ダブクリ願参照
 。
                                       

 

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南極が溶ける。

2017年06月01日 | 環境工学システム論

           
      僖公二十三年:晋の文公、亡命十九年 / 晋の文公制覇の時代  
               
   

                          

       ※ 前七世紀末、天下の覇者となった晋の文公(重耳:ちょう
         じ)には、即位するまえ、長い雌伏の時代があった。すな
         わち、父献公の寵愛する驪姫の姦計(驪姫の禍)により出
         奔を余儀なくされたかれは、諸国を流浪する。父に追われ、
         異母兄弟にねらわれての逃避行のすえ、本国に帰って即位
         したのは、嬉公二十四年のことである。その間の人間模様
         
がここに一括して記されている。この条、経文はない。
 

       ※ 非 礼:一行は曹国に着いた。曹の共公(きょうこう)は、
         かねてうわさに
聞く垂耳の一枚肋自分の眼でたしかめたく
         なり、垂耳が浴みしてい
るところをすだれ越しに覗き見た。
         
曹に僖負羈(きふき)という大夫がいた。かれの妻は、こ
         の出来事を聞くと、夫に向って言った。
「百の公子のお付
         きの方たちを見ますに、どなたも一国の宰相にふさわしい
         方ばかりです。あの方仁
ちが公子をもりたててゆく限り、
         公子はきっと本国にお帰りになれましょう。やがては諸侯
         を抑えて覇者
となられるにちがいありません。そして諸侯
         をひきいて、むかし自分に無礼をはたらいた国々を
討伐な
         さるでしょう。そうなったとき、まっさきに槍玉にあげら
         れるのは、これはどの無礼をはたら
いたわが国です。いま
         のうちに、誼みを通じておいたほうがよいと思います」僖
         負羈
はさっそく垂耳に贈り物をしようとした。人目を避け
         るため、料理を器に盛り、その中に璧(たま)
を入れて垂
         耳のもとを訪れた。垂耳は料理だけを感謝して受けとり、
         璧は返した。

       ★ 璧を返す:後世、人の贈物を返すことを「反璧」(はんぺ
         き)というのは、この故事にもとづく。
 

 

    

  みちびき2号が変える未来

 No.29

 RE100倶楽部:太陽光発電篇】  

● 「世界初」可視光で実現 水と太陽光で水素製造

5月29日、大阪大学産業科学研究所の真嶋哲朗教授らの研究グループは、黒リンを用いた光触媒を
開発。この光触媒を使用すると可視光・近赤外光の照射によっても、水から水素生成が効率よく起こ
ることを世界で初めて創製。
従来の光触媒では、太陽光の3~4%にすぎない紫外光を利用するため、
水から水素への太陽光エネルギー変換効率は低いという問題があった。
今回、同研究グループは、紫
外・可視光のみならず近赤外光にも強い吸収をもつ層状の黒リンと、層状のチタン酸ランタン(La2
Ti2O7
)を数層の超薄膜とし、これらとナノメートルのサイズの可視光にも吸収をもつ金ナノ粒子と
三成分からなる複合体を合成。この複合体の黒リンが可視光・近赤外光に応答する光増感剤として
働き、また、金ナノ粒子が可視光に応答する光増感剤として働き、励起電子がチタン酸ランタンに移
動し、プロトンの還元により水から効率よく水素生成する。
新しく開発した黒リン、金ナノ粒子、チ
タン酸ランタンの複合体を光触媒として使用することで、太陽光からの広帯域波長光を利用し、水か
らの水素製造が実現する。

複雑な化合物ですが、耐久性・量産性を判断するにはもう少し要注目。

 May 29, 2017

※ 黒リン:リンには、白リン(黄リン)・赤リン・紫リン・黒リンなどの同素体が存在する。黒リ
  ンは層状構造で、紫外、可視、近赤外光領域に幅広い吸収をもつ。

※  Au/La2Ti2O7 Nanostructures Sensitized with Black Phosphorus for Plasmon-Enhanced, First published: 12
    January 2017,  DOI:10.1002/anie .201612315.



【南極が溶ける】

 ● 離脱目前の南極の巨大氷床

6月1日、南極の棚氷(あるいは氷棚)の崩壊により、ここ1、2日のうちに最大級の氷山を作り出
すだろうと科学者たちは話す。5月の最後の6日間で、氷の淵から13キロに位置するラーセンC棚
氷の裂け目は17キロメートルに広がり、最近までの裂溝は棚氷の淵に平行に走っていたが裂け目の
方向性が変化。裂け目先端部は氷の表面に向かって大きく変化していことから、ここ1、2日後に氷
山が誕生するだろうが、それを防ぐ手だてはない。さらに、裂け目の方向転換と氷山の大きさから棚
氷全体が崩壊する可能性もあるとし、この氷山の分裂は、劇的で先駆的な現象であると懸念する。

が崩壊すると、氷河からの氷が、海面まで急速に流れだし海面上昇させる。
これは、氷のラーセ
ンCに隣接する棚氷であるラーセンBが、2002年に棚氷から離氷し、数百万個に粉砕した事例から推
測されるとのこと。この氷山の大きさは米国デラウェア州に匹敵する約5千平方キロメートルで、こ
れまでに記録された最大の氷山となる(CNN 2017.06.01)。

 June 1, 2017

ラーセンCが裂け氷山をつくるとその面積の10%以上を失うことになり、南極半島の景観を根本的
に変化し、
その結果、氷河は加速し速く流れ、棚氷の崩壊がますます大きくなる。これらの要因は、
亀裂の発達を加速し氷山形成で失われた氷の再成長を低下させる。
大きな棚氷を不安定化させないた
めにも二酸化炭素排出削減する必要があり、何百万人も何百万人もの人々に影響を及ぼす潜在的な海
面変動が起こると科学者らは指摘する。



 About Project MIDAS 

 

    

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編   

   34.そういえば最近、空気圧を測ったことがなかった

  居間に入ると、秋川章子とまりえは二人でソファに腰掛けて私たちを待っていた。我々が入っ
 ていくと、二人は礼儀正しくソファから立ち上がった。私は披女たちに簡単に免色を紹介した。
 ごく当たり前の日常的な人の営みとして。
 「免色さんにも絵のモデルになってもらったことかあります。肖像画を描かせていただきました。
 たまたまご近所に往んでおられたので、以来おつきあいがあります」 
 「向かい側の山の上にお往まいとうかがっていますが」と秋川里子が尋ねた。
  家の話が出ると、免色の顔は目に見えて蒼白になった。「ええ、何年か前から往んでいます。
 何年になるかな。えーと、三年でしたっけ。それとも四年になるかな?」

  彼は問いかけるように私の顔を見たが、私は何も言わなかった。
 「ここからお宅が見えるのですか?」と秋川笙子が尋ねた。
 「ええ、見えます」と免色は言った。それからすぐに言い添えた。「でもそんな大した家じやあ
 りません。山の上のひどく便の悪いところですし」
 「不便なことにかけてはうちだって同じようなものです」と秋川里子は愛想良く言った。「買い
 物ひとつにしたって一仕事ですから。携帯電話の電波も、ラジオの放送もうまく入りません。そ
 れになにしろ急な坂なので、雪が積もるとつるつる滑って、怖くて車を出すこともできません。
 まあそれほど雪が積もったことって、ありかたいことに五年くらい前にコ伎あっただけですが」
 「ええ、このあたりはほとんど雪は降りませんから」と免色が言った。「海からの暖かい風のお
 かげです。海の力というのは大きいんです。つまり――」



 「いずれにせよ、冬場に雪が積もらないのはありかたいですね」と私は口をはさんだ。放ってお
 いたら太平洋の暖流の仕組みまでいちいち説明しかねないような、切羽詰まった雰囲気が免色に
 はうかがえたからだ。
  秋川まりえは叔母の顔と免色の顔を交互に見比べていた。免色に対してはとくにこれという定
 まった感想は抱いていないようだった。免色はまりえの方にはまったく目をやらず、じっと叔母
 の顔ばかり見ていた。まるで彼女の顔だちに、個人的に心を激しく惹きつけられたみたいに。

  私は免色に言った。「実は今、こちらのまりえさんの絵を描かせてもらっているんです。モデ
 ルになってもらいたいとお願いして」
 「それで私が毎週、日曜日の朝に車でここまで送ってきているんです」と秋川里子が言った。
 「距離からすれば、うちからすぐ日と鼻の先なんですが、道路の関係でかなり回り道をしないと
 ここまで米られないものですから」

  免色はようやく秋川まりえの願を正面から見た。しかしその両目は、彼女の願の周辺のどこか
 に定着できる場所を見いだそうと、落ち着きのない冬の蝿のようにせわしなく動き回っていた
 しかしそんな場所はとこにも見つけられないようだった。
  私は助け船を出すように、スケッチブックを持ち出して彼に見せた。「これがこれまでに描い
 た彼女のデッサンです。まだデッサンを終えたばかりの段階で、本当の絵には取りかかっていな
 いんですが」

  免色は長いあいだ、食い入るようにその三枚のデッサンを見つめていた。まりえ白身を見るよ
 りは、彼女を描いたデッサンを見ることの方が、彼にとってはずっと意味深いことであるみたい
 に。しかしもちろんそんなはずはない。彼はまりえを正面から注視することができないだけなの
 だ。デッサンはあくまでその代替物に過ぎない。実物のまりえのすぐ近くに寄ったのはこれが初
 めてなので、気持ちの整理がまだうまくつかないのだろう。秋川まりえは免色のそんなとりとめ
 のない顔の動きを、まるで珍しい動物でも観察するみたいに眺めていた。

 「素晴らしい」と免色は言った。そして秋川笙子の方を見て言った。「どのデッサンもすごく生
 き生きとしている。雰囲気がよく捉えられている」 
 「ええ、私もそう思います」と叔母はにこやかに言った。
 「でも、まりえさんはずいぶんむずかしいモデルです」と私は免色に言った。「絵にするのが簡
 単じゃない。顔つきが刻々変化していくので、その中心にあるものを把握するのに時間がかかり
 ます。だからまだ実際の絵に取りかかることができずにいます」
 「むずかしい?」と免色が言った。目を細め、眩しいものでも見るみたいにあらためてまりえの
 顔を見た。
  私は言った。「その三枚のデッサンは、それぞれずいぶん表情が違っているはずです。そして
 ちょっとした表情の変化で、全休の雰囲気ががらりと違ってきます。一枚の絵に定めて彼女を描
 くには表面的な変化ではなく、その中心に存在するものをつかまえなくてはなりません。それが
 できないと、全休のほんの一面しか表現できなくなってしまいます」
 「なるほど」と免色は感心したように言った。そしてその三枚のデッサンと、まりえの顔を彼は
  何度も見比べていた。そうするうちに、それまで蒼白だった彼の顔に徐々に赤みが差してきた
 その赤みは最初は小さな点のようだったが、それがピンポン球くらいの大きさになり、野球のボ
 ールくらいの大きさになり、やがては顔全体に広がっていった。まりえはその顔色の変化を興味
 深そうに眺めていた。秋川笙子は失礼にならないように、その変化からうまく目を逸らせていた。
  私は手を伸ばしてポットを取り、自分のカップにコーヒーのおかおりを往いだ。

 「来週からは、本格的に絵に取りかかるうと思っています。つまり絵の具を使って、キャンバス
 の上にということですが」、私は沈黙を埋めるためにそう言った。とくに誰に向かって言うとも
 なく。 「もう構想はできあがっているのですか?」と叔母が尋ねた。
  私は首を振った。「まだ構想はできていません。実際のキャンバスを前にして実際の絵筆を持
 たないと、具体的なことは何ひとつ順に浮かんでこないんです」
 「免色さんの肖像画をお描きになったんですね」と秋川笙子は私に尋ねた。
 「ええ、先月のことですが」と私は言った。
 「素晴らしい肖像画です」と免色は勢いを込めて言った。「しばらく絵の具を乾かす必要がある
 ので、まだ順装していませんが、うちの書斎の壁に飾ってあります。でも〈肖像画〉というのは
 正しい表現ではないかもしれない。そこに描かれているのは、私でありながら私ではないからで
 す。うまく言えませんが、とても深い絵です。見ていて見飽きることかありません」
 「あなたでありながら、あなたではない?」と秋川笙子は尋ねた。
 「つまりいわゆる肖像画ではなく、もう一段奥深いところで描かれた絵画なのです」
 「それを見てみたい」とまりえが言った。それは居間に移ってから彼女が口にした最初の言葉だ
 った。
 「でもまりちゃん、失礼ですよ。よそのお宅にそんなに――」
 「そんなことはちっともかまいません」、叔母の発言の語尾を鋭いなたできっぱりと断ち切るよ
 うに免色が口を挟んだ。その語気の鋭さに全員が(免色自身をも含めて) 一瞬息を呑んだ。
  彼は一息置いて続けた。「せっかくご近所にお往まいなのですし、是非うちに絵を見にいらし
 てください。私はひとり暮らしをしていますから、気兼ねはいりません。お二人ともいつでも歓
 迎しますよ」
  そう口にしてしまってから、免色の顔がいっそう赤くなった。おそらく自分自身の発言の中に
 過度に切迫した響きを聴き取ったのだろう。
 「まりえさんは絵が好きなんですか?」と彼は今度はまりえの方を向いて尋ねた。声のトーンは
 もう普通に戻っていた。

  まりえは黙って小さく肯いた。

  免色が言った。「もし差し支えなければ来週の日曜日、今日と同じくらいの時刻にここにお迎
 えにあがります。それからうちにいらして、絵をご覧になりませんか?」
 「でもそんなご迷惑をおかけしては――と秋川笙子が言った。
 「でもわたしはその絵が見たい」、今度はまりえが有無を言わせぬ声できっぱりと言った。


                                     この項つづく



パリ協定離脱!馬脚を現すトランプというか、はじめからわかっていたけれど、トランプ政権はどう
みても中間選挙までもたない。ところで、この語源は、馬の脚役を演じる役者が芝居中にうっかリ姿
を現すことから、隠してあいたことが明らかになることを言うようになった。隠しておいたことが表
に出てしまったことをいう言葉なので、悪事が明らかになるといった悪い意味で用いる。中国元代の
古典劇『元曲陳州躍米、第三折』によると、「露出馬脚来」(マーチャ才ライ)」といわれるらしい。
「露になる(あらわになる)」ことが原義なので、「あらわす」の漢字は「露わす」と表記されるが、「あら
わす」の漢字は「表す」「現す」「著す」「顕す」しか用いられないため、使い分けの用法から「馬脚を現す」
とも表記される。ということらしい――なるほど。アマーチャ才ライは自分への戒めと心得る。

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