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ぽかぽか春庭「真珠の耳飾りの少女」

2012-09-11 00:00:01 | エッセイ、コラム
2012/09/11
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>十二単日記2012夏(7)真珠の耳飾りの少女

 7月に東京都美術館へ行って、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を見たのですが、とても混んでいる日だったので、8月にもう一度見ようと思っていました。8月の最後、30日の夕方を狙いました。6時に入館が締め切られて、6:30に閉館するまでの30分が狙い目です。
 午後3時半ころ上野に着いて、まず、東京都美術館の地下1階ロビーをのぞくと、マウリッツハイス展の前はこの前と同じく長い列。やはり夕方まで待つことにしました。

 5時まで、こども図書館で休憩。「日本の子どもの文学」展をひとまわり見てから、1階のカフェでコーヒータイム。いつもはゆったり眺めていられる庭ですが、今は、シートで目隠しされて埋蔵文化財発掘調査が行われています。東京、大森の貝塚から明治大正の屋敷跡まで、長い歴史がある土地ですから、どこでも掘ればいろんな時代の遺跡遺物が出てくる。こども図書館裏庭では、18世紀、江戸の屋敷跡の発掘をして、調査記録が完成したらその後に図書館新館が建設されるのだそうです。

 5時に子ども図書館が閉館になったので、東京都美術館へ。
 まず、「真珠の耳飾りの少女」の2列目鑑賞の人山の中に入り、人の山の中をゆっくりと前へ進み2列目に出ました。1ヶ月ぶりに少女と対面。それから、各展示室の静物画や肖像画を見て、6時になったころあいで、入り口に戻って、もうあとは人が入ってこない状態でゆっくり見て回りました。

 閉館15分くらい前になると、「真珠の耳飾りの少女」の1列目鑑賞の列も10人くらいの人が並んでいるだけ。1列目は立ち止まっての鑑賞はできないのですが、何度もぐるぐる列について、光のあたり具合が異なるので2列目と1列目では、印象が違うのを確認しながら、しばし少女との対話を楽しみました。

 展覧会場外の看板をケータイで撮影したので、少女がちょっと陰鬱な感じに写りました。


 「あ~あ、こんなにたくさんの人に見つめられて疲れちゃったわ。私のフェルメール家メイド稼業のお給料って、一ヶ月たったの1ギルダーだったのよ。いいかげん、見物料をあたいに直接払って欲しいわ」と、言っていそうな顔に写ってしまいました。

 この少女の名は知られておらず、おそらくはフェルメール家のメイドだった少女をモデルにしたトローニーだったろうと言われています。トローニーとは、フランス語の「頭部」の意味のトローンtorogneに由来する、絵画用語です。肖像画なとの注文絵画とは異なる、無名の人の顔を描いた絵や画家が想像で描いた顔の絵をトローニーというそうです。
 こんなにも人々に見つめられるのは、ルーブルのモナリザかこの少女か、というわけで、少女は「オランダのモナリザ」とも呼ばれているそうです。
 
 3センチほどもあるという大きな真珠の耳飾りは、もしかしたらガラス玉を白く仕上げた、この当時流行っていた「ニセ真珠」の可能性もあります。あるいは、もし本物の真珠だったとしたら、資産家だったというフェルメール夫人の持ち物を、フェルメールがこっそり少女につけさせたのかも知れません。スカーレット・ヨハンソンが少女を演じた映画では、そんなような設定でした。

 ターバンの青い色は、高価な貴石だったラピスラズリを粉にしたウルトラマリンという絵の具で出しています。フェルメールは、この青い色にこだわるあまり、財産を失ったとも言われており、画家の魂を吹き込んだ色に思えます。

 1665年頃に完成されたと見られるこの絵が、1881年のオークションでは、たった2ギルダー30セント(現在の日本円にすると約1万円)だったというのですから、ああ、その時買いたかった。
 タハッ、どうしてもそういう話題になってしまう、俗的鑑賞の悲しさよ。(もし、マウリッツハイス美術館が、今、オークションなどで売りに出したら、100~150億円になるだろうと言われています)。

 少女がモデルとしてフェルメールの前に立ったとき、まさか350年ものちに、人々が長蛇の列を作って自分の顔を見たがり、じっと自分の瞳に見入る人がひきもきらぬようになるとは、思いもよらかなったでしょう。
 ご主人に命じられたから、すなおにモデルになった?それとも、映画の中の少女のように、ご主人様と芸術的な感性を共有できる、ミューズとしてご主人の心をつかんでいることを承知している瞳なのか。

 Greit(グリート、グリエット、それともオランダ語読みではフリート?)は、作家の創造だとしても、フェルメールが描き出したこの顔は、永遠の謎を含みながら人々を見つめています。

<つづく>
コメント (4)
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