
ようこそ羊さま
20150106
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>ひつじの文化史(3)羊映画「ようこそ羊さま」
「羊」をタイトルにした文学で思い浮かぶのは村上春樹「羊をめぐる冒険」です。映画となると『羊たちの沈黙』が一番有名だと思いますが、新年そうそうの羊の話題としてはもう少し明るい方向にしたいので、劇場未公開ですが、中国映画『ようこそ羊さま 好大一対羊』をご紹介。
「ようこそ羊さま」も、決して明るいだけの話ではありません。10年前の中国の地方格差が、収まるどころか、今もなお格差は拡大する一方なのですから、暗くとらえればどこまでも暗鬱なお話になってしまうようなストーリーなのです。しかし、それをユーモアに包んで、中国農民の不器用で実直な姿を描き出しているところを手柄として紹介したいのです。
原作:夏天敏(シャア・ティエンミン)
監督:劉浩(リュウ・ハオ)
出演:孫雲昆(スン・ユンクン)雲南省の老農民ターシャン
蒋志昆(ジアン・ジィクン)ターシャンの妻
中国の最南部雲南省。電気も水道もなく、村人の移動手段はスクーターを一台持つ男のほかは、みな徒歩。市場に行くにも、獣医のもとへ行くにも、村長のところに、郷長が来なすった、という連絡に行くのも、ひたすら自分の足で。
村人達が耕す大地には、冬場ということもあるのだろうが、木一本たっておらず、草一本生えていない。茶色の乾いた荒野が広がっている。
老いた農夫ターシャンは、それでも毎日土をかき立てる。ある日、県の副長の命を受けた郷長が村長のところにやってくる。県の出世頭である中央にいる偉い学者先生から村へのプレゼントを持って。
学者先生、中国のとは異なる種類の羊を西欧から輸入して、これをふるさとに贈った。中国原産の羊より上等の羊毛がとれるから、飼育に成功すれば、貧しい村の新産業にできる、というお達し。
飼育を任されたのは、村でも最も貧しいターシャン夫婦。「一番貧しいものが一番エラい」という共産党の教条が雲南省の奥地にも行き渡ったころ。
夫婦はなれない羊の飼育に大わらわ。寒さに弱いつがいの羊のために、家の中に小屋を作り、寒ければ自分たちの上着を羊に掛けてやる。
それなのに餌が合わないのか羊はやせていき、ターシャンは獣医に聞いたり遠くの山まで草を取りに行ったり必死に世話をする。
西洋羊のつがいに子どもが生まれれば、やがて村の産業になると言われたけれど、つがいは子を産む気もなく、周囲をはらはらさせる。ようやく雌が子を持ったかと思ったのに、産まれない。やがて繁殖失敗のため、ターシャン夫婦は羊を取り上げられてしまう。
ターシャンは、一大決心をして、羊を取り戻そうとするのだが、、、、

荒涼とした雲南省の景色が印象的です。私はいままで雲南省は、緑豊かな土地と思ってきたので、どこまでも乾燥した茶色の大地が広がるようすに驚きました。雲南省は広大な地域ですから、このような草一本ない土地もあるでしょうし、雨が降らない地域もあることでしょう。
ターシャン夫婦は、託された羊の世話を誠実に賢明に行います。その努力は少しも実を結ばず、みなが県のエライさんの顔色をうかがうばかり。
中国農村の貧しさと矛盾がユーモアの中に描かれていて、悲惨な感じはしないつくりですが、上からの命令を下に下ろすだけで、自分たちでは判断できない幹部農民も、責任を負うことを回避しようとする役人や、2005年の中国の現実はよくわかるが、さて、映画発表から10年たって、農村の現実は改善されていないのではないでしょうか。役人は相変わらず上目遣いの一方で、農民は相変わらず貧しいでしょう。
2005年から10年後、沿岸部の工業地帯と、内陸部の農村の経済格差はますます拡大していると思います。
私が中国で暮らしたのは、1994年、2007年、2009年のそれぞれ半年ずつにすぎないし、中国南部には行っていないから、雲南省については、昆明出身や大理出身の学生の話を聞いたほかは、ニュースなどで間接的に知っただけです。
中国と日本の間がぎくしゃくしているときこそ、私は、こういう中国映画を見て、中国の一般の人々の暮らしを、日本の人に知ってもらいたいと思います。中国に親しみを感じないという人が。83%で過去最高になった、という内閣府の調査が2014年末に出ました。
漢字や漢文学など、古代中国から受けた大きな文化的恩恵はもちろんですが、現代中国の素朴な一般の人々にも親しみを重ねてきた私にとって、83%の人が中国に親しみを感じないという状況は残念なことです。
羊年がどんな年になるのかわかりません。
政府首脳は、宗主国(?)のいいなりになって属国扱いされて喜んでいるのでしょうが、そういう政府に白紙委任した人ばかりではないと思いたい。周辺国とも友好な関係を築くことが平和で安定した国を作ると思っています。
羊年。大人しい群れが、寄らば大樹を求めて右往左往する年になるのかどうか。
<つづく>