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ぽかぽか春庭「羊の文化史日本編sheeple」

2015-01-04 00:00:01 | エッセイ、コラム
20150104
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>ひつじの文化史(2)日本編sheeple

 野生のヒツジは、群れの中ですごす。いつも群れの中にいることを好み、群れから引き離されると強いストレスを受ける。また、先導者に従う傾向がとても強い。そのため、人類文化の中でもっとも早くから家畜化され、人類の歴史とともに、歩んできた動物のひとつです。羊毛、肉、ミルクなどが有効に利用されてきました。

 しかし、日本では、縄文遺跡の貝塚などから、鹿、ウサギ、イノシシなどさまざまな骨が出土するのに対して、羊の骨は出土せず、飼育されたという記録もありません。
 599年に、百済から推古天皇に朝貢物として、駱駝、驢馬各1頭、白雉1羽、羊2頭が献上されました。平安時代にも、820年には、新羅から嵯峨天皇へ鵞鳥2羽、山羊1頭、黒羊2頭白羊4頭が献上されました。903年には、醍醐天皇へ、唐人が羊と鵞鳥を献上。

 このように、日本に来た羊は「珍獣」扱いであり、その後、家畜として飼育された記録がありません。寒い日本の冬にウールの衣類は役だったことでしょうに、だれも羊の毛を紡いでセーターを作ろうと思わなかったようです。ウール製品は、中国や南蛮貿易などで、「羅紗」として高値で輸入され、大金持ちの衣類となったのみ。どうして、羊は飼われなかったのでしょうか。

 十二支に登場する動物のなかで、龍は想像上の動物だからしかたがないとして、羊は7番目に登場する動物であるのに、推古天皇から千年以上も、だれもこの動物を飼ってみようとしなかったのは、不思議。
 これは、馬の飼育にあたって、なぜ去勢が行われなかったのか、とともに、古代の家畜史における私の疑問のひとつです。

 江戸時代になると、羊の飼育が試みられました。渋江長伯が羊飼育を試みた巣鴨薬園は、綿羊屋敷と呼ばれたそうです。
 「渋江長伯(しぶえちょうはく)1760-1830)
 渋江長伯は、江戸時代中期-後期の医師,本草家。1793(寛政5)年幕府の奥詰医師となる。,巣鴨(すがも)薬園総督をかね、巣鴨薬園で羊を飼育し羅紗(ラシヤ)を試作した。文政13年71歳で死去


 家畜として日本に定着しなかった羊なので、詩歌にも登場することがなく、「羊をめぐる文学」は、明治以後に綿羊飼育が始まるまで、見当たりません。

 「羊」が出てくるような本、なにか読んだかなあ、、、、とタイトルを思い浮かべて、思いついたのは、加藤周一『羊の歌』(岩波新書)1968年初版のこの本を、1970年から1975年の間に読んだと思うのですが、1977年までは、読んだ本のメモをとらなかったので、読んだ年がわかりません。私がこの本に興味を持ったのは、筆者が父親と同じ「羊年」の生まれだったからです。1919年。本のタイトルはこの「未年生まれ」によって名付けられていますが、羊はまったく出てきません。

 羊が重要なアイテムである文学と言えば、真っ先に村上春樹の『羊をめぐる冒険』が頭に浮かびます。続編『ダンスダンスダンス』と両方に、主人公「僕」の友人「羊男」が登場します。
 スピンオフとして「羊男のクリスマス」なんていう本も出ました。

 女優の吉田羊(本名は羊右子(ようこ)さんも好き。日本語関連の良書を出版しているひつじ書房も好き。ってことで、自分ではかなりの「羊好き」だと思っています。

 ただし。ブログ友のすみともさんに新しい造語を教わりました。
 羊(sheep)と人々(people)を組み合わせて作られた混成語、sheeple。10年ほど前には登場した語らしいですが、ネットなどで盛んに使われるようになったのは、ここ2,3年のことらしい。
 シープルの反意語は「free-thinkers自由に考える人」すなわち、シープルとは、自分自身の頭で自由に考えることをせず、強者に従うのみの人のこと。
 な~んだ、それなら、この国には、昔々からおおぜいいました。1930~1945の15年戦争のあいだ、人々は人であることをやめ、思考停止のsheepleになっていました。

 そしてまた、今も。
 ふるさとを失ったり家族と離ればなれに暮らさざるを得ない人がいるとしても、一部の人が犠牲になるとしても、自分自身は電気を使いたいだけ使う人でありたいというsheel;e.
 格差が広がる一方であるとしても、自分の子孫は格差の上になれば、格差なんぞあってもかまわない、と、せっせと孫子に教育資金だの子育て資金だのを無税で残してやろうとするsheeple.

 私は、自分で考え続ける人でありたい。羊年のことしも。

<つづく>
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