20190324
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>2019十九文屋日記氷の上にも春が来た(1)春の脳活
物見遊山として美術館めぐりをして、気楽に絵を眺めているのが大好きな春庭。
「今日もいい絵を見たなあ。眼福眼福」と思ってすごすだけですから、見たことが我が脳の栄養になっているやらいないやら。
どうせ、もともとのおつむがおつむですから、あまりお勉強を詰め込んでも、どのみち浅い皿には多くは盛られない。でもいいんです。その時その時に、ああ、楽しかった、いい時間を過ごせたと思うことが心のビタミン剤。
とはいえ、こころざしだけは「脳カツ、脳活。ボケ防止」と思っていますから、ときには本格的にお勉強にいそしみます。冬の風に凍り付いていた脳を溶かすべく、脳カツに出かけました。
3月8日金曜日は、出身校に出向き「留学生のためのアカデミックジャパニーズ動画で学ぶ大学の講義」という研究会に出席しました。大学の講義を動画で留学生に見せ、聴解力を養成する、という教材の発表会です。
日本語を学んで、いざ日本へやってくる留学生たち。日本語教室では優秀だったはずなのに、大学の先生の言うことがぜんぜんわからない、という例がひきもきらず。
日本語教室の先生たちは、留学生のレベルに合わせて、ビギナーズトーク、ティーチャートークという話し方を心得ています。現在この学生たちは、どの単語を習得済み、どの文法どの文型は知っているか、まだ習っていない文法文型は何か、ということを先生たちは熟知している。ベテランの先生は、学生にわからないことばを使わずに話します。初級学生には初級で習う言葉や文型、中級の学生には中級レベルの話し方。日本語教室で先生とうまく会話ができている学生は、自分の日本語会話が十分であると錯覚する学生もでてきます。
しかし、大学の先生が講義するとき、日本人学生と留学生が混じっている教室で、留学生に配慮して講義するわけではありません。専門用語はそのまま使うし、ときには略語、カタカナ語、、、、留学生にとっては、苦手なものばかり。
留学生は「大学では学生も教授も、教科書でならった日本語と違う日本語を話します」と、頭を抱えることになる。「違う日本語」ではありません。同じ日本語なのですが、配慮のない日本語なのです。
教室でクラスメートの日本人学生に「ネーネー、次のガイロンさあ、つまんねーからばっくれてスタバいこうぜ」と話しかけられても返事ができない。
スタバはスターバックスコーヒーの略語だということは留学生もおいおいわかってきます。 が、サボるがようやく辞書に載って日本語語彙に入れてもらえたのに、「ばっくれる」は、日本語の地位を獲得しないうちにすたれてしまい、すでにおおかたのキャンパスでは死語になっています。学生用語の変転はきわめて激しい。
その点、先生方の講義用語は、専門語彙表を配布してある程度学ばせればどうにかなるレベルの日本語です。が、専門の講義、近頃の日本人学生は、懇切丁寧にパワーポイント資料を配布してわからせてやらないと、自分から学ぶ気がない、というのが最近の傾向だそうです。
「動画で学ぶ大学の講義」は、専門の先生が大学レベルの講義をしているシーンを15分くらいの長さにおさめ、先生が授業中に使用するパワーポイント資料もつけ、用語の解説やききとりのための練習問題などがついている、という動画教材です。
研究会では、第1部で教材開発者の先生の開発苦労話と各課の紹介。これまで聴解教材の開発を担当してきた先生、今年度でご退職なので、いわば退職前の集大成の仕事でしたから、開発に時間も人手もかかったご苦労について、どれほどたいへんだったか、実感がこもっていました。
第2部はワークショップ。第1課の日本文学講義「枕草子」をサンプル視聴し、「我が校はこの教材をこう使う」というアイデアの話し合いでした。留学生の大学初年度日本語教育を担当している先生が多く集まった会で、4人一組になった私のグループも地方の大学の1年次日本語担当の先生が「大学の先生の講義がわかるようになるまでは一苦労です」と話しておられました。
3月16日は、また別のおべんきょう。「アグリセラピー・セミナー」というタイトルで、セミナーの内容は、「環境や持続可能性に配慮したまちづくり」というセミナーです。
中国や日本での街づくりの実例や、環境問題などがテーマに出ていました。
セミナー主宰者兼司会者の教授の前回のテーマは「アグリセラピー(農業療法)への誘い」というもので、農業をして土にふれ、作物が育つようすを見ることが、心のためにとても役にたつ、というセラピーをカウンセリングと並行して行うと心のケアに効果がある、という研究をなさっています。また、環境に配慮した持続可能な農業のあり方を模索する研究です。
今回の発表者のうち高橋さんは、「まちづくり設計テント」という会社の代表者で、一級建築士・工学博士。これまで、さまざまなまちづくりに携わってきた気鋭の女性設計事務所社長です。
現在は生まれ故郷の喜多方市を中心に「持続可能なまちづくり」を実践、考察しています。
高橋さんがこれまでにかかわった街づくりについて、パワーポイントで実例を示してくれました。空き家がどんどん増えてきた富山県の散開村。空き家を若い人に貸し出すことでリノベーションしていく過程を見せてくれました。同じく、シャッター街となっていた地方都市で、町の魅力を発見し若者を呼び込むことに成功してリノベーとした街の実例。こちらは街づくりコンクールで2等賞となった、ということです。
これらの実績を積んで、高橋さんは生まれ故郷の喜多方市で街づくりを実践しています。私が一番興味をひかれたのは、「漢字の町喜多方」というプロジェクト。
喜多方といえばラーメンしか知りませんでした。
高橋さんのご尊父は「楽篆家」という名乗りで篆刻工房を続けていらした方。父上亡きあと、篆刻作品をすべてデータベース化し、店の名前やキャッチフレーズを篆刻にして街にだすことで、「漢字の町喜多方」を売り出しました。外国人の名前を漢字化して篆刻にしてやったり、喜多方市内の220以上の店舗に「篆刻(古代文字)」の看板を掲げて、街を探索するオリエンテーションを実施したり。
https://www.rakuten-kobo.jp/kitakata/
王義之展や顔真卿展で、象形文字、甲骨や金文の拓本をたくさん見たところでしたから、篆刻による町おこしはとても刺激的でした。
許氏による深圳のイノベーションの紹介、白石氏による「日中関係史の展望と課題」というお話も興味深かったです。
また、司会の中川教授が手掛けている「太陽光パネルによる発電と農業」という実験も、これからのエネルギーと農業を考えるうえで参考になりました。
パネル設置による太陽光発電を行うとき、従来多かったやり方だと、山の斜面の木を切り倒して斜面にパネルを並べる。これでは緑の木々を失うことになる。
中川教授のグループは、遊休地となった元農地を一か所に集め、パネルを設置しました。パネルの下には、日陰を好んで成長する薬用の朝鮮人参やドクダミを栽培して、太陽エネルギー生産と農業生産を循環よく実行して、土地活用を果たしている、というお話でした。
人口減少によって、地方の農業の担い手が減っていることを嘆いてばかりいても、先に進まない。でも、環境を破壊することなく、農業とエネルギー生産を同時に行う試みに、感心しました。
そのほか、国際弁護士として活躍するネパール人(少数民族ネワール族)の方とお話しできたり、ネパールに少数民族が母語で学ぶ学校を建てる話など、興味尽きない発表を聞くことができました。
世の中で活躍するさまざまな分野の方のお話をうかがうと、日ごろチマチマと目先のことで動いている自分自身の生活範囲が、地球規模に広がった気がしてきました。
う~ん、ぼけている暇はない。しかし、昼寝はしたい。
冬眠も春眠も暁を覚えないHALですが、よい講義を眠らずにちゃんと聞いて、帰りの電車ではしっかり睡眠をとりました。
近所に咲くミツマタの花
<つづく>
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>2019十九文屋日記氷の上にも春が来た(1)春の脳活
物見遊山として美術館めぐりをして、気楽に絵を眺めているのが大好きな春庭。
「今日もいい絵を見たなあ。眼福眼福」と思ってすごすだけですから、見たことが我が脳の栄養になっているやらいないやら。
どうせ、もともとのおつむがおつむですから、あまりお勉強を詰め込んでも、どのみち浅い皿には多くは盛られない。でもいいんです。その時その時に、ああ、楽しかった、いい時間を過ごせたと思うことが心のビタミン剤。
とはいえ、こころざしだけは「脳カツ、脳活。ボケ防止」と思っていますから、ときには本格的にお勉強にいそしみます。冬の風に凍り付いていた脳を溶かすべく、脳カツに出かけました。
3月8日金曜日は、出身校に出向き「留学生のためのアカデミックジャパニーズ動画で学ぶ大学の講義」という研究会に出席しました。大学の講義を動画で留学生に見せ、聴解力を養成する、という教材の発表会です。
日本語を学んで、いざ日本へやってくる留学生たち。日本語教室では優秀だったはずなのに、大学の先生の言うことがぜんぜんわからない、という例がひきもきらず。
日本語教室の先生たちは、留学生のレベルに合わせて、ビギナーズトーク、ティーチャートークという話し方を心得ています。現在この学生たちは、どの単語を習得済み、どの文法どの文型は知っているか、まだ習っていない文法文型は何か、ということを先生たちは熟知している。ベテランの先生は、学生にわからないことばを使わずに話します。初級学生には初級で習う言葉や文型、中級の学生には中級レベルの話し方。日本語教室で先生とうまく会話ができている学生は、自分の日本語会話が十分であると錯覚する学生もでてきます。
しかし、大学の先生が講義するとき、日本人学生と留学生が混じっている教室で、留学生に配慮して講義するわけではありません。専門用語はそのまま使うし、ときには略語、カタカナ語、、、、留学生にとっては、苦手なものばかり。
留学生は「大学では学生も教授も、教科書でならった日本語と違う日本語を話します」と、頭を抱えることになる。「違う日本語」ではありません。同じ日本語なのですが、配慮のない日本語なのです。
教室でクラスメートの日本人学生に「ネーネー、次のガイロンさあ、つまんねーからばっくれてスタバいこうぜ」と話しかけられても返事ができない。
スタバはスターバックスコーヒーの略語だということは留学生もおいおいわかってきます。 が、サボるがようやく辞書に載って日本語語彙に入れてもらえたのに、「ばっくれる」は、日本語の地位を獲得しないうちにすたれてしまい、すでにおおかたのキャンパスでは死語になっています。学生用語の変転はきわめて激しい。
その点、先生方の講義用語は、専門語彙表を配布してある程度学ばせればどうにかなるレベルの日本語です。が、専門の講義、近頃の日本人学生は、懇切丁寧にパワーポイント資料を配布してわからせてやらないと、自分から学ぶ気がない、というのが最近の傾向だそうです。
「動画で学ぶ大学の講義」は、専門の先生が大学レベルの講義をしているシーンを15分くらいの長さにおさめ、先生が授業中に使用するパワーポイント資料もつけ、用語の解説やききとりのための練習問題などがついている、という動画教材です。
研究会では、第1部で教材開発者の先生の開発苦労話と各課の紹介。これまで聴解教材の開発を担当してきた先生、今年度でご退職なので、いわば退職前の集大成の仕事でしたから、開発に時間も人手もかかったご苦労について、どれほどたいへんだったか、実感がこもっていました。
第2部はワークショップ。第1課の日本文学講義「枕草子」をサンプル視聴し、「我が校はこの教材をこう使う」というアイデアの話し合いでした。留学生の大学初年度日本語教育を担当している先生が多く集まった会で、4人一組になった私のグループも地方の大学の1年次日本語担当の先生が「大学の先生の講義がわかるようになるまでは一苦労です」と話しておられました。
3月16日は、また別のおべんきょう。「アグリセラピー・セミナー」というタイトルで、セミナーの内容は、「環境や持続可能性に配慮したまちづくり」というセミナーです。
中国や日本での街づくりの実例や、環境問題などがテーマに出ていました。
セミナー主宰者兼司会者の教授の前回のテーマは「アグリセラピー(農業療法)への誘い」というもので、農業をして土にふれ、作物が育つようすを見ることが、心のためにとても役にたつ、というセラピーをカウンセリングと並行して行うと心のケアに効果がある、という研究をなさっています。また、環境に配慮した持続可能な農業のあり方を模索する研究です。
今回の発表者のうち高橋さんは、「まちづくり設計テント」という会社の代表者で、一級建築士・工学博士。これまで、さまざまなまちづくりに携わってきた気鋭の女性設計事務所社長です。
現在は生まれ故郷の喜多方市を中心に「持続可能なまちづくり」を実践、考察しています。
高橋さんがこれまでにかかわった街づくりについて、パワーポイントで実例を示してくれました。空き家がどんどん増えてきた富山県の散開村。空き家を若い人に貸し出すことでリノベーションしていく過程を見せてくれました。同じく、シャッター街となっていた地方都市で、町の魅力を発見し若者を呼び込むことに成功してリノベーとした街の実例。こちらは街づくりコンクールで2等賞となった、ということです。
これらの実績を積んで、高橋さんは生まれ故郷の喜多方市で街づくりを実践しています。私が一番興味をひかれたのは、「漢字の町喜多方」というプロジェクト。
喜多方といえばラーメンしか知りませんでした。
高橋さんのご尊父は「楽篆家」という名乗りで篆刻工房を続けていらした方。父上亡きあと、篆刻作品をすべてデータベース化し、店の名前やキャッチフレーズを篆刻にして街にだすことで、「漢字の町喜多方」を売り出しました。外国人の名前を漢字化して篆刻にしてやったり、喜多方市内の220以上の店舗に「篆刻(古代文字)」の看板を掲げて、街を探索するオリエンテーションを実施したり。
https://www.rakuten-kobo.jp/kitakata/
王義之展や顔真卿展で、象形文字、甲骨や金文の拓本をたくさん見たところでしたから、篆刻による町おこしはとても刺激的でした。
許氏による深圳のイノベーションの紹介、白石氏による「日中関係史の展望と課題」というお話も興味深かったです。
また、司会の中川教授が手掛けている「太陽光パネルによる発電と農業」という実験も、これからのエネルギーと農業を考えるうえで参考になりました。
パネル設置による太陽光発電を行うとき、従来多かったやり方だと、山の斜面の木を切り倒して斜面にパネルを並べる。これでは緑の木々を失うことになる。
中川教授のグループは、遊休地となった元農地を一か所に集め、パネルを設置しました。パネルの下には、日陰を好んで成長する薬用の朝鮮人参やドクダミを栽培して、太陽エネルギー生産と農業生産を循環よく実行して、土地活用を果たしている、というお話でした。
人口減少によって、地方の農業の担い手が減っていることを嘆いてばかりいても、先に進まない。でも、環境を破壊することなく、農業とエネルギー生産を同時に行う試みに、感心しました。
そのほか、国際弁護士として活躍するネパール人(少数民族ネワール族)の方とお話しできたり、ネパールに少数民族が母語で学ぶ学校を建てる話など、興味尽きない発表を聞くことができました。
世の中で活躍するさまざまな分野の方のお話をうかがうと、日ごろチマチマと目先のことで動いている自分自身の生活範囲が、地球規模に広がった気がしてきました。
う~ん、ぼけている暇はない。しかし、昼寝はしたい。
冬眠も春眠も暁を覚えないHALですが、よい講義を眠らずにちゃんと聞いて、帰りの電車ではしっかり睡眠をとりました。
近所に咲くミツマタの花
<つづく>