事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「続・深夜食堂」 (2016 東映)

2016-12-11 | 邦画

他地区ではすでにファーストランを終えているけれど、鶴岡まちキネでは12月10日が封切り。初日の一回目に見てまいりましたよ。昨夜の酒がまだ残っているというのに鶴岡まで全速力(いろんな意味で法律違反)。

8割方うまっている客席は、わたしと同世代かそれ以上の方々とお見受けしました。朝8時40分という、午前十時の映画祭もびっくりな時間もなんのその。早起きなわたしたちにはむしろ好都合(二日酔いの日をのぞく)。まちキネもそこはわかっているんでしょうね。

前作と同様、久しぶりの東映三角マークだとしみじみ。監督松岡錠司、主演小林薫、そして常連客たちも同じ布陣。みんないつもどおりであることが強みだ。

今回も三つのチャプターから成る。「焼肉定食」で河井青葉、佐藤浩市(わざと薄っぺらい感じを出すあたり、うまい)、「焼きうどん」でキムラ緑子、池松壮亮、「豚汁定食」で渡辺美佐子、井川比佐志らが演技合戦。

池松壮亮(彼の映画を観るのは今年4本目だ)が、蕎麦屋を守る未亡人(キムラ)の息子として、蕎麦ではなく焼きうどんを深夜食堂で食べるあたり、年上の恋人(小島聖)との関係性を象徴していて芸が細かい。

前作で泣かせたひかるちゃん(多部未華子)が元気だったのがうれしいし、なぜ深夜食堂のお品書きには豚汁定食だけが書いてあるかがオリジナルストーリーで描かれ、これまたグッとくる。

タクシードライバーの片岡礼子、刑事の篠原ゆき子が激しく魅力的でさすが。みんないつもどおりではあるけれども、たとえばおかわりシスターズのひとり、須藤理彩は夫を亡くすなど、役者たちはそれぞれ人間としての重みを増している。

このシリーズ、もっともっと続いてほしい。映画の常連客として、ぜひにとリクエスト。

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日本の警察 その88 「教場2」 長岡弘樹著 小学館

2016-12-10 | 日本の警察

その87「孤狼の血」はこちら

いつも通っていた本屋が閉店して半年。やはりさみしい。いやそれ以上に、久しぶりに山形市の大きな書店(八文字屋ですけど)に入ったときに、逆に何を買っていいのかわからなくなってしまった。むかしは夢のような時間を過ごせたものだが。書店通いも、ひとつのスキルなんでしょう。勘がはたらかなくなってしまったのだ。わたし向きの本を探す勘が。

ということでおなじみの作家の新作につい手が伸びる。えーと米澤穂信の古典部シリーズの新作(「いまさら翼といわれても」)が出たんだよな……ありゃ、もう売り切れちゃったのか!ジェフリー・ディーヴァーのキャサリン・ダンスものの新作(「煽動者」)はある!どわ、相変わらず高いよ文春(2592円)。

ということで山形県出身&美男(ここまでわたしと共通しているとは)作家の長岡弘樹の新作「教場2」に落ち着きました。警察学校を舞台にするという異色シリーズ二作目。

今回も教官の風間は神のごとく、同時に悪魔のように生徒たち(すでに給料をもらっていて、それぞれ「巡査」と呼ばれている)の上に君臨する。隻眼であるハンデを、心眼で見通す。

しかし前作にくらべて、ちょっと優しくもなっている。しかもなんと彼にあこがれる女生徒まで出現して……あああちょっとネタバレになってしまう。特にラストの短編「奉職」では、警察を誰よりも恨んでいるはずの風間が、なぜ教官でありつづけるのかの回答が明かされ、感動させられる。

前作につづいて「警察」であると同時に「学校」の物語。

あいかわらず、日本の警察がどのようなポリシーで事件捜査にあたるかが、指導という形で開陳されていてうれしい。これってミステリの種明かしを正々堂々とやっていいということだもんね。

例によって、この作品を映画化したらのキャスティングを夢想してみよう。風間の役は…………常識的には佐藤浩市か役所広司なんだろうけど、またしてもわたしはここに木村拓哉はどうなんだと主張してしまう。読んだ人なら納得してもらえるはずだ。

その89「慈雨」につづく

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「51番目の密室」早川書房編集部編 ハヤカワ・ミステリ

2016-12-08 | ミステリ

いろんなミステリ・ベストテンが発表される時期なので、急いで今年のミステリを特集しております(笑)

天外消失」で読者をうならせたミステリ傑作短編集第二弾。特に名高いのがクリスチアナ・ブランドの「ジェミニイ・クリケット事件」。わたしはむかし彼女の短編集「招かれざる客たちのビュッフェ」で読んでいるはずなんだけどすっかり忘れてました。

ましてや、こちらが米国版で「ビュッフェ」の方が英国版、そしてエンディングが違っているなんてことはさっぱり(笑)。にしてもみごとな作品。底意地の悪いあたりはさすが黄金時代のイギリス女性ミステリ作家の本領発揮ですか。

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「もう年はとれない」「もう過去はいらない」 ダニエル・フリードマン著 創元推理文庫

2016-12-08 | ミステリ

 

最後には常に拳銃にものをいわせて事件を解決してきた元刑事。ダーティハリーなみにクリント・イーストウッドが似合いそうな主人公だけれど、なんとまもなく90歳という設定が泣かせる。同じイーストウッドでも、ハリー・キャラハンではなく、「人生の特等席」「グラン・トリノ」のジジイの方でした。

高齢者がなぜ主人公になりにくいかといえば、まずアクションが成立しない。それどころか恋愛もありえないので、読者が感情移入しにくいわけだ。そのあたりは作者も十分に意識的で、作者の分身的存在の映画評論家をたびたび登場させて、高齢キャラ設定の苦労を解説してくれます。

ミステリとして、お宝探しや意外な真犯人などの趣向がこらしてあってけっこうなのだけれど、それ以上に主人公がユダヤ人である部分が興味深い。警察という封建的な業界で、ユダヤ人であることはそれだけで息ぐるしい。そのために主人公は清廉な正義漢であることを放棄しなければならなくなるあたり、深い。

設定も泣けるのよ。彼は(まだ事情は明かされないが)ひとり息子を失っている。この一節だけは紹介しなくては。

ビリー(孫)が生まれた夜、ブライアン(息子)は青い毛布に包んだ赤ん坊を抱いて分娩室から出てくると、ローズ(妻)とわたしに見せてくれた。

「やあ、坊主」わたしは言った。「じいちゃんだぞ。お前の世話を手伝ってやるからな」

「この子がかわいくてたまんないよ、父さん」そう言ったブライアンの目もうるんでいた。

「人生に生きる目的が欠けていると感じることがあったとしても、そんなふうに感じることはこの先もう二度とないのがわかっただろう」わたしは息子の肩を握りしめた。

「朝ベッドから起き出す原動力がこれだ。残酷で気まぐれな世の中をなんとかしようと努力する理由がこれだ。この子を守ること、お前がいるのはそのためだ。安全に過ごさせて、ぜったいに一人じゃないとちゃんとわからせてやるんだ」

「そうだね、父さん。そのとおりだと思うよ」

わたしは上着のポケットからウィスキーのフラスクを出した。大きく一口あおって、フラスクを息子に渡した。「ああ、おれはその気持ちを知ってる」

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明細書を見ろ!2016年12月期末勤勉手当号 差額の支給日を推理する。

2016-12-07 | 明細書を見ろ!(事務だより)

2016年11月号「iDeCo」はこちら

人事委員会勧告が10月に出され、どうやらクミアイとのあいだで妥結して、いま開会中の県議会に条例案

「議第146号 山形県職員等の給与に関する条例等の一部を改正する条例の設定について」

が提出されています。内容は、いいこともあれば(月例給0.7%、勤勉手当0.1月分引き上げ)、そうでもない部分(配偶者の扶養手当を来年から段階的に引き下げる)もあります。

県議会は四会派(自民、県政クラブ、共産、公明)とも、知事と正面衝突するつもりはないので(ま、自民はいろいろとあるようですが)条例がそのまま成立する可能性は高いのですが、問題は議決の時期。今年は12月21日の水曜日に予定されています。

となれば、県庁の掲示板に翌日以降に官報が掲示されて(もちろんネットでもチェックできます)……うーん、その週のうちに差額が支給されるのは厳しそうですね。23日の金曜日は天皇誕生日だし。

いくらなんでも28日の御用納め(死語)に支給はないと思うので(願望)、26日(月)か27日(火)のいずれかということになると予想(無責任)。まさか去年のような越年はないでしょうし。

画像は「聖(さとし)の青春」(角川)
出演:松山ケンイチ、東出昌大、リリー・フランキー
難病ものは苦手。まもなく死にゆく将棋指しの息子が、夜半にパチリパチリと盤に駒を置く音が聞こえ、母親(竹下景子)は涙を流し……泣けないわけない。壮絶に手間のかかったそっくりショーでもあります。大増量中の松山ケンイチもみごとだけど、あの東出昌大が羽生善治を演じておみごと。寝ぐせだけでなく、駒の置き方までそっくり。

2016年12月号「差額の支給日を推理するPART2」につづく

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「アメリカン・ブラッド」 American Blood ベン・サンダース著 ハヤカワ・ミステリ

2016-12-06 | ミステリ

まだ二十代のニュージーランドの青年が、アメリカを舞台に描くクライムアクション。なんて達者なんだろう。

かつて潜入捜査によってマフィアのボスを葬り去り、証人保護プログラムによって別人としての生活を送っている元刑事。異常な性癖を隠そうともしない殺人鬼。生活者としての常識にさいなまれながらプロとして仕事をこなす殺し屋。息子を亡くしたことで精神が不安定でありながら、有能さを隠すことができない麻薬課の女性刑事……んもうみんなキャラ立ちまくり。

チャプターごとにそれぞれの一人称で語られるあたりがいかにも正統派ハードボイルド。主人公が、ある女性を救おうと表舞台に復帰する動機があまりにも薄弱で、だからこそすばらしい。

耐えて耐えて耐えて、そして最後に相棒と決死の場に向かう……ってこれ東映任侠映画じゃないか。健さんと池部良ですかっ。「アメリカの血」であると同時に日本人の血もたぎらせてくれる興奮の書。

わたし、山形のホテルで一気読み。ひとりで泊まっているのにダブルの部屋だったさみしさ(笑)を、振り払ってくれました。ブラッドリー・クーパー主演で映画化とか。相棒は渡辺「謙さん」にしてください。

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「永い言い訳」 (2016 アスミックエース)

2016-12-05 | 邦画

およそ一筋縄ではいかない映画でした。「ゆれる」「ディア・ドクター」「夢売るふたり」などの西川美和監督は小説家としても有望株で、この作品の原作で直木賞候補になっている。その先入観があるからか、画面の隅々にまで彼女の意思がきっちりつまっているのがひしひしと。

たとえばオープニング。美容院を経営している妻(深津絵里)に、自宅で髪を切ってもらっている小説家キヌガササチオ(本木雅弘)。夫のスマホに不倫相手からメールが入る。横目で見る夫。妻はそのまま友人とバス旅行に出かける。急いでスマホを手に取る夫。そこへ急にもどってくる妻。スマホを放り投げる夫。テーブルの上でストラップだけが揺れている……妻はそれを見ているのか見ていないのかも判然としない。夫婦の微妙な関係がこのシーン一発で理解できる。

たとえば髪の毛。山形でのバス転落事故で妻を亡くし、妻以外にしばらく切ってもらっていない夫の髪の毛は、ラストに向かってどんどん伸びていく。彼だけでなく、面倒をみることになった妻の友人の子どもたちの髪の毛も、彼らの心象風景のように描かれる。

妻の死に泣けない、うすっぺらいことしか言えない小説家を、本木雅弘はあいかわらず達者に演ずる。意外なほどゆるんでいる身体がどんどん締まっていくのも計算だろうか。苦手な深津絵里も、腹にいちもつ抱えた妻の役にぴたりとはまっている。

しかしそれだけだと観客はしんどいので、そら恐ろしいほどに自然な演技の兄妹の存在が画面を救う。とにかくめちゃめちゃにかわいいのだ。そんな兄妹を助けることで、小説家も次第に救われていく……という展開にもならないあたりがこの映画の意地の悪さ。でもラストは感動につつまれる。やるなあ。

どんな登場人物も正解にたどりつけないなかで、あの池松壮亮が生活者としてしっかりしていたり、黒木華が不倫相手として淫らだったりする展開もおみごと。人間のもろさと地震を関連づけるなど、うなる。ところで、マキタスポーツ木村多江はいったいどこに出てたんですかっ!

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真田丸 第四十八回「引鉄」

2016-12-04 | 大河ドラマ

第四十七回「反撃」はこちら

前回の視聴率は意外なほど回復して15.3%。BSで見ている人も異様に多いそうなので人気がないわけでもないんだな。今日もその面白さを痛感した夜。

裸城になってしまい、正面から戦っては勝ち目がなくなった豊臣勢。となればやることはひとつ、テロだということで佐助の出番。暗殺に成功したかに見えたのに家康お得意の影武者だったと。

ここで本物と影武者が入れ替わったりすればそれは隆慶一郎の「影武者徳川家康」の世界で秀忠と激突することになるんだけど、大河ではもちろんそうはなりません。

今回のタイトルは「引鉄(ひきがね)」。まさしく銃の性格を象徴している。「銃爪」でもいいんだけどそれは世良公則。今夜こそー、お前をぉ落として見せぇる!って歌だったんだけど、そこまで露骨だと銃爪ってなんのシンボルだったんですか(笑)

千利休の茶室跡から、騎馬武者用の新式銃が出てくる。利休がはたして何を考えていたものだか。標的は秀吉か、あるいは夏の陣を予想していたか。

つくづく、面白い回でした。戦勝を経験した幸村が、真の意味で智将として動く。まわりも幸村を知将として遇する。こういう場面をもっともっとやってくれればうれしかったんだけど、さすがに史実がそれを邪魔する。

父の昌幸が魅力的だったのは、失うものがあったからなのね。ようやく、幸村にも命をかけて守るものができてきた。死に急ぐだけの若僧には大河は背負えないもんなあ。来週は死を覚悟した幸村の回になるらしいけど(T_T)

一週ごとにメイクがお年寄りになっていく家康の凄み。だんだん本多正信(近藤正臣)とキャラがかぶってます。今回も視聴率は15%台キープかと。

第四十九回「前夜」につづく

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「君がいない夜のごはん」 穂村弘著 NHK出版

2016-12-04 | 食・レシピ

あの穂村が食についてのエッセイを。自分が他人とどれだけ違っているのか確信がもてずにいつもおびえているあの人が(笑)。

もっとも個的な行為である食事(セックスはきわめて対人的行為ですもんね)のことなので、その怯えは絶好調。ファンにはたまらない一冊となっております。

にしても、文士が傲岸に食について断定していたころから幾星霜。日本の食エッセイはここまで進化(退化?)しました。大好き。

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「穂村弘の、こんなところで」 穂村弘著 KADOKAWA

2016-12-03 | 本と雑誌

資生堂のPR誌(の範疇を大きく逸脱しているけれど)「花椿」に連載された、穂村弘がホスト、撮影が荒木経惟というとてつもなく贅沢な対談集。

花椿かあ、むかし母親も化粧品を買ったときにもらってきていたような。まだ出ているんだな。なんと全盛期には680万部も発行していたという。へー。

この、41人というこれまたとんでもない数の対談相手のなかには、“わたしの範疇”ではない人も多く、漫画家の渡辺ペコ、瀧波ユカリ、エッセイストの平松洋子、メレ山メレ子など、ひょっとして知らないでいたことが損なのでは、と思わされた。なにしろ穂村作品への彼女たちのつっこみがみごとだし。

それにね、荒木経惟(最後の対談相手でもある)の写真がいつもながらすばらしいんですよ。女優は女優として美しいのはもちろん、被写体として慣れていないはずの女性たちが激しく魅力的。これはもう、よほど被写体を、そして写真を撮るという行為を愛していないとこうはいかない。

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