ホタルの独り言 Part 2

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ゴマシジミ属

2018-08-19 19:03:06 | チョウ/シジミチョウ科

 ゴマシジミ属(Genus Phengaris)は、日本をはじめ、朝鮮半島、中国から中央アジアを経てヨーロッパ中央部まで分布するチョウである。日本国内においては、以下の2種が生息しており、ゴマシジミは、北海道と本州、九州(四国では確認されていない)に分布し、それぞれ亜種として分類されている。オオゴマシジミは、北海道渡島半島および本州東北~中部地方の高山に分布し、西限は飛騨山脈であるが、いずれも生息場所は極めて局所的である。

ゴマシジミ属 Genus Phengaris

  1. ゴマシジミ Phengaris teleius (Bergstrasser, 1779)
    • ゴマシジミ 北海道・東北亜種 Phengaris teleius ogumae (Matsumura, 1910)
    • ゴマシジミ 本州中部亜種 Phengaris teleius kazamoto (H. Druce, 1875)
    • ゴマシジミ 八方尾根・白山亜種 Phengaris teleius hosonoi A. Takahashi, 1973
    • ゴマシジミ 中国・九州亜種 Phengaris teleius daisensis (Matsumura, 1926)
  2. オオゴマシジミ Phengaris arionides (Staudinger, 1887)
    • オオゴマシジミ Phengaris arionides takamukui (Matsumura, 1919)

 ゴマシジミ属は、世界的にも絶滅が危惧されるチョウで、国内のゴマシジミは、絶滅危惧ⅠA類(環境省カテゴリ)、オオゴマシジミは、準絶滅危惧(環境省カテゴリ)に選定され、いずれも多くの自治体のREBにも絶滅危惧種として記載している。理由は、その特異な生態にある。  ゴマシジミは「ワレモコウ」、オオゴマシジミは「カメバヒキオコシ」を宿主植物として、若齢幼虫はその花芽を食べるが、4齢になるとアリの巣の中に移り、幼虫はそこで、アリの幼虫を食べるか、またはアリの成虫から口移しで餌をもらうのである。両種はいずれもシワクシケアリ(Myrmica kotokui)に寄生することが明らかになっており、その存在が不可欠なのである。  ただし、シワクシケアリは、形態では判別できない4つの遺伝的系統(L1~L4)に分化しており、遺伝子解析の結果、ゴマシジミおよびオオゴマシジミの生息地には,それぞれシワクシケアリの L2系統 および L3系統 が分布すること、更にゴマシジミおよびオオゴマシジミ幼虫が実際に寄生していた巣のアリ系統も、それぞれ L2系統 および L3系統 であることが明らかになっている。  シワクシケアリの生息環境は、湿った土の存在が必要条件であり、乾燥化や植物群落の遷移が進むとシワクシケアリはいなくなり、結果としてゴマシジミとオオゴマシジミは絶滅してしまうので、草原の管理が保全には大切になっている。撮影者も、むやみに草地に入り込むのは慎まなければならない。

 ゴマシジミ属の減少は、「捕獲・採集」が「開発や環境悪化」に次ぐ大きな要因となっていることがわかっている。自身のコレクションやオークションで販売目的で、産地に採集者が集まり、乱獲してしまうのである。  ゴマシジミ属は、その特異な生態から生息地が極めて限られ、ゴマシジミに至っては翅表の斑紋に地域性があり、掲載写真のように青い斑紋を持つ(青ゴマ)個体がいるため、採集者は「採れるだけ採る」のである。長野県と山梨県の一部に生息する「ゴマシジミ本州中部亜種」は、昨年「国内希少野生動植物種」に追加指定され、許可なく採集することはできなくなった。許可を受けずに捕獲したり、譲渡したりすると5年以下の懲役や500万円以下の罰金が科される。そのため、生息地においては、安定的な発生が見られるが、オオゴマシジミは採集の法的規制がない。掲載した写真は2014年に撮影したが、その後、採集圧により完全に絶滅している。撮影当日は、狭い生息場所に、カメラマン(筆者)一人に採集者4人。撮影後に、全てのオオゴマシジミが採られてしまった。長野県、栃木県、新潟県、群馬県、福島県などの生息地も採集圧により激減している状況である。

 ゴマシジミ属のみならず、絶滅危惧種については、捕獲・採集圧(商業目的や鑑賞目的の乱獲・盗掘)が以前から問題になっており、数少なくなってしまった種に対して壊滅的な打撃となることが指摘されている。こうした状況を踏まえ、環境省では、捕獲・採集が与える影響の大きさについて広く国民一般向けの普及啓発を目的としたチラシ及びポスターを作成し、都道府県や関係団体等の協力を得て全国的に配布し、また、個々の種の状況に応じて種の絶滅を回避するため、今後、保護増殖事業の実施や生息地等保護、区の設定を検討するとしているが、まずは採集できない法的規制を早急に取らなければ、現状は変わらない。

 掲載写真は、すべて過去に撮影したものだが、これまで個々のブログ記事にそれぞれ掲載していた。今回それらをまとめ、ゴマシジミにおいては、青ゴマの開翅、交尾、産卵も掲載した。

参照:絶滅危惧種の捕獲・採集圧に関する普及啓発チラシ及びポスター - 環境省野生生物が悲鳴をあげている - 環境省

  1. 参考文献
    • 上田昇平 日本産ゴマシジミ類のシワクシケアリ種内系統に対する寄主特異性 Scientific Reports volume6, Article number: 36364 (2016)
    • 巣瀬司ほか, 2003. 22. 愛知県. 日本産蝶類の衰亡と保護第5集. 日本産蝶類県別レッドデータ・リスト(2002 年): 82-87. 日本鱗翅学会, 東京.
    • 平賀 壯太 オオゴマシジミの宿主アリの再同定について やどりが2003年 2003巻 196号 p.31-34

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ゴマシジミ(青ゴマ)の写真

ゴマシジミ(青色タイプのメス) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 500(撮影地:長野県松本市 2017.8.11 9:32)

ゴマシジミ(青ゴマ)の写真

ゴマシジミ(オス) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 500(撮影地:長野県松本市 2017.8.11 9:32)

ゴマシジミの写真

ゴマシジミ(暗褐色タイプ) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 400(撮影地:長野県松本市 2017.8.11 9:32)

ゴマシジミ(交尾)の写真

ゴマシジミ(交尾) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 640 +2/3EV(撮影地:長野県松本市 2015.8.01 9:30)

ゴマシジミ(産卵)の写真

ゴマシジミ(産卵) Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/320秒 ISO 320(撮影地:長野県松本市 2014.8.23 11:21)

オオゴマシジミの写真

オオゴマシジミ Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X / 絞り優先AE F8.0 1/1000秒 ISO 3200(撮影地:岐阜県高山市 2014.8.03 7:54)

オオゴマシジミの写真

オオゴマシジミ Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/800秒 ISO 2500 -2/3EV(撮影地:岐阜県高山市 2014.8.03 8:11)

オオゴマシジミの写真

オオゴマシジミ Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F3.5 1/500秒 ISO 200(撮影地:岐阜県高山市 2014.8.03 8:17)

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3 コメント

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ゴマシジミの保全 ()
2018-08-19 20:31:10
ゴマシジミの保全は非常に困難です。採集禁止にしてワレモコウが生える草原を維持してもいなくなります。ワレモコウがある草原を維持しても、乾燥化が進むからです。北杜市の保全地でもいなくなりました。広島県の事例では、採集圧がない場合でも、草原が維持され、ワレモコウが維持されてもいなくなった場所が数多くあります。南からどんどんいなくなっているのを見ると、これは温暖化が影響していると思います。
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乾燥化とゴマシジミ ()
2018-08-19 20:34:48
乾燥化が進むとゴマシジミがいなくなるのは、シワクシケアリが別のアリに変わってしまうからです。坂本さんたちの研究で、シワクシケアリの中、湿った土を好む系統にのみゴマシジミは寄生できるのだそうです。
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ゴマシジミの保全 (ホタル)
2018-08-19 20:56:48
辻さん、コメントありがとうございます。
ゴマシジミの保全は確かに難しいと思います。ブログの記事にも書きましたし、辻さんもおっしゃるように、シワクシケアリの生息環境は、湿った土の存在が必要条件であり、乾燥化や植物群落の遷移が進むと、ゴマシジミシが依存するワクシケアリのL2系統 および L3系統はいなくなります。
ワレモコウがある草原の維持には、適切な管理が大切なのだと思います。温暖化による乾燥化と植生遷移もコントロールしなければならないと思います。
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