ゴマシジミは、シジミチョウ科ゴマシジミ属(Phengaris属)に分類されるチョウで、日本国内では以下の4亜種が生息しているが、いずれも環境省RDBで絶滅危惧種として選定している。
- ゴマシジミ北海道・東北亜種 Phengaris teleius ogumae (Matsumura, 1910) /準絶滅危惧(NT)
- ゴマシジミ本州中部亜種 Phengaris teleius kazamoto (H.Druce, 1875) /絶滅危惧ⅠA類(CR)
- ゴマシジミ中部高地帯亜種 Phengaris teleius hosonoi A. Takahashi, 1973 /絶滅危惧Ⅱ類(VU)
- ゴマシジミ中国・九州亜種 Phengaris teleius daisensis (Matsumura, 1926) /絶滅危惧ⅠB類(EN)
この中で、長野県と山梨県の一部に生息する「ゴマシジミ本州中部亜種」が、本年、「国内希少野生動植物種」に追加指定された。<参照:ゴマシジミ(青ゴマ開翅)>
環境省は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」に基づいて、絶滅のおそれのある野生動植物種を「国内希少野生動植物種」に指定して、保護活動を実施しており、本年、ようやくゴマシジミ本州中部亜種が、「国内希少野生動植物種」に追加指定された。「国内希少野生動植物種」に指定されると、個体の捕獲や譲渡し等が原則禁止となるほか、必要に応じて生息地等保護区の指定や保護増殖事業を実施することもできるのである。指定理由として次の内容が挙げられている。
- 種の特徴
- 採草地や農周辺のなどおもに刈りどによって人為的維持される半自然のスキ草原に生息するが、産卵植物であワレモコウが生育すると同時に、寄主アリであるクシケアリの一種であるアリが生息していること必要である。
- 分布域
- 本州の東北~関中部に広く分布していたが、現在は 山梨県と長野県に分布する。
- 減少要因
- 開発および管理放棄に伴う生息地の減少、 愛好家等による採取。
- その他
- インター ネットオークションにて 、成虫標本の取引が確認 されている。
- 長野県松本市の特別天然記念物に指定されている。
- 保全団体が生息域内の保全を行っている。
ゴマシジミの生活史は特異で、東北地方以北はナガボノシロワレモコウに、それ以外はワレモコウのそれぞれ花穂に産卵する。
(中部高地帯亜種は、カライトソウも食している。)孵化した幼虫はそれらの花穂を食べて秋に3齢まで成長する。4齢(終齢幼虫)になると食草から地上へ降り、シワクシケアリによって巣に運ばれてシワクシケアリの幼虫や蛹を餌にして越冬し、翌年の夏にアリの巣の出口付近で蛹化・羽化して地上に出るのである。
ゴマシジミは、北海道と本州、九州(四国では確認されていない)に分布するが、生息地は極めて局所的であり、生息地においても減少している場所が多い。ゴマシジミは、寄主植物である「ワレモコウ」と寄主アリである「シワクシケアリ」の存在が不可欠で高い寄主特異性を示すが、1頭のゴマシジミの幼虫は、200個体以上のシワクシケアリを食べると言われており、ゴマシジミ個体群の維持にとっては、特にシワクシケアリの生息状態が極めて重要と言える。そのシワクシケアリの生息環境は、湿った土の存在が必要条件であり、乾燥化や植物群落の遷移が進むとシワクシケアリはいなくなり、結果としてゴマシジミも全滅してしまう。そのためには、「里山」の良好な維持管理が必要で、「里山」の放棄・放置は減少の原因の1つであると言える。
日本のみならず、ゴマシジミ属はヨーロッパにおいても生息域が急速に減少しており、特にゴウザンゴマシジミ Phengaris arion (Linnaeus, 1758)においては、ヨーロッパ全体で危機に瀕しており、イギリスを除くゴウザンゴマシジミが生息するすべての国で、減少の一途をたどっていると言われている。(イギリスでは1979年の絶滅の後、コーンウォル州とデボン州で新産地が見つかり、保全に成功している。)
長野県松本市では、すでに特別天然記念物に指定しており、同市は、今後も保護活動などを強化していく方針で、許可を受けずに捕獲したり、譲渡したりすると5年以下の懲役や500万円以下の罰金が科される。一方、山梨県の生息地では、特に保護保全に関する取り組みは行われておらず、それゆえ、これまで数多くの採集者によって乱獲されていたが、「国内希少野生動植物種」に追加指定されたことで、採集者は捕ることができなくなった。
以下には、長野県で撮影した絶滅危惧ⅠA類であるゴマシジミ本州中部亜種を掲載した。
参考文献
蝶と蛾. 44, (4), pp. 157-220, 1994-02-28. 日本鱗翅学会/国内希少野生動植物種に追加する種の概要/環境省
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