新国立劇場の小劇場で演劇「ウィンズロウ・ボーイ」を観ました。
舞台は応接間なんでしょうか、ずっとウィンズロウ家の一室です。その一室に、家族を中心にいろいろな人がやってきてはいろいろな会話をするという、とても落ち着いた戯曲です。ストーリーは簡単で、窃盗の濡れ衣で軍の学校を退学させられた息子の無実を晴らすために、多くの犠牲を払いながらも、父親を中心に家族が軍と戦うというものです。冷徹で有能な弁護士は裁判に持ち込めるのか、持ち込んだ裁判で勝てるのかと、途中から物語に引き込まれます。
途中からというのは、退学させられた子供が帰宅したときの、メイドとの絡みがあまりにも大袈裟で、かなり引いてしまったことと、そのあとで登場した兄の独白がまた大袈裟すぎて更に引いてしまったことの2点から、最初の30分ほどは帰りたくなってしまったからです。そのあたりの過剰な芝居を我慢してやり過ごせば、その後の展開で人々の絡み合うダイナミズムが大きなうねりとなって芝居全体を高揚させていくのを感じることができます。
昨年の9月に渋谷のBunkamuraで観た宮沢りえさんと大竹しのぶさんの出た「火のように淋しい姉がいて」という舞台を見ましたが、役者の精神性を描いただけの、いわば楽屋落ち的な戯曲で、本当につまらなかった。等身大の人間が観劇するわけですから、等身大の人間を演じてもらわないと、問題意識や感性が共有できず、とてもついていけません。あれに比べれば百倍マシでした。
権力に逆らうことは人間の生活にとってどれほど損なのか、長いものに巻かれることがどれほど得なのか、それらによって何を得、何を失うのかという、共同体の中での個人の振る舞いについての深い考察が、戯曲を厚みのあるものにしています。
開場の18時過ぎに入場して、終了したのが21時50分。4時間近く座り続けたおかげで、お尻がかなり痛くなりました。しかし観劇中はそんなことはまったく気にならないほど集中して観ることができました。キャサリン・ウィンズロウ役の森川由樹さんの演技がとても自然で、出演者の中でもっとも私の好みの演技でした。イギリス的なのかどうかわかりませんが、シニカルなジョークなどもそこかしこに飛び出して、笑えるところや泣けるところなど、いろいろ鏤められた愉快なお芝居でした。観た後に気持ちがとてもすっきりして、日常のつまらない問題がどこかに飛んでいきます。