三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「パーフェクト・ケア」

2021年12月06日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「パーフェクト・ケア」を観た。
 
 悪党と被害者と無能な裁判官だけが登場する。善人はほとんど登場しない映画である。悪党は合法マフィアと非合法のマフィアだ。いずれも血も涙もないが、必要に応じて涙を流すフリをする。ほぼ白人しか登場しない映画で無能な裁判官を黒人にしたのはどうしてか。悪意を感じてしまうのは当方だけではないと思う。
 裁判所の命令は絶対だ。期限内に異議申立をしても、命令が覆ることはない。裁判官も役人だから、自分の間違いは絶対に認めない。認めるのは死ぬときだ。そういえば日本でも誤審を認めて自殺した裁判官がいた気がする。
 
 介護ビジネスの業者が法定後見人になるというアイデアは素晴らしい。しかし介護ビジネスを営んでいれば合法的な後見人になれて、財産を管理することができるというのは本当だろうか。日本でも同じことができるのだろうか。もしかすると既にやっている介護事業者がいるのだろうか。業者と医者と裁判官が結託すればどの国でも出来そうな気がする。邦題の「パーフェクト・ケア」は身柄を押さえて財産も管理するという意味で、原題よりも秀逸なタイトルだ。
 
 日本にも法定後見人という制度はある。成年後見制度だ。親族でなくても市区町村長や検察官が申立をすることが出来る。裁判官や検事を巻き込むのは難しそうだから、介護事業者は医者と市区町村長に金を渡して結託すればいい。金持ちの老人を狙って申立をし、財産を管理する。高額の介護費用を請求して、管理している財産から合法的に振替える。財産がなくなる頃に死んでもらえば部屋が空く。
 
 生活保護制度を悪用した貧困ビジネスというのがあるのは有名な話だ。住所がないと生活保護を貰えないから、アパートを借りてひとり1畳程度のスペースに分割してホームレスを住まわせて住民登録をする。支給日にはホームレスを行列させてひとりずつ現金で受け取らせて、住居費として巻き上げる。ホームレスの手元に残るのは1ヶ月生きていけるかどうかのはした金だ。それでもないよりはいい。取り締まるのは生活保護を支給するのと同じ役人だが、相手はヤクザだ。暴力を恐れて逆らわない。警察の組対係が取り締まればいいのだが、これは民事だとして取り合わない。警察の中にはヤクザと裏でつながっている人間もいる。持ちつ持たれつだ。しかし忘れてはならないのは、生活保護費は国民の税金だということである。
 
 主人公マーラ・グレイソンの永遠にうまくいきそうな介護ビジネスだが、序盤からずっと割り切れない印象が続く。この悪女はいつ罰せられるのか。あのアホな裁判官がいる限り、悪女のやりたい放題が続くのだろうかと想像して、嫌な気持ちになる。ストーリーが進んで悪女の運命が二転三転しても、やっぱり嫌な気持ちは続いた。
 どう考えてもグレイソンは日本の貧困ビジネスのヤクザと同じなのだ。窮地に陥っても詐欺師らしく知能で乗り切るのかと思いきや、暴力には暴力で対抗する。合法ヤクザから非合法ヤクザへの転落である。ジムで鍛えているシーンはその伏線だったのだが、それがまた不愉快きわまりない。不愉快な気持ちは映画を観終わってもしばらく消えなかった。

映画「悪なき殺人」

2021年12月06日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「悪なき殺人」を観た。
 
 不思議な作品である。登場人物ごとにエピソードがあって、それぞれの登場人物に感情移入する。人間の弱さを描いた作品で、その弱さに感情移入してしまうのだと思う。
 山崎ハコは「流れ酔い唄」で ♫誰でも弱いうそつき ♫ 弱いほどに罪深い♫ と歌った。当時二十歳の山崎ハコが人の世の何を見て、この唄を作ったのかは不明だ。多分、本人に聞いてもわからないだろう。
 アリスは独善的だが悪意はなく、奉仕の気持ちがある。無口で真面目でおそらく巨根のジョゼフが好きだ。アリスはセックスが好きなのだ。一方のジョゼフは人間が苦手である。会話が不得意なのだ。無口な女性がいたらと思う。アリスの夫のミシェルは冴えない中年の農場主で、多分アリスとはセックスレスだ。だからネットに慰めを求める。
 フランス映画の「アデル、ブルーは熱い色」は最初から最後まで強烈なレズビアンの作品だった。アメリカ映画の「キャロル」はケイト・ブランシェットとルーニー・マーラという有名女優二人のレズビアンで話題になった。この2作品を鑑賞していたおかげで、本作品のエヴリーヌとマリオンの雰囲気もあっさりと読めた。性を楽しむだけの筈だったエヴリーヌと、愛をぶつけてくるマリオン。破局は必定だ。
 コートジボワール共和国は貧しい国だ。格差も大きい。人々はいい暮らしだけを求めている。平和や寛容などといった概念は人々の脳裏に浮かびさえしない。若者は仕事がなく、悪事ばかりを考えている。アルマンも例外ではない。同世代の女性に産ませた子供を面倒見ることも出来ない。
 アリスとジョゼフ、エヴリーヌとマリオン、そしてアルマン。それぞれの視点からの物語をつなげていけば、物悲しい全体像が浮かび上がる。性欲に抗いきれない弱さ。誘惑に負ける弱さ。虚栄心のために金を求めてしまう弱さ。虚栄では愛を買えないことに気づこうとしない弱さ。原題の通り、みんな獣と変わらない。
 本作には人の欲望と弱さ。そして誤解がある。行き着く先は悲劇しかない。それぞれの登場人物は他人事ではない。いつ彼らと同じ行動をしないとも限らない。その差が紙一重だということを感じるから、彼らに感情移入してしまう。そして同じ悲劇を味わう。悲しいのはみな同じだ。

映画「スティール・レイン」

2021年12月06日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「スティール・レイン」を観た。
 
 序盤の衛星写真に日本列島がなかったので、沈没したのかと思ってしまった。その後の写真にはちゃんと映っていたので、大きな雲に隠されていたのだろう。
 独島(竹島)が韓国の領土なのか日本の領土なのかは当方はわからないが、本作品では韓国の領土だとする意見が強いように扱われていた。日本の外務省のHPを見ると日本固有の領土だとされている。しかし韓国の領土だという可能性もある。そもそも世界史では領土は絶え間なく変遷している。どちらの国の領土なのかは歴史のどの時点を基準にするかによって変わってくる訳だ。中国はかつての歴史上の領土を取り戻そうとしているという報道がある。朝貢国まで入れるとインドシナ半島のほとんどが中国となる。沖縄も中国だ。
 
 尖閣諸島の領有権の問題は日中国交正常化以来、ずっと棚上げにされていた。国交が成立して相互に経済的な利益が生まれた以上、両国の間に戦争は考えづらく、あえて問題にするべきではないという大人の結論に達した訳だ。ところが東日本大震災の復興もままならないうちの2012年に、当時都知事だった石原慎太郎が尖閣諸島を買うなどという馬鹿げた発言をしたのである。右翼政治家の面目躍如だとでも思ったのだろうか。
 当然、その動きは中国の反発を招いた。尖閣諸島の領有が不問でなくなり、軍事的な問題になってしまった。中国の軍人が反発したのである。独島の問題と同じで、領有権を問題にするのは軍人たちだ。世界的に国家観が安定した現代では、軍人がいるから衝突が起きる。 他国との衝突に対応するのが軍人で、平和が続いてしまうと税金泥棒として非難される。場合によっては人員が削減され、失職する軍人が出るかもしれない。国際紛争は軍人にとって生き残るための唯一の術なのだ。だから軍需産業と一緒になって武器を作り、弾丸や爆弾を消費する。
 
 本作品は朝鮮半島とその近海が舞台だけあって、韓国政府と北朝鮮政府は多面的で複雑に表現されている。日本の描き方も客観的だ。いろんな方面に気を遣いながらの映画製作であったことが伺える。
 主人公はハン韓国大統領で、演じたチョン・ウソンは背が高く筋肉質の二枚目である。ハン大統領は失政もあるが、真面目に職務に取り組んでいる。支持率のために仕事をしていないところに好感が持てる。
 北朝鮮の三代目の若い指導者は実際と違って痩せていて、こちらも真面目に職務に取り組んでいるが、喫煙習慣が残っていたりと、いかんせん時代遅れである。インターネットでどれほど情報を得ても、生活習慣そのものが変わらなければ時代遅れなのだ。北朝鮮問題を解決するのは政治ではなく、文化交流であり経済関係であろう。
 トランプを模したと思われるアメリカ大統領は、実際よりもずっと洞察力があり、状況を瞬時に分析する。一方で、軍事では解決しないと知っているにも関わらず、米韓合同演習を実施する。大統領といえども軍部の圧力をすべて押さえつけられるわけではない。ビジネスマンのトランプは多分、心の底では軍人を軽蔑していたと思う。しかし軍事力は信じていた。
 
 本作品では軍隊も決して一枚岩ではないことを示す。人間の集まりだから当然だ。多様な人間が集まって、能力と適性によって部署に振り分けられる。同じ部署でも能力と適性に差があるのは民間企業と同じである。エキスパートがいて、ジェネラリストがいる。優秀な人と普通の人たちと低能の人がいる。2対6対2の法則は軍隊にも当てはまるだろう。
 北朝鮮海軍の人間関係が潜水艦内の緊迫した状況で描かれる。一蓮托生の潜水艦の中で、対潜哨戒機や他の潜水艦との魚雷戦が繰り広げられる一方で、軍人や要人の争いがあるのだ。これで盛り上がらないはずがなく、後半は目を離せない展開だ。
 韓国のアクション映画は、ハリウッドの一本道の作品と違って、ひねりが効いている。本作品もとても見ごたえがあった。ただハン大統領の知性に欠けた暴力的な奥さんはいただけない。もう少しマシな奥さんにしないとハン大統領が気の毒だ。