映画「美晴に傘を」を観た。
歳を取った昭和の男が主人公とあって、言葉遣いに遠慮がない。口に出すのが躊躇われる「知恵遅れ」という言葉も、平気で口にする。昔からのTPOを重んじて、それに外れることや外れる人を嫌う。
だからといって、本作品が差別的な作品かというと、そうではないと思う。差別の本質は、差別して相手の人格を軽んじるか、差別せずに相手の人格を重んじるかどうかである。言葉遣いの問題に矮小化するのは、差別を形骸化してしまうことになる。
最近は、言葉遣いや態度を研究することで、どうすれば差別していないように思われるか、どうすれば誠意があるように見えるか、誰もがそんなことに勤しんでいる。そういうアドバイスを仕事にしているような人々もいる。そんな連中に頼らざるを得ないほど、社会全体が形骸化していると言ってもいい。中身がないのだ。
本作品は、言葉を大事にしていることがよく分かる。取ってつけたような台詞、表面を飾る台詞を極力排して、登場人物が本音で話しながらも、愛情や優しさが滲み出るような、そういう脚本と演出である。
升毅は、2016年製作の「八重子のハミング」以来の映画主演だが、やや強引なストーリーを演技でねじ伏せているような実力を感じた。この俳優本来の、消えてしまうかのような存在感の淡さに加えて、感情を抑えた渋い演技がとてもよかった。