三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「メタモルフォーゼの縁側」

2022年06月20日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「メタモルフォーゼの縁側」を観た。
映画『メタモルフォーゼの縁側』|大ヒット上映中

映画『メタモルフォーゼの縁側』|大ヒット上映中

17歳の女子高生と、75歳の老婦人―二人をつないだのはボーイズ・ラブ。数々の漫画賞を受賞したあの傑作漫画が芦田愛菜と宮本信子で実写映画化!

映画『メタモルフォーゼの縁側』|大ヒット上映中

 ほっこりするいい作品である。やはり宮本信子は大した女優だ。本作品での市野井雪の役割を完璧に演じ切った。
 芦田愛菜が演じた佐山うららは、何から何まで雪と対照的である。それは二人がレストランで名前を名乗りあったときに、雪がいみじくも言った「晴れている人と降っている人」という言葉に象徴される。
 雪は能動的でポジティブでブレない。しかしうららは受動的でネガティブで毎日がブレブレである。雪との出逢いはうららにとって幸運であった。雪が「応援したくなっちゃう」のはBLの登場人物だけではない。それ以上にうららを応援しているのだ。

 悪人がひとりも登場しない穏やかな作品で、光石研がさり気なく物語の要所を繋げる重要な役を演じている。この人もだんだん名人の域に入ってきた。
 芦田愛菜は、言いかけてやめたり、途中で口をつぐんだり、当世の内気な高校生うららを上手に演じている。こう見えてうららは、時に全力疾走もする頑張り屋さんだ。雪でなくても応援したくなるキャラクターである。
 やっぱり否定よりも肯定が受け入れやすい。否定するうららと肯定する雪。うららの人生を全力で肯定する雪に強く共感した。頑張れ、うらら。

映画「百年と希望」

2022年06月20日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「百年と希望」を観た。
映画『百年と希望』公式サイト

映画『百年と希望』公式サイト

日本共産党の”今”を追ったドキュメンタリー!2022年6月全国順次公開!

映画『百年と希望』公式サイト

 日本共産党のプロパガンダ映画だが、ちゃんとまともなドキュメンタリーになっている。その理由は長回しにあると思う。発言を切り取らずに前後の文脈も含めてひとつのシーンとすることで、発言者の人となりが見えてくる。ドキュメンタリーの王道の手法だ。
 最も多く映されているのは元衆院議員の池内さおりである。この人の主張はわかりやすくていい。主張以上にわかりやすいのが、国民から話を聞くという姿勢だ。従来の枠組みについての質問に従来の枠組みで答えるのは不合理であると、実にわかりやすい主張をする。
 彼女を応援しているのが、社会活動家の仁藤夢乃(にとうゆめの)で、TBSテレビのサンデーモーニングに出演しているのを何度か見たことがある。とても頭がよくて弁が立つ。ただ、既存の抵抗勢力を「おじさん」や「おじさんたち」と一括りに表現するところがあって、個人を救済しようとする彼女が他人を一括りにするのはよろしくない。石原慎太郎の「ババア」と同じである。

 個別の発言についてレビューすると共産党の応援みたいになってしまうのでここでは控えるが、総選挙のときの自民党の当時経産大臣の萩生田光一の選挙応援演説には、その低劣さに胸が悪くなった。こういう人間が当選するのが日本の選挙だ。本作品のタイトルは「百年と希望」だが、こんな日本に希望などあるのだろうか。

映画「スープとイデオロギー」

2022年06月20日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「スープとイデオロギー」を観た。
映画『スープとイデオロギー』

映画『スープとイデオロギー』

『ディア・ピョンヤン』『かぞくのくに』ヤン ヨンヒ監督待望の最新作『スープとイデオロギー』6月11日全国公開

映画『スープとイデオロギー』

「私はアナーキストだからどこの政府も信じないけど」とヨンヒ監督は言う。しかし母がこれほど韓国政府を憎んでいたとは、今度のことではじめて知った。
 ヨンヒ監督の母親は北朝鮮の熱狂的な信奉者だ。その理由がやっとわかったのである。つまり母の北朝鮮への熱狂は韓国への憎悪の裏返しであり、その怒りが国家主義の熱狂に共振したのである。北朝鮮のイデオロギーに共感したのではない。
 母自身もおそらくそのことに気付いている。北朝鮮の政治では、国民はいつまで経っても貧しいままだ。熱狂に任せて北朝鮮に三人の息子を送ったが、決して幸せとはいえない生活をしているに違いない。だから借金をしてまでも、息子たちに仕送りをする。それは母の後悔であり、罪悪感だ。
 ヨンヒ監督は、しばらく母の気持ちが理解できなかった。どうして息子を北朝鮮に送ったのか、還暦前後の息子に何故いまだに仕送りをするのか。今回、済州島を訪れてやっと母の苦しみが理解できた。
 途方もなく苦しい人生だった。済州島での虐殺を目の当たりにした母は、南朝鮮の権力を心の底から憎んだ。そして朝鮮総連の熱心な活動家となる。燃えたぎる憎悪の炎が活動の源となっていた。

 しかしいま、母は明るく笑いながらスープを作る。親鳥のお腹の中にニンニクや朝鮮人参やナツメを詰めて、水でひたすら炊く。多分料理名は参鶏湯だ。滋味と旨味に溢れた料理で、調味料なしでも十分に美味しい。
 恐怖と絶望の体験、南朝鮮の政治権力に対する憎悪、息子たちを北朝鮮に送った悔恨、そして罪悪感。ヨンヒ監督の母は、これらのことを60年以上、一度も口にすることなく黙って耐えてきた。北朝鮮のイデオロギーは母の心を救うことができなかった。しかし熱いスープは母の心の澱を洗い流してくれるかもしれない。ヨンヒ監督はそれを心から願っている。