映画「ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦」を観た。
クラシックの音楽家を主役にした映画は、劇伴に有名なクラシック曲が使われるので、それだけで盛り上がる。本作品の主役であるグスタヴォ・ドゥダメルの指揮は、メリハリをしっかりつけて、楽器同士を競争させたり調和させたりしながら、印象的な演奏をする。
日本では、イルミナート交響楽団の西本智実さんが、同じように強い指揮をする。池袋の東京芸術劇場と渋谷のオーチャードホールのコンサートで聴いた、彼女の指揮する演奏の音色が呼びさまされた。聴覚の記憶はやはり強い。
ウィーンフィルのコンサートは、赤坂のサントリーホールで聴いたことがある。とても澄んだ音色で、これぞ交響楽団の演奏だと感心した。激しい演奏で感情を揺さぶろうとするドゥダメルの指揮とは正反対だが、その後ドゥダメルがウィーンフィルの指揮をしていたとは知らなかった。上品な演奏を続けてきた楽団員には、いい刺激になっただろうと思う。
本作品を観ると、ドゥダメルの恩師であるアブレウ博士が1975年に創設した子供向けの音楽教育機関エル・システマを、ドゥダメルがどれほど大切にしているかがわかる。人は入れ替わったり増減したりするが、エル・システマの音楽は、ベネズエラの子供たちに脈々と受け継がれていていくという彼の希望は、音楽の力で世界を変えられるという、音楽家らしい世界観に基づいている。
独裁政権がベネズエラのオーケストラの演奏を制限することは、彼には断じて許すことのできない暴挙であった。しかし彼が怒りを露わにすることはない。怒りは絶望が生むものだ。彼には希望がある。
実に素晴らしい才能と、生き方である。映画では出てこなかったが、お金の問題や自身の私生活の問題もあるだろう。しかしそれよりもまず音楽だ。最高の演奏だ。こんなふうに生きることができたら、さぞかし楽しいだろうな。